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-分かっていますか?何が問題なのか-
第58回 鈴木俊男さんから学んだこと ‐突桁式吊補剛桁橋にチャレンジした恐ろしい胆力は何か‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.06.01

 主桁上下フランジの溶接部は、突き合わせ継手、完全溶け込み溶接でなければならない。現地を自分の眼で確認したわけではないので明確なことは言えないが、溶接ビードの形状から判断すると、良好な溶接、そして十分な処理がなされているとは思えない。
 ちなみに、突合せ溶接接手で、完全溶け込み溶接によって健全な溶接が行なわれていたと仮定すると、余盛を削除するとB等級(155MPa)、止端仕上げをするとC等級(125MPa)、非仕上げ継手で裏面形状が確認できない片面溶接とすると一気にF等級(65MPa)に下がる。
 私の説明で、読者の方々には、正しい溶接形状を確保することが、構造上いかに重要なポイントとなるかを理解し得たと考える。なお、主桁の上下フランジには溶接接手が確認できるが、ウェブの溶接接手箇所は分からない。また、桁高の割には、正曲げ領域に必要となる水平補剛材が上部に連続してあるのは、ウェブ厚を経済的な断面とした可能性が高い。
 ここで、当該溶接箇所に欠陥があったとすると、どのような結末となるか自らの体験を基に考えてみる。私の体験とは、写真-3に示す、主要幹線道路に架かる道路橋、活荷重合成桁の主桁下フランジに亀裂を発見した事例である。


写真-3 溶接継手破断事例:主桁下フランジ

 下フランジの溶接継手は、橋梁として重要な部材であることから母材と溶接部分が一体となる完全溶け込み溶接(図-16、17参照)とし、溶接箇所(内外)に欠陥(図-18参照)が存在しないように細心の注意を払い、丁寧に溶接を行わなければならない箇所である。


図-16 溶接継手:完全溶け込み部イメージ

図-17 溶接継手:完全溶け込み部イメージ

図-18 溶接欠陥事例:融合不良

 ここに示した私の体験した事例は、以前の連載で説明しているが、あってはならない、主桁溶接部の破断事故であった。当然、破断した箇所を徹底的に調べるのは常識。図-19は、破断箇所を下面から見た状況と破断箇所を切り取った断面を示している。図-20に破断した下フランジを切り取って、当時東京都清瀬にあった『産業安全研究所・労働省』に持ち込み、破断箇所の分析を行った部分を示している。


図-19 下フランジ破断箇所断面写真

図-20 下フランジ破断箇所溶接欠陥断面(粗悪な溶接)

 橘内主任研究官の発言は、「髙木さん、見たこともないような粗悪な溶接だ! よく今まで持ったな。落橋しなかったのが不思議なくらいだ」であった。ここでは掲載しないが、電子顕微鏡の破断面の映像を見た時には、私の脳に衝撃が走った。ここで説明している下フランジ破断箇所の溶接断面は、溶接内部に融合不良(図-18参照)やブローホール等の欠陥が多数確認された。
 当該橋梁の下フランジ破断の原因は、溶接不良であるが、あってはならない請負業者認識の基で行われた手抜き鋼桁製作が主原因である。ここに示す事例は、大量発注による乱造と監督や検査体制の甘さが主原因であった。最悪なことは、桁製作・架設請負業者の重要な部材に係る意識の低さと公的組織に対する隠ぺい体質である。

 さて、メキシコシティ地下鉄の崩落個所の下フランジを見て、その溶接部外観から判断すると、丁寧に溶接し、ビード仕上げを行ったとは思えない外観である。再度、図-15を見てほしい。
 それではなぜ、開通後10年近く経って疲労亀裂が発生、進展し、その後破断、崩落に至ったかである。第一の問題として考えられるのは、当初設計時の車両重量よりも実走行車両が重いことである。しかし、溶接不良が原因であれば、作用荷重増による影響はあるが、主原因とは考えにくい。
 第二には、床版がパネル形式で、レールを支える枕木、バラストに不陸があったとすると、開通後の車両走行による板曲げと振動によって疲労亀裂が発生、徐々に進展したと考えられる。さらに、図-14の橙矢印の先、コンクリート床版接合部の激しい漏水による鋼腐食、腐食疲労がプラスとなって疲労亀裂が進展したと考えるのが妥当であろう。
 当該箇所周辺の住民は、「事故前、特に振動がひどくなっていた」との発言がある。過去の事故事例の多くは、近隣住民や利用者の生の声が真実を語っていることが多々ある。メキシコシティ地下鉄高架橋崩落事故も同様であるとは決めつけられないが、聞く耳を持たない行政技術者が最悪の事故を引き起こす事例は今後も続くであろう。悲しいことではあるが……。
 2章の最後に、メキシコシティ地下鉄12号線の色鮮やかな車両が高架橋区間を走行する状況を図-21に示す。


図-21 メキシコシティ地下鉄12号線

 安全・安心な交通機能確保が管理者、行政の責任であり、関連技術者の責務である。残念ながら、メキシコシティ地下鉄に関係する人々はそれを忘れてしまっている。どこかの国の偉そうな管理者、技術者は、メキシコシティ地下鉄高架橋崩落事故の教訓を生かすことができるのであろうか? 多分、私の期待に反して、「あれは、技術レベルの低い国の話だ!」と決めつけるであろう。どこかの国はもっと低レベルであるのを自覚せずに。
 ここまで私の推論で事故原因を述べたが、今回の事故原因に関係する真実は、今行っている事故原因調査結果が公表される時に明確になると思われる。さて、私の推論が正しいか、誤りかは数カ月後には分かると思うので結論が出た際には、またコメントをするとしよう。お楽しみに!
 ここまで、メキシコシティ地下鉄高架橋崩落事故について、インターネット等で集めた情報から私なりの解釈で原因を考え、説明した。次は、今回のメインテーマ、鈴木俊男の世界、最終章に移るとしよう。

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