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-分かっていますか?何が問題なのか-
第58回 鈴木俊男さんから学んだこと ‐突桁式吊補剛桁橋にチャレンジした恐ろしい胆力は何か‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.06.01

 同様な事故が起きるたびに住民や利用者の声が取り上げられるが、今回も同様であった。今から4年前、2017年に12号線周辺の住民は、「今回の崩落事故区間において、肉眼で視認できるひび割れがあり、いずれ倒壊する可能性があるのでは」と運輸当局に通報し、住民の通報から運輸当局がオリボス駅とノパレラ駅の間にある柱基部のひび割れ発生状況を確認し、その後、修繕工事を行っている。
 別の資料には、「メキシコシティ地下鉄のマスタープラン2018-2030年では、12号線のメンテナンスに数百万ドルを投資することが求められていて、政府がマスタープランに適切に対処しない場合、脱線の可能性がある」と警告している。ところが今年度、2021年のメキシコシティ地下鉄の予算は過去9年間で最低であり、2018年と比較して25%削減されている。
 米国のミネソタ州ミネアポリス、イタリアのジェノバ、いずれも安全・安心確保に必要な投資を行わなかったことが災いし、最悪な結末と言える、橋梁が崩落し、人身事故となった。
 メキシコシティ地下鉄も先に挙げた過去の教訓を生かせず、当初から内在していた欠陥を無視し、適切な投資を行わなかったことによって、多くの人身を巻き込む大事故になった。私はまたかと思った。地下鉄を管理する公的組織には、12号線が抱えている初期欠陥や変状程度を事前に把握し、対策が必要と判断している技術者は存在し、彼らは警告を発していた。しかし、彼等の発言に耳を貸さずに、必要な予算の削減を指示した権力者も存在していたということである。
 また、住民発言を幾つか調べると、「今回の崩落は事故ではない。過失だ」「こうなることはわかっていた。遅かれ早かれ、これは起こるべくして起こったことだ」などと手厳しい発言が見られる。住民は、行政の闇の部分を肌で感じ、危うい状態に身の危険を感じての発言と思うが、事故原因の本質を付いていると私は思う。先にも話したが、痛みを感じない人びとが実権を握っているようでは、遅かれ早かれ事故は発生し、それがどの程度で収まったかである。今回のメキシコシティ地下鉄は、最悪の人災となった。
 また、地下鉄利用者の発言には、「12号線が十分な安全が保たれていないことを知っていた。しかし、残念ながら、私たちは経済的にも便利だから乗っていたのです」との記事もあった。私はこの記事を読んで、悪政は大切な住民を死に至らしめることを痛感した。私には、貧しく弱い住民の願いを無視する傲慢な行政に対する不信感と、そこから逃避できない、悲しくやり場のない住民のうめき声が聞こえてくる。どこかの国も同様なことが多発している。どこかの国の権力者たちは、外面だけは立派だが、本質はメキシコと同様であることを私の読者は分かってほしい。どこかの国の権力者集団は、ラッキーばかりが続かないことを、そして、貴方たちが住民の命を預かっているポジションにいることを自覚してほしい。
 ここからは、私の事故原因推定である。ここで、12号線の事故前の状況を見てみよう。なお、ここに掲載している状況写真の多くは、Google Mapで検索し、私が確認したものである。私としては、説明内容に一部誤りの可能性もあるとは思うが、本掲載の大部分は真実を見極め、適切に説明したと自負している。
 第一番目に、崩落現場の斜め上からの状況写真を図-7に示す。ここでは、地下鉄の線路、高架橋の橋脚、事故現場周辺の施設に着目してほしい。


図-7 崩落現場の斜め上からの状況

 地下鉄車両を支える鋼主桁は全線2本であるが、オリボス駅とテソンコ駅の間にのみ引き込み線があり、崩落事故直前に切り替えポイントがある。過去の資料を確認すると、オリボス駅で折り返し運転を行っていたとの資料があることから、当該区間に引き込み線区間を設けたとも考えられる。
 12号線の鋼2主桁の上には、パネルタイプのコンクリート床版があり、その上にバラストを引き、コンクリート製の枕木、レールの構造である。図-8は、崩落した高架橋をテソンコ駅(Tezonco station)側からオリボス駅(Olivos station)に向かって見た状況である。3主桁から2主桁に移る区間であるが、コンクリート単柱の梁端部の違いが分かる。


図-8 メキシコシティ地下鉄12号線崩落箇所遠景

 Google Mapを調べていて異様と思ったのは、崩落事故が起こった直近のコンクリート単柱箇所の頭部に、なぜかモザイク処理がなされていたことである。図-9にモザイク処理が施されたコンクリート製単柱の状況を示す。


図-9 オリボス駅側橋脚:12号線崩落箇所

 この加工は、崩落事故発生前からか、崩落事故後に施されたのか分からないが、私には、何か事故原因に関係する重要な情報が隠されていると思えてならない。図-10に示す橋脚外観は、モザイク処理された橋脚に対し、角度を変えて接近した結果である。
 図-8でも触れたが、橋脚頭部の主桁を支える梁の端部には、3タイプ突起が設置され、図-11に示す駅舎近くのハの字に開いた形式、図-10に示す三角形状断面、図-12に示す角柱形状断面である。図-13は、同一脚の両側から梁端部の角柱突起を見た状況を示す。


図-10 橋脚横梁の不可解な構造:12号線崩落箇所オリボス側/図-11 メキシコシティ地下鉄橋脚:オリボス駅直近区間

図-12 テソンコ駅側橋脚:12号線崩落箇所/図-13 橋脚横梁の不可解な構造:12号線崩落箇所テソンコ駅側

 ハの字に開いた梁形式は駅舎が近くなると幅員が広がるので使用理由は分かる。三角形状と角柱形状の使い分けは、引き込み線で広がる区間であることから、地震発生時に機能する横変位拘束構造を使い分けたとも考えられるが、明確な理由は分からない。また、図-10、12で床版裏面が視認できるが、桁端部の伸縮区間、床版遊間が非常に大きいのには驚きである。先に示した梁端部の突起は、床版遊間と関係があるかもしれない。
 問題の鋼主桁が破断した箇所と思われる部分について、両側から調べた結果を示す。メキシコの技術者発言が正しいのであれば、主桁溶接部が破断したことになる。図-14は、崩落した区間の桁下から問題の鋼主桁添接部を中心に見た状況である。


図-14 崩落箇所:12号線テソンコ駅~オリボス駅間

 ここで着目したのは、鋼主桁上下フランジの溶接部と橙矢印で示した先の床版接合部の激しい漏水と遊離石灰である。
 図-15は、主桁下フランジおよび上フランジの溶接接手部を拡大した状況を示す。


図-15 鋼主桁溶接継手箇所:メキシコシティ地下鉄12号線

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