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第63回 「i-Construction大賞 公共部門 国土交通大臣賞」受賞に寄せて

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.04.16

3.守る時代

 現在は、「造る時代」から「管理する時代」への転換期である。しかし、危機感がない自治体が多い。財政が豊かだということなのかもしれない。AIやドローンで解決できると思っているのかもしれない。IOTの発展は著しく衛星を使った計測・監視や様々な電子機器を使用した点検や監視に役立つもの、AIのように人間の判断を助けてくれるものが出てきている。これは素晴らしいことで、新たな武器を手にしたことになる。
 しかし、これらは、あくまで“道具”であり、万能なものではない。どう使うか? 結果をどう判断するかは人間、土木技術者の役割であることを忘れてはならない。かつて(現在もであるが)土木系のソフトができ、だいぶ設計作業が軽減された。この時、私は開発側にいたのだが、使う側から「使い物にならない」とか「動かない」ということをよく言われた。これの分析を冷静にすると、その原因の多くは、利用者のデータミスであった。プログラムとは、機械はバカ正直で、何か少しでも違いがあれば動かなくもなるし、間違った結果が出る。
 プログラムの中には各所に“スイッチ“があり、ここを間違えている例もある。ここは実は入力者に判断をしてもらっているのだが、ここで間違える。これには様々な原因があると思うが、双方に責任がある。マニュアルがわかりづらいということも大いにある。プログラムを開発する側と利用者の側の言葉の総意というか(?)説明不足判断の違いも大いにある。だから、結果はそのまま使ってはいけないし、検証も必要だし判断も重要となる。
 今回、i-Construction大賞の公共部門大臣賞をいただいたが、恐らく評価してくださっただろう多くの方々に言われたのが、まずは応募名称で「インフラを守る時代のi-Construction」としたのだが、これが良いという評価を得た。
 さらに中身は、富山市の進めるスマートシティ計画のセンサ・ネトワークを全市的に導入し、除雪などの効率化、橋梁へのモニタリングシステムの導入。架け替えの橋梁八田橋におけるCIMの導入。民間企業への啓もうのためのi-Constructionシンポジウムの開催等の全体の取り組みが認められたのだと思う。



 i-Constructionは今後、より進化しDXへと移行するものであると考えられる。ここで一つ忘れてならないのは自分で考え、仕組みを構築していくことである。“道具”をどう使いこなすのか? 何よりも、自ら考え、仕組みを構築していくことの重要性だ。
 BIM/CIMにしても、八田橋は今から7年以上前に作成した。いまだに、ここまでは描けないと言われる。
 これは、間に入ったコンサルも大変だったと思うが、何よりもこれを直接担当した、株式会社日本風景デザイン研究所の上田社長が大変だったと思う。
 何度も「これではCIMをやる意味がない」と突き返し、やり直させた。上田君は、私が某コンサルの応用システム部にいた時の部下だった。アメリカにグラフィックの勉強に行ってもらった。ある時、名簿にはあるが、実物を見たことのない名前があり、「この上田君というのは誰だ?」と聞くと「アメリカに行ってます」との答えを得た。結局、お互いの在籍中は会えず、その後、何かの機会に再会した。なぜか彼の結婚式後の2次会に呼ばれたのも記憶している。CIMをやるにはセンスも必要だし、何よりも根気が必要である。システムとはそういうものである。この根気が持たない人間が多い。「新技術、新技術」と今言われているが、恐らく使いだすとうまく行かない。
 結果を出すには根気が必要だ。
 そして今後、維持管理においてDXは必須のものとなるであろう。ただ皆さん、勘違いされているのかもしれないが、これがすべてを解決するわけではない。やはり“道具”なのである。ここを勘違いすると悲惨な未来が待っている。最後はヒトであり、技術者の判断であることを最近忘れている方が多い。
 i-ConもAIもドローンも使うだけでなく、それをどう生かすか? が重要である。上田社長とは、BIM/CIMのデータを将来どう活用していくか、データのライフサイクル図を一緒に作っている。八田橋においては、その後、担当者や業者が理解ができておらず、データが死んでしまっている。こういうことではだめなのである。

4.まとめ

「土木のこころ」(復刻版)が出たので読んだ。これは皆さんご存じのように、土木界の我々の先輩方の功績、生きざまを描いたものである。ここに出てくる方々の中で、私は2人の方に、大変お世話になり指導を受けた。
 1人目は、旧国鉄最後の総裁の仁杉巌先生である。会合などでお会いすると、優しく声をかけてくださった。先に記述したように、今回、私の食い扶持を心配くださったのは、この仁杉さんの部下だった方々である。何をしたわけではないが、社団法人を立ち上げたいというので動いた。
 今後は維持管理の時代であり、日本は非常に遅れている。さらに、後進国の面倒も見なければならないのだ。ということで法人の名称も、「国際」というのを入れろと言われたのも仁杉さんであった。当初は「建造物保全技術協会」という名称にしようとしていたが、「国際建造物保全技術協会」として登記した。
 残念ながら、私が富山に赴任中に亡くなってしまった。仁杉さんの右腕と言われた鬼頭誠さんにも大変お世話になったが、鬼頭さんも富山に赴任中に亡くなってしまった。
 もう1人が、吉田巌先生である。吉田先生にも基礎のことはもちろん、ものの考え方、技術者の魂というものを教わった。この方も、私が干されていた時代にやさしく声をかけてくださり、心配していただいた。何よりも橋梁の基礎に関しては神様のような方である。
 吉田先生とは、「新基礎技術フォーラム」(旧:大水深下基礎技術懇話会)という、本四国連絡橋にかかわった官と民との勉強会で指導いただいた。ある時、元高官の方から、この事務局長を引き継がれ10年間くらい事務局長をやっていたので、橋梁関係の著名人の先生方や多くの民間企業の方々とも知り合いになれた。ちょうど干されていた時代に、励みになった。
 皆さんもぜひ本書を読んでいただきたい。近年ソフト化の傾向があり、土木技術本来の部分が薄れているように感じる。デザインや景観も必要であるが、何よりも我々は土木技術者である。市役所にいると、職員も皆、まちづくりがやりたいという。それも立派なことであるが、せっかく土木工学科を出てきたのならば、少し目先を変えてみてはいかがか? ものを作ってなんぼ、災害と戦ってなんぼなのである。
 思い起こせば、干されたときに、メンターのような方が現れ、導いてくださった。めぐまれているなあ、とつくづく感じる。また、次に何かやれということなのだろう。
 これからは守る時代である。いくら道具が良くなっても、最後は技術者が重要である。武器をそろえても使いこなせなければ、無意味である。最近は、設計のソフトの充実により、解析して検証するという解析手法が考えられない状況であるのも嘆かわしい。
 維持管理においては、劣化状況を見ながら解析で検証していくことも大切なことである。そのひび割れが、応急化なのか? ASRなのか? それとも別の物なのか? そういうことは、コンサルが提案してくるのかと思っていたが、こちらから言わないとできないというのも情けない。
 富山で、構造物にひび割れがあると、皆すぐに「ASR」だという。コンサルも職員もそうである。しかし、ひび割れの大きさや出方を見れば違うことがうかがわれる問題が潜んでいることがある。この辺はまた書こう。
(次回は5月16日に掲載予定です)

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