道路構造物ジャーナルNET

⑲設計について 設計基準、標準設計、設計の変化

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2021.03.01

4.標準設計

 鉄道構造物は、荷重が決められており、単線と複線がほとんどです。そのため、桁や橋脚、高架橋などは、スパンごとに、あるいは高さごとに2mや3mおきに設計図を作り、標準設計として全国に配布していました。この方式は、鉄道開業直後から今でも行われている方法です。1885(明治18)年にはイギリス人建築師長パナウルがまとめた上路鈑桁があります1)
 多くの私鉄を国有化した後の1909(明治42)年には、設計活荷重がクーパー荷重のE33と定められ、表-1に示すような鋼桁の標準設計がその時期に定められています。


表-1 E33の標準設計1)

 鉄筋コンクリートでは、1916(大正5)年達第305号で3~10フィートの蓋鉄筋コンクリートの標準設計が、1936(昭和11)年には、建工第455号で鉄筋コンクリート単版桁、同年建工第907号にて鉄筋コンクリート単T桁が制定されています。
 国鉄では部内で設計を行う組織を持っており、担当部署と技師は表-2のように構造物設計事務所まで続いていました1)


表-2 橋梁担当組織と技師1)

写真-5 標準設計の高架橋

 建設のプロジェクトでは、現地では標準設計から、高さやスパンの近い図面を選び、高さを縮めて、あるいは長さを縮めて使っていました。在来線も新幹線もこのような方式で行われ、現地ではこれら図面を組み合わせて構造計画をしていました。
 東海道新幹線や山陽新幹線は着手してから5年で開業していますが、それにはこのような標準設計が役立っていました(写真-5・6、図-1)。この標準設計の作成は、戦後は構造物設計事務所が中心に行っていました。同じ時代の構造物は同じ配筋や、同じ設計思想で造られており、設計を経験している人ならコンクリートの外観から内部の配筋を想定するのも容易です。鋼構造物はすべて構設で設計と製作指導を担当していました。全国の鋼構造物についてのデータはここに集まっていました。


写真-6 東海道新幹線トラス橋の標準設計

図-1 山陽新幹線の高架橋の標準設計

 標準設計の良いところは、同じ降伏強度の構造物が連続してあるということです。地震などで損傷が生じると、その損傷程度からその構造物への入力地震動が推定できることです。個別の設計の構造物が並んでいると、それぞれの構造物の降伏震度が異なり、入力地震動の推定には個別の設計を確認しなくてはなりません。
 メンテナンスにおいても、同じ設計思想で造られているので、どこかで問題が生じたら一斉に同種の構造物を確認することや、手を入れることが可能です。

5.設計作業 

5.1 手計算の時代
 私が構設に最初に行った1972(昭和47)年頃は、設計計算は、計算尺とタイガー計算機、電卓が中心でした。
 ラーメン構造などはモーメント分配法やカニーの方法による手計算での繰り返し計算でした。そのため手計算可能な構造を選定していました。ラーメン高架橋は、柱よりも、上層梁、地中梁の剛性を大きくし、剛比3以上として、柱の上下端が固定として扱えるようにしていました(図-2)。杭と上部を分離した計算が可能な構造ともしていたのです。設計のクリテカルな荷重組み合わせはわかっていたので、その組み合わせで検討していました。計算書も厚くなく、だれでもチェックが簡単にできるようなものでした。現場で、設計を直す場合も容易に直すことができ、建設会社の社員が現地の状況に合わせて変更していました。
 東北新幹線の設計の頃からコンピューターでの計算が徐々に行われてきました。それでも、荷重などは列車荷重を等分布荷重などに置き換えたりと、計算能力の小さなコンピューターをうまく利用するような工夫をしていました。


図-2 東北新幹線の大宮以南の標準高架橋の例(地中梁が大きい)

5.2 コンピューターでは計算モデルが重要
(1)各部材の剛性が近いと、断面力が実構造物と異なりやすい
 今では荷重もそのままの車軸の配置で、列車を動かしたりして最大断面力を求めることも容易になり、厳密に解析をやりたがるようになってきています。荷重の組み合わせも、部材により断面力決定の組み合わせは決まっていても、すべての組み合わせを自動的に行うので計算書は厚くなるばかりです。
 梁と地中梁を柱の剛性よりも大きく、剛比で3以上とするような構造では、剛性が少し変化しても、計算と実際とで断面力が異なる心配はありません。今は、剛性を自由に変えても計算可能です。その代り、剛性が少しでも変わると断面力も変わってしまうものも生じます。梁と柱の剛比が1に近いと、少し剛性が変わると断面力が変化します。
 しかし、コンピューターは結果を出すので、何の心配もせずそれで配筋を行います。モデルの剛性と実際の剛性が少し変わると大きく断面力が変わる構造かどうかということも設計者は知って構造計画しなくてはいけないのですが、コンピューターの結果が出れば無条件に正しいと思っているのが今の状況ではないかと気になっています。

(2)地中構造物、杭などは剛性を正しく評価しないと断面力が正しくならない
 構造解析のモデルは、部材については弾性のままのモデルで断面力を求めて、その断面力に対して鉄筋量などを定める方法が多く使われています。この部材を弾性とした解析も、地上に存在する構造物では大きな間違いにはなりません。しかし、地中にある構造物は、地盤と力のやり取りが行われるので、剛性を正しく評価しないと結果は大きく異なります。
 杭の設計で、応答変位法で地盤が動く解析などすると、杭をひび割れによる剛性低下を考えないで弾性のままとすると非常に大きな断面力が生じます。ひび割れを考慮した杭の剛性にすると、応答変位法での断面力はほとんど杭の鉄筋に影響しないほど低下します。
 かつて、応答変位法を基礎の設計に取り入れたとき、それまでよりも杭の鉄筋が大幅に増えてしまうと問題となり相談されました。杭の剛性を、ひび割れを考慮した剛性にして検討することを提案しました。その結果、それまでの杭の配筋で問題ないこととなりました。構造系の外部と力のやり取りのある杭など地中構造物は、部材の剛性を正しく評価しないと、計算を精緻にする意味がありません。

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