道路構造物ジャーナルNET

第66回 新技術等に関する現状

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.07.16

3.富山市における新技術の活用

 平成27年度に策定した、「富山市橋梁マネジメント基本計画」では、随所に新技術を積極的に使えるように提言している。しかし、職員も業者もこれの意味が理解できていない。私は、長年、橋梁に携わる傍ら、新技術新事業開発に携わってきた。新技術とはいかに便利になるかである。効率よく作業を進め、結果を出すためのものである。手抜きや精度が悪くなることは認められない。

 自治体が新技術を導入するうえで、最大の問題は、コストである。世の中で、新技術津を使え使えという方々の一番の誤りは、新技術を使えば、コストが下がると思い込んでいることである。確かに下がるものもあるであろう。しかし、冷静に考えてほしい、開発費はどこに行くのか?単純にコストでは出てこない価値が本来はあり、それが評価できるから使用するだけである。つまり、コストは多少上がっても、人工が下がるとかメリットがどこかに出てこないと使えない。

 最近、インフラメンテナンスで新技術と言うと、「ドローン」だと思っている方々が多い。しかし、ドローンはドローンで難しい。それがわかって使用する分には結構だと思うが、富山市では「ドローンよりも特殊高所技術」である。ドローンも試験的に使ったことはあるが効果は見つけにくい。ドローン活用には、使い方、出てきた結果から次の手を考えられる人間が使えば問題ないと思うが、実際にはそうではない。わからないものが使えば、単なる手抜きにしかならない。限られたドローンに精通した人間が操り、結果を判断できるしかるべき人間が結果を見ることが重要である。しかし、ドローンをどう使えばよいかが本当にわかっている人間は少ない。そういう方々は希少価値である。


特殊高所技術の活用状況

 ドローン本来の真骨頂は、俯瞰的に全体を把握でき広範囲で見ることにあると思う。全体を把握しどこをどうすればよいかのスクリーニング性に優れている。今後は橋梁よりも、のり面や斜面、大規模擁壁などの、まず、全体を把握する場所での適用が、期待しているところである。現在は橋梁に適用しようとしている向きも強いが、ドローンの視認性は広範囲に把握できるところが優れている。橋梁のように、細部を見る必要があるものは、制約条件があり困難であると考えている。これは、違った考え方があってもよい。運用の仕方が問題なのである。

 点検要領改訂にあたり、新技術の活用も議論され、様々なものが出てきた。「ポールカメラ」「点検ロボット」などであるが、最近あまり聞かない。富山市では一度ポールカメラを業者が勝手に点検に使用し問題になった。本来であれば、監督員の許可を得たうえで使用すべきところを、勝手に業者の判断で使用し、その後の補修設計で多大の問題をおこした。新技術を使用する場合はルールの遵守も重要である。結局はドローンもポールカメラも点検ロボットも、カメラを、目的の位置まで、どう運ぶかである。事実を見せてくれればそれでよくそのあとの判断は人間の仕事である。

 

 ドローンが使えないというのではない、活用方法、運用方法、結果の見方など、きちんとできる人間の下使えば何ら問題はなく、結果は出るであろうが万能ではないということを言っているのである。どうも、短絡的にとらえる方々が多く、批判も出てくる。
 私は新技術は、点検などの検証に使用する場合は、複数の方法で確認していく必要が大きいと考えている。1方法に固辞し、失敗するよりは複数の方法を使用してより確実性を増す、場合も必要である。結局は、何をどう使ってどう判断してどう効果を出すかのほうが新技術そのものよりも重要なのである。つまり、運用法である。それが新技術活用の要である。戦略をもって、運用していけなければ、無意味なのである。日本人は昔から、装備を軽視する反面、特定の装備を神格化して、結局はうまく運用できない。

 現在「新技術、新技術」と言われる、そのほとんどが調査機器の話になっている。そこが私には残念なところである。本当に、今我々に必要なのは、補修材料、補修方法、撤去技術、等の工法にかかわる部分であると、私個人は思っている。まあ、これは、個々の人間によって違うだろうから多種多様な考えがあってよい。その補修材料工法が、果たして本当に効果があるのかないのか?

 また、せっかく、コンピュータ技術が進み、様々なソフトウエアがそろっている。DX、DXと、盛んに言われるようになった。我々の世界では、もっと、解析技術を様々な検討に活用すべきである。解析技術を活用することにより、様々な推測が可能であり、未来の予測も可能になってくる。最近解析で検証しようということを聞かなくなってしまった。FEMもそうだし、CAE(Computer Aided Engineering)と言うこともある。CADは当たり前のように使っているがCAEはほとんど聞かない。解析で、予測するという検証の仕方ができていないのが残念である。

4.まとめ

 「新技術」というと、いかにも画期的で万能なような気がしてしまう。しかし、昔から言うように「馬鹿と鋏は使いようである」使う側の技量が問われる。私は、仕事人生の中で、「新技術」や「技術開発」関連の部署が兼任や併任を入れると意外と長かった。特に、システム開発は長年かかわってきたが、開発し運用を始めると、やはり使う側の問題が大きいことが印象として残っている。「こんなシステム使い物にならん。」と言い使わない人たちは、もうどうでもよいので捨て去るが、入力データをもらい検証してみると、ほとんどが入力データミスであった。機械は、指示したとおりにしか動かない。

 同様に、「土木構造物の標準設計」と言うものがあったが、これも運用の仕方を間違えた一つの例である。「設計が画一的になる」と言う理由で、使われて行かなくなったが、では画一的でダメなものがどれほど存在するのか?合理的な設計思想の基、設計の仕方を解説した。もし、もっと活用されていれば、点検や維持管理上は、自動化やIT化がもっとしやすかっただろうし検証もしやすかった。当時から、一番うまく運用していたのが会計検査院である。実際の設計の現場では、馬鹿にして使用を怠った。標準化とは何のために行いどう運用するのかが理解できていない人々がなんと多かったことか?こういう人たちが、安易にドローンだとかAIだという。運用を間違えるのだろう。

 今後、様々な新技術が現れ活用の場面が出てくると思うが、まずは積極的に活用するという意識が重要である。そして、冷静に分析し、正しい結果なのか?何らかのエラーなのか?の判断ができることが技術者としての役割である。導入期には十分な検証が必要である。

 開発者側にすれば自分たちの開発した技術への思いは格別であろう。しかし、自己満足では採用まではいかない。「実装のための実証」が足りないのである。まずはそれである。そして、役所(自治体)をうまく利用することである。皆さんこの戦略が下手と言うか戦略が練れていない。

 最近、私が良く問われているのは、「新技術、例えばSIPのような高度な技術がなぜ活用されないのか?」と言う質問である。私は、「あなたのところ(会社)に、自治体に精通した方はいますか?」みなさん、「自治体の実態がわからない。」とよく言うが当たり前である。経験できていないから、していないからである。国と自治体は違う。NEXCOとも違う。もちろん民間とは全く違う。これがわからないで、自治体のインフラメンテナンスへの導入活用なんてできないですよ!

 この逆もある、自治体に技術者を人材派遣しようという動きもある。果たしてどういう人間を送り込むのか?自治体はどういう運用を考えて依頼しているのか?私は当事者であり、さらには聞かれないので何も言わないようにしている。ここでも、戦略と運用が重要なのである。(次回は2021年8月16日に掲載予定です)

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