道路構造物ジャーナルNET

第67回 伸縮装置の標準化検討例

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.08.16

1.はじめに

 暑い日が続いております。皆さま、お元気でしょうか?
 新型コロナウイルスの感染が拡大し、オリンピックは閉会したがこの先どうなるのか?
 前回、「新技術」に関して書いたが、何人かの方にご意見をもらったが皆官庁の方であった。思いは同じだというのである。私は、民間からの反論も期待したのだが無かった。陰で言われているかもしれないが、よく言われる、「ニーズとシーズの違い。」という簡単なものではない。民間側が自治体の実態を理解したうえでの実態を見た、営業戦略に欠けているということだ。これがわからなければ、一向に採用されない。まあ、それは相手方のことなので仕方がない。よく、「自治体の実態を教えてくれ」と言う方もいるが、これはタダでと言うわけにはいかない。(笑い)今回はこちら側(官)の問題点を挙げてみよう。

2.そもそも

 インフラメンテナンスについて語るときに、「長寿命化」だとか「予防保全」などと言うことがまことしやかに語られる。しかし、地方の実態として(実は地方だけでない)、明らかに新設当初からの設計不良や施行不良により、劣化の進行が早まっている例も多々ある。完成検査時の受け入れ検査の厳格化や施工の精度向上により、少なくとも、新規完成時には、弱点の無い状態であることも、今後重要なことである。しかし、様々な自然条件や不測の事態において不都合は起きるものである。現在の維持管理は性善説で、「完璧なものを管理している」と言う大きな誤解の下に行われていることになる。これによって、今後管理費は予想よりも増大し、そもそも、補強しても無意味なものもある。
 さらに、すでに劣化損傷が進展し、耐荷力の不足や第三者への被害の懸念がある物が多数ある。さらにさらに耐震化の遅れが顕著である。これは、耐震設計の根本が理解できていないと言う地方の実態も大きく影響している。(これも地方だけではない)つまり。「イザ」と言う時に住民を守れないばかりか、常時においても第三者被害が起こりえると言うことは全国共通の課題となっていると思われる。

 そもそも、耐震補強は終わっているはずではないのか? 特に重要な路線や構造物に関しては?そして、一応はやられているが、おかしな、無意味な耐震化されているものもある。「国土強靭化」と言うけれど・・・・。専門家がしっかりしないと国民の命は守れない。
 インフラメンテナンスにおいては、点検により明らかとなった損傷に対し、計画的に修繕等を実施することで健全性を維持することが建前では有る。しかし、老朽化の進展状況を踏まえると、厳しい財政状況下において、損傷が軽微な段階での維持修繕により延命化を図る「予防保全型管理」が事実上は困難な状況になっていることが自治体の現実である。
 また、今後、人口減少などにより、自治体の財政力が低下していくことや、人員や体制、技術力といった橋梁の維持管理・更新に必要な資源が不足していることなどを踏まえると、すべての橋梁を、現在と同じ管理水準で維持し続けることは困難であり、持続的に橋梁の維持管理・更新に取り組むための「新たなしくみ」を構築していく必要がある。
 最近、検証した劣化したPC橋など見ていると、これまでの橋梁人生の中で、疑問に感じていたこと、が、現実となってきている。そもそも、なぜコンクリート構造物のほうが多いのか?メタルは少ないのか?「将来問題を起こすだろうな!」と思っていた制度、仕事のやり方が、やはり、問題を起こしている。考え方そのものが、維持管理、長期間の運営と言うものを考えておらず、完璧なものを造り、それが永遠に維持されていくと思っている“神話“に近いものを感じている。設計する者、造る者、管理する者、それぞれが責任感をもって挑まねばならない。

 韓国に居た時に、橋梁の事故があり十数人死亡した。すぐに、設計者、施工者、発注者の責任者3人が逮捕され、判決は、「死刑」であった。すごい衝撃であった。まあ、あの国の特徴として、すぐに恩赦となるのだが、それぐらいの責任感は必要なのかもしれない。今の日本では、逃れようとして隠蔽されて終わりになってしまう。

3.伸縮装置の標準化検討例

 編集者から前回出した「伸縮装置の標準化について書いてくれ」とも依頼された。そもそも、皆さん標準化と言うものの価値を分かっているかどうかわからないが、長年、官と民と両方の立場から標準設計にかかわってきた身として、設計の高度化、効率化を図る上では非常に重要なものである。道路橋示方書を補完する役割も持っていた。先進国においても一見「デザイン重視」という議論もあるが、そうではない。アメリカの標準設計を見たことがあるだろうか? すごく合理的である。

 橋梁の付属物に関しては、コンサルが真剣に考えているかと言うと、そうではない。特に昔は製作伸縮装置が主であったが、最近では既製品の採用が主になってきている。複数の伸縮装置のメーカーが、営業をしており、主にコンサル営業が主体である。私はそこが気に食わない。そもそも、税金で採用する者に関して、役所に性能を説明するでもなく採用されてしまっているところに大きな疑問があった。
 部下から回ってくる伸縮装置の図面を見ていると、あるメーカーに偏っていることが分かったので、一度図面を差し戻し、「なんでこの形式なのか?よくよく検討したのか?」というと、慌てて形式を変えてきた。それを数件やって、担当者やコンサルに、「なんであのメーカーのモノなんか。ちゃんと検証したのか?」と確認したところ、そのメーカーはコンサル営業が熱心だっただけである。このメーカーのものではないが交換した2年後にフェイスプレートが破断したものもあった。

交換した2年後にフェイスプレートが破断

 そこで、それまで、あまり明確でなく、コストで決められていた判断基準を性能を重視したものに変換していきたいと考えたわけである。これまでとは違い、維持管理の時代になれば当然判断の指標も変わる。これまでのイニシャルコスト重視から、止水性や耐久性と言った別の判断基準が必要となるわけである。伸縮装置を製作している企業のうち、「日之出水道機器」が営業に来た際に、私の元上司と尋ねてきた来た。いろいろ話しているうちに一緒に勉強したいというので始めたが、結構一生懸命やってくれた。その結果がもったいないので近々にまとめたいと思っている。

日之出水道機器『ヒノダクタイルジョイントα』施工例(弊サイト既掲載)

 前回の新技術でも書いたが、「まずは、一緒にやってみる」と言う姿勢が重要であり、私はそういう企業が好きであり、何とかしてやりたくなる。逆に権力を使い、圧力をかけてくるようなところは逆である。そして、何もせずに、陰で悪口ばかり言っているようでは、間違いなく先はない。コンサル営業に終始し、あまり考えていないところに採用されればそれでよいのだろう。

① 自治体の橋梁メンテナンスにおける伸縮装置重要度
 橋梁の補修計画中、伸縮装置の交換は、その耐用年数がおおむね20年程度と設定されている場合が多い。通過車両の繰り返しによる過酷な環境に晒されているとともに通行車両の安全確保、橋梁本体の劣化抑制など重要な役割を担っている。その機能が損失すると車両を巻き込んだ事故、他の部材や橋梁本体の損傷、騒音問題や伸縮装置からの漏水に伴う桁及び支承の劣化が引き起こされるという様々なリスクが生じる。そのためにも、メンテナンスを行う中で、伸縮装置の採用条件として設置条件、評価基準に基づき製品の絞り込み、設置環境ごとに製品を選定することが重要となる。

伸縮装置からの漏水によってもASRは助長される

 ASRに関しては現在有効な対処方法が無い中、「水を止める」と言う考え方が多く最小されているが、床版防水は施工しても伸縮装置からの漏水が問題視されることが多々あり、その止水性は大きな要素である。止水性に優れた伸縮装置の採用が重要である。

② 自治体の伸縮装置の検討における課題

 従って、伸縮装置の製品検討に関しては、建設コンサルへ補修設計を委託する際に、同時に製品の検討も委託していることになる。コンサル側が、最新の技術情報や動的解析などの解析に精通したコンサルでないケースも多い状況である。その状況下において、コンサルが伸縮装置を選定する際は、過去の実績有無やイニシャルコストを重視するケースが多く、本来の性能を比較できていない可能性が大である。これが新技術やライフサイクルコストを選定しづらい傾向にあった。しかも、カタログ値である。
 自治体の伸縮装置の検討における課題としては、自治体自身が評価の基準を設け、要求性能別にコストを鑑みた製品選定を行うことが重要な要素である。その基準を設けることが出来れば、検討の標準化が図れ、結果的に自治体の生産性の向上が図れる。設置条件、設置環境に応じた適切な選定につながるものである。わたしは、そこを狙ったわけである。

③ 伸縮装置の標準化検討について
 伸縮装置の標準化検討を行うにあたり、既存メーカーの伸縮装置をデータベース化し、伸縮量や価格などのパラメータを整理し、過去の慣習や実績などに依存せず設置条件に見合った製品を抽出できる仕組みの構築が必要で、この目的は、特定のメーカーにバイアスがかかることを防ぎ、公平に客観的に製品選定の土俵に乗せることが目的である。
 次に評価基準を制定する際、性能項目を設定し、その要求性能をどの基準から引用しているのかについて整理する。この目的は、要求性能がある特定のメーカーの基準から引用するのではなく、公的な基準(道路橋示方書、NEXCO設計要領など)から引用することにより、技術基準や公平性を担保する目的があった。また、極端に高水準にすることによる過剰設計などになっていないかどうかも精査する目的もある。
 今後の課題としては、新しい要求性能が必要になった際、基準規格が追い付かないケースも想定され、その場合にはメーカーが建設技術審査証明などでの技術証明を取得したもの採択や土木学会などでの論文発表、また富山市で行われている実証検証を経て、独占禁止法上のコンプライアンスを適切に評価した上での技術基準を改定していく仕組みを構築することが課題だと考えられるのだが、そこまで行うにはもう少し時間がかかる。もともと、伸縮装置のような付属物については設計時にも議論が及ばないケースも多々あり、残念な結果になる場合もある。一自治体の検証結果を参考にしていただく程度になるだろうが十分に価値はあるものと考えている。

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