道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊷

北海道におけるコンクリートの品質確保の取組み

国立研究開発法人 土木研究所
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ 耐寒材料チーム
主任研究員

吉田 行

公開日:2021.02.24

4.2.3 意見交換会
 意見交換会では、最初に土木学会350委員会メンバーからこれまでの活動と東北における品質・耐久性確保の実践状況についての話題提供がありました。その後トンネルと橋脚施工者から品質確保試行工事について改めて報告いただき、フリーに意見交換を行いました。委員からの発表テーマは以下のとおりです。
 ・コンクリート構造物の品質・耐久性確保の意義と実践 
  細田 暁 教授(横浜国立大学)

 ・東北地整の品質・耐久性確保の舞台裏
  佐藤 和徳 教授(日本大学)

 ・東北地方における凍害対策に関する参考資料(案)について
  小山田 哲也 准教授(岩手大学)

 ・寒中コンクリートの品質確保に関する研究委員会報告の概要
  阿波 稔 教授(八戸工業大学)

 ・寒中コンクリートの品質確保の留意点
  音道 薫 氏(上北建設株式会社)

 実際に橋脚の施工状況把握や表層目視を行った橋梁発注者から、北海道の現場は事務所からも遠く毎回の現場立会は困難だが、施工状況把握チェックや目視評価の頻度はどの程度が良いのかとの質問があり、佐藤教授から、毎回行く必要はない。最初の1回は行くべき。その改善効果を見るためには2回目の実施が必要との回答がありました。また、発注者から、受注者へのインセンティブは必要ないのかとの質問があり、佐藤教授から、良いものを造れば工事評価点は上がるとの回答が、東北で実際に施工にあたった西松建設の三井氏からも同様の回答がありました。
 一方、細田教授から、北海道でこの取組みは継続しないのかとの質問があり、北海道開発局道路建設課から、現場技術者が集まる担当者会議などの場において品質確保の取組みに関する啓蒙活動を行っており、今後も試行が継続できるような状況を作っていきたいとの回答がありました。その他に、現場発注者から、耐久性確保といわれてもよくわからず強度が出れば良いと思っていた。そのあたりも情報提供して欲しいといった率直な意見も出され、筆者から道路担当者会議等において基礎的な講習会を実施しているので、現場内でも勉強会を行うなど資料を積極的に活用して欲しい旨補足しています。また、意見交換会終了後にも、北海道土木技術会井上幹事から、排水計画の手引きなどが講習会等で前面には出てこないがターゲットをコンクリートの品質に限定しているのか?コンサルも関わりやすくなるように設計関係も話題に取り上げて欲しいという意見がありました。これについては細田教授から、コンクリートの品質に限っているつもりはなく、入り口としてコンクリートの品質確保を掲げておくと皆がつながりやすいと思ってやってきた。対象も、興味を持つ人もかなり拡がってきたので、やり方も少しずつアレンジしていければと思う、と回答されていました。

 以上、品質確保の試行工事と1年後の現場調査を併せて行ったことで、試行による品質向上効果を多くの技術者で共有することができました。また、意見交換会を実施したことで実務担当者からの率直な意見を聞くこともでき、北海道において品質確保の活動を継続的に進める上で大変大きな実績となりました。

4.3 試行2年目(平成30年度)の対応状況
4.3.1 試行現場の選定と事前説明会の開催
 平成30年度における試行では、チェック実施者が監督職員以外に現場技術員も可となり、試行対象工種は変わらないものの、より効果が見込まれる以下のいずれかの要件に該当する現場から選定することになりました。

 ①高密度配筋の構造物
 ②コンクリートの締固めを行いづらい環境(トンネル覆工等)
 ③打設回数が多い
 ④1日の気温差が激しい
 ⑤冬季・夏季の気温が著しく低下または上昇する現場
 ⑥海岸に近い
 ⑦未熟練者が多く従事している

 北海道開発局では試行2年目で件数が大きく増えてトンネル3件、橋梁下部5件が試行対象として選定され、対応する開発建設部も全道に広がりました(選定要件としては①、②、③、⑤)。
これを受け、コンクリートの品質向上に向けた説明会を各開発建設部で行うことで北海道開発局道路建設課と早々に調整しました。説明会の目的は、試行工事だけの一過性にしないように、各開発建設部事務所担当課、監督員、現場代理人にコンクリートの品質向上の経緯や意義、目視評価・施工状況把握チェックシートのチェックすべきポイントなどを説明し、品質向上に向けた意識付けを行うことです。説明会では、本局道路建設課からコンクリート品質向上の取り組み経緯の説明があり、続けて筆者から、H29年度の試行状況と試行後の調査概要を説明するとともに、チェックの流れを理解しやすいように、日本コンクリート工学会東北支部寒中コンクリートの品質確保に関する研究委員会で作成された「コンクリート品質確保の取組みPDCAサイクルの構築(寒中コンクリート編)」の動画と、350委員会で公開している「表層目視評価の使用方法」の動画を確認しました。また、チェックシートのポイントを改めて説明した上で、試行を取り組むための課題や要望、次年度以降も継続実施のための課題等について意見交換を行っています。

 説明会は、11月中に5箇所の道路事務所で開催することとなり、残る3現場には、説明用の資料と動画ファイルを受・発注の試行担当者が確認することとしました。説明会には、受注者の参加もあり、受・発注者ともに前年度の試行状況を含めて情報を共有する良い機会となりました。なお、試行要領では一般の施工状況把握チェックシートが記載されており、時期的に寒中コンクリートとなることから、チェックシートの説明において、東北地整で使われている寒中コンクリート版のチェックシートについても紹介しました。

4.3.2 橋梁における試行結果
 橋梁における試行は11月から1月にかけて行われましたが、寒中コンクリート用のチェックシートを使用したのは全5箇所中2箇所でした。施工状況把握チェックシートで特記事項が多かった橋台施工現場の目視評価事例を図-8に示します。

 1回目の試行は底版コンクリート(24-8-40(N))で行われ、打込み時の天候は雨、外気温5℃の条件下でした。施工時の特記事項として、結束線1本除去指示、人員に関して現場代理人と現場技術者が作業していたため監督・指示するものがいない、雨水の浸入が多い(降雨対策の指示)、バイブレータの鉄筋への接触や引き抜き跡多数(バイブレータのかけ方指示)が記録されており、結果として、表面気泡、型枠継目のノロ漏れ、面的な砂すじの項目で目視評価点は低くなっています(底版は打重ね線は対象外)。2回目のチェックは竪壁(24-8-40(N))の施工(竪壁1回目)で行われ(曇/雪、外気温1℃)、前回の指摘により気泡や砂すじの評価点は上がりましたが、バイブレータの垂直挿入、鉄筋への接触、横移動について再度指摘がありました。3回目のチェックも竪壁施工(竪壁2回目)で行われ(曇/雪、外気温-7℃)、コンクリートが(27-12-40(N))に変更されたものの施工時の特記事項はありませんでした。目視評価では、スランプ変更の効果なのか砂すじの評価点が高かったものの、打継ぎ目部分にノロ漏れが確認されたほか、打重ね線の評価点は下がっていました。この現場では、施工時の指摘事項に連動する形で目視評価点が変化しており、チェックシートの効果が確認できる良い事例でした。その他の現場では、かぶり内の結束線や型枠内への落下物を指摘したケースが確認されたものの特記事項は少なく、目視評価点はいずれの現場においても2回目で改善されていました。

4.3.3 トンネルにおける試行結果
 図-9はトンネルでの目視評価事例です。

 なお、トンネルの目視評価は、側壁・アーチ部ともに左右で行われますが、左右ほぼ同様の評価だったため結果がわかりやすいように左側と天端の評価を抽出して表記しています。表層目視評価は、現場担当の発注職員、本部の職員、現場代理人の3名で行われています。施工状況把握チェックシートには、養生方法以外に特記事項はありませんでした。表層目視時の特記事項として、アーチ部下端から側壁下部に気泡が多く、左右アーチ部に斜めの打重ね線が見られたことが示されており、評価点も側壁・アーチ部の気泡、砂すじ、打重ね線の評価点が低くなっています。気泡対策として、剥離剤の塗布方法を人力から自動に(塗布量を均一に)するとともに剥離剤の種類について検討が行われ、打重ね線の防止については、一つの打設口からの打込み量を減らす対策が指示されていました。結果として1回目に低かった項目は2回目で改善されています。

 しかし、2回目の目視においても、側壁打設口の下にコンクリートが擦れて剥離剤が流れた跡や、全体的にバイブレータ跡が確認され、継目目地部には部分的に充填不良も確認されており、それらの対策として、コンクリート打込み方法の工夫、バイブレータのかけ方やタイミングの改善が指示されていていました。この現場では、不具合に対して具体的な改善指示を出し、その効果が現れている良い事例であり、さらに複数回評価を行えばより品質の高い構造物となることは明らかです。なお、評価者の違いでは、評価点が低くなる項目は同様ですが、現場に近い技術者ほど評価は低めでした。見方を変えれば、実際の構造物を観察する機会が多いほど不具合が目につき改善につながる可能性が高く、評価者によるばらつき低減の観点からも実構造物による目視評価の勉強会等の実施は重要と思われます。その他の2箇所のトンネルにおいても、アーチ部から側壁の気泡、検査窓周辺の砂すじに対する指摘事項が多く、いずれもバイブレータのかけ方の工夫等により改善していました。また、天端は色むらの評価点が3程度であり、コンクリートの最終吹き上げ箇所となる天端施工の困難さがうかがえました。

4.4 試行3年目(令和元年度)の対応状況
4.4.1 試行現場の選定と事前説明会の開催
 令和元年度における試行では内容は変わらなかったものの、事務連絡の発出が令和元年10月24日と遅く、かつ令和2年1月末までに試行可能なことが試行現場の選定条件となったため極めて限定的となりました。結果として、北海道開発局では、トンネル1件、橋梁下部3件(選定要件としては②、⑤)が試行対象として選定されています。
  現場選定から試行工事までの期間が極めて短かったため、TV会議システムにより北海道開発局本局と各開発建設部の事務所をつなぎ、取組みの経緯やチェックのポイント等について説明会を行いました。参加は2事務所で、試行の説明後に昨年度の試行担当者から以下の意見が出されています。

 ・チェックシートは監督員が何をすべきかわかりやすく、経験が少ない職員もチェック可能
 ・施工を重ねると改善された
 ・目視評価は人によりばらつきがあり、見るべき所を絞って欲しい
 ・施工者は作業員に渡し、全員で事前に施工の段取りを把握することができた
 ・打設が早いので当日朝のチェック対応は難しく、1日現場にいた(職員の負担)
 ・チェックシートにより改善されるため、普段見ていないところに目が行き評価が低めになった

4.4.2 橋梁における試行結果
 橋梁下部工の試行は、11月下旬から1月中旬にかけて行われ、全ての現場で寒中コンクリート用のチェックシートを使用していました。なお、工期の関係からか、同様の形状部位における比較では無く、橋台で行われたチェックでは底版と竪壁の比較や、橋台底版と橋脚で比較されるケースもありました。図-10は、施工状況把握チェックシートや目視評価で特記事項が多かった橋台施工現場の目視評価事例です。
 
 当該現場では、試行1回目が底盤部の施工、2回目が竪壁でした。第1回目の底版施工は、12月16日曇り、打込み開始時温度が-3.4℃、コンクリートは24-8-40(N)です。施工状況把握チェックシートには以下のような特記事項が記録されていました。

・「垂直打込み」の項目で、打込み位置はマーキングされていたが、マーキング位置から打ち込まれていなかった。また多くの箇所で斜めに打ち込まれていた。
・「打込み高さ1.5m以下」の項目で、最下層では2.0m程度の高さから打っている箇所も見受けられた
・「バイブレータの鉄筋接触」の項目で守られていない作業員がいた
・「仕上げバイブレータの丁寧な施工」の項目で丁寧に実施されていなかった

 これらを反映するように、目視評価点は型枠のノロ漏れの項目が特に低く、評価シートには、気泡が最終打込み部に多く発生している、型枠継目に砂すじも発生、最下段に材料分離の様なものも見られる、といったコメントが記録されていました。次回の施工に向けては、最下段の仕上がりが悪く打込み高さを遵守すること、型枠継ぎ目の砂すじへの対応として型枠を適切に締付ける対策を行うこと、最終打込み部の気泡への対応として仕上げバイブを十分行うことが指示されています。2回目の竪壁施工は12/26雪、コンクリートは27-12-40(N)です。施工状況の把握では、前回の指摘事項が全て守られていることが記録されており、目視評価点は2回目でいずれも改善されていました。前年度試行の図-8もそうですが、構造物の形状・部位(底版、竪壁)によらず、施工のポイントを抑えて適切に施工することで改善につながることが確認できます。なお、2回目の目視評価においても、気泡が少し見られる、打重ね線が部分的に見られる、型枠継ぎ目の砂すじが多く見られる、とのコメントが付され、以降、型枠継目の砂すじ対応として隙間部分への対策を講じるよう指示が出されており、このような流れが次につながるものと思います。

4.4.3 トンネルにおける試行結果
 図-11はトンネルでの目視評価事例です。

 トンネルの目視評価は図-9と同様、左側と天端の評価を抽出して表記しています。コンクリートは24-SF60-40(BB)です。表層目視評価は、ベテラン監督員と監督員1年目の職員2名で行われていました。施工状況把握チェックシートには、養生方法に関する記述以外特記事項はありません。1回目の目視評価では、ベテラン監督員は、色むら・打重ね線の評価が他と比べて低かったもののそれでも評価は3であり、気泡、色むらは若干発生していたようですが、総じて良好な出来栄えであるとの特記のみであり改善指示はありませんでした。他方、監督員1年目の職員は、側壁部の各項目が3点とベテラン監督員より低めでしたが、特記事項はありませんでした。2回目の評価では、概ね改善されていましたが、側壁部の評価点や色むら・打重ね線の評価については点数が上がりにくい傾向が見られます。色むらについてはコンクリートのスランプフローの影響も考えられますが、ベテラン監督員の2回目の特記には施工目地で前回のブロックより若干劣る箇所もあったが出来栄えは特に問題なく指摘する事項はない、と報告されており特段の問題は確認されていません。

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