道路構造物ジャーナルNET

⑱鉄道構造物のメンテナンスと相談のしくみ、設計の知識

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2021.02.01

4.3 構造物は、活荷重の乗る梁以外は耐震設計で決まっている
 道路や鉄道構造物は、列車や車の直接乗る部材以外は、ほとんどが耐震設計で決まっています。地震のない常時は、柱や基礎などは安全すぎる状況です。
 耐震設計で決まっている鉛直部材の常時の発生応力度はどのくらいでしょうか。橋脚や柱に作用している軸圧縮応力度は10kgf/cm2程度です。コンクリート強度は240~270kgf/cm2ですから、常時は余裕がありすぎるのです。柱を細くすると、鉄筋量を大きく増やさなくてはならないので、この程度のコンクリートの発生応力度の断面が経済性や施工性で選ばれているのです。
 以前、新幹線高架橋の柱の中間部に強度のないモルタルが施工されたものがありました。ポンプの最初に送るモルタルを捨てずに柱に打ち込んだのだと思われました。この部分を直す相談をされたので、欠陥部を3枚の板状に分けて中央部分を取り壊してまず品質の良いコンクリートに置き換え、次に外側を壊して、良いコンクリートに順次置き換えるようにしました。
 常時の応力度から判断して、1/3ずつ柱断面を撤去しても問題ないからです。地震が構造物の存在している期間に来ないと、これら部材の鉄筋は働くチャンスがないまま終わってしまいます。
 ただし、列車を受ける梁の多くは地震でなく列車荷重で決まっており、地震では壊れない強さを持っています。建築構造物は上載荷重が道路や鉄道構造物ほど大きくないので、基本的に地震時も梁が先行降伏する設計を行っています。梁の先行降伏のほうが構造的には穏やかな破壊となるので、そのような破壊を目指して設計されています。鉄道でも、柱が壊れるよりも梁が先に壊れたほうが、破壊が急激でないので、その可能性も検討しました。しかし、列車を受ける梁のほうがラーメン高架橋では、柱より圧倒的に強いので地震時は柱の先行降伏でやむを得ないとしています。

4.4 材料の性質
 鉄もコンクリートも優れた材料です。設計では、その特性の一部を利用している状況です。鉄の降伏ひずみはSD390で0.2%程度です。降伏強度は3,900kgf/cm2です。鉄筋の破断するときの伸びは20%程度です。
 鉄筋が降伏しても、破断するまで強度を維持して伸び続けます。途中でひずみ硬化で強度が上がり、その履歴を受けた鉄筋は伸び能力は減りますが、使えなくなるものではありません。降伏点が大きくなり、破断伸びが少し小さくなった鉄筋として有効です。
 かつて、鉄筋の強度の小さかった時代は、故意に鉄筋をねじって降伏させることで強度を上げて設計に使ったこともあると、構設時代にN先輩から教わりました。また降伏した鉄筋をもとの強度と伸びに戻すには、850℃以上に熱すると戻ります(図-2)。


図-2 予ひずみを与えた鉄筋の応力―ひずみ関係

 鋼桁の補修にもしばしば熱して直すことが行われています。道路上の古い鋼桁は、桁下の空間等が少ないので、時々車が桁にぶつかり、ひどい時は鋼製の橋脚ごと倒したりもしますが、しばしば起こるのが部分的に損傷させることです。あまりにひどく損傷した部分は切りとり、残った部分の曲がっている個所は温度管理をしながら元の形状に曲げ戻し、切り取った箇所には新しい鋼板をボルトで残った部分と縫い付けるという補修を、日常的に行っています。
 コンクリートは、設計上は圧縮を負担することになっています。常時は強度の1/3以下程度に制限されています。ひび割れは主に引っ張り側に出るので、ひび割れが生じても耐荷力上は問題ないことがほとんどで、鋼材の防錆機能の低下や、見栄えが問題なのです。
 コンクリートの圧縮破壊時のひずみは3,000μから4,000μと大きく、曲げを受けてコンクリートがこの状況になるには鉄筋がその降伏ひずみを大きく超えていることが必要です。設計ミスがなければ、このようになるのは地震時か強制変位を受けたときくらいです。
 地震で損傷したコンクリートも、欠落部やクラック部を樹脂などで充填すれば十分機能を回復します。

5.構造物のメンテナンスの問題の原因はほとんど設計、施工の建設時点

 構造安全性に係る損傷の原因は設計の配慮不足やミスがほとんどです。またコンクリートのかぶり剥落や、支承部の損傷は施工管理や検査の不十分さに依っています。欠陥がわかった時点で、構造物の、設計、施工、検査のルールを、欠陥を生じさせないように修正していけば、本来の100年程度は問題のない構造物になるはずです。
 メンテナンスにとって、点検は定常業務として必要ですが、補修、補強は建設時点で対応がしっかりできれば、大幅に少なくなるでしょうし、また損傷の生じた既設構造物も再劣化しない工法で適切に補修、補強がなされれば、徐々に補修、補強の業務は減ることでしょう。当面補修、補強は必要でしょうが、将来的には補修、補強のほとんど不要な構造物としていくことが人口減少化のインフラにとっては必要なことだと思います。 
 同じ欠陥を作り続けるシステムは、設計、施工を含めて見直すことが必要です。

6.民間会社では補修費は会社の経営状況による

 予防保全が望ましいといわれていますが、それは資金があればできる話です。JR分割前の国鉄は赤字経営が続いたため、特に地方のローカル線には修繕費に余裕はありませんでした。東北地方のローカル線は凍害がひどく進んでいても、列車を支える躯体の損傷がかなり進まないと、手を入れないままのものも多くありました。
 調査で現場を歩くと、橋梁のわきの歩道に敷設してあるプレキャストコンクリート板に足を載せると、凍害で劣化していて穴が開き、足が入るという状況の箇所もありました。
 また補修方法もお金をかけて徹底して改修するのではなく、少ない予算で少し延命させようとの判断が多く行われていました。ただし、点検(鉄道では検査という)は2年に1度は社員が行っており、状況の把握は行われていました。予算の範囲でどう延命させるかということが中心の時代でした。
 JRに分割された後のJR東日本のローカル線のこれら損傷の進んでいた構造物は、徐々に本格的に補修され、国鉄末期のような構造物はほとんど姿を消しました。これは会社の経営状況によるのです。おそらく経営の苦しい会社では、国鉄末期のような対応をせざるを得ないのだと思っています。どうしても予算がなく補修が間に合わないと列車速度を落としての運行という対策が行われます。
 鉄道は列車運行に即影響する車両や軌道のメンテナンスを優先せざるをえません。経営が苦しい会社では、構造物までお金が回らず、コストを掛けない修繕で、延命化を図っていると思われます。それでも劣化がさらに進むと、徐行運転や、その後は運行をやめるか、徹底的な修繕をするかの判断が必要になります。
 地方の鉄道を、鉄道収入で維持することは困難で、いろいろの公的支援も行われていますが、現状では構造物を長期的に維持することは難しく、道路と同様に公的に維持するか、廃止するか、BRTなどの新しい形態とするかなどの選択をせざるを得ない線区が多くなるでしょう。国民的な議論が必要だと思っています。


写真-7 補修前の凍害の橋脚天端

 メンテナンスは、設計、施工、検査の結果が反映されます。点検業務はメンテナンス特有な業務ですが、技術的には設計、施工、検査や契約などすべてが影響しています。技術面ではメンテナンスを独立して扱うのではなく、すべての技術分野にかかわれる組織で扱う仕組みとし、問題の原因の上流の設計、施工、検査なども常時改善していくこと必要だと思っています。
(2021年2月1日掲載。次回は3月1日に掲載予定です)

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