道路構造物ジャーナルNET

第61回 「甘えの構造」が導き出すリスク

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2021.01.16

3.現状の理解

 点検のファーストステージが終了し、約1割が評価Ⅲであり、早急に何らかの措置をしなければならない。Ⅲ評価の補修は終了した。といううらやましいことを言う自治体もある。本当にそうであれば、問題はないが、補修方法によっては再劣化もあるし、根本ができていないかもしれない。それぞれの事情があるので一概にはいかないが、ほとんどの自治体は苦慮していると言えるのではないか? ではなぜ困っていることを考えないのか? ここが私が一番疑問なところである。
 私自身が最近、気になっているのが、みな「長寿命化」と言っているが本当に可能なのか? 本来、計画時にLCCは検討しているはずである。例えばであるが、今点検しよう、補修しようとしている橋の「生い立ち」は、わかっているのか?ある程度は推測できるのか? と言うことである。定期点検では現在の事実しかわからない。これも、先に書いたように、現在では表面だけである、さらに、申し訳ないが、「手抜き」や「見逃し」はいまだに行われている。

 では、なぜ生い立ちも重要かと言うと、人間と同じで生まれつき、病弱であったり、丈夫だったが、過酷な働き方をして今はボロボロと言うものもある。それぞれの、リスクも加味しないと、本当の補修は難しい。つまり、計画時からのリスクマネジメントが必要であり、それが現在は分からない状況で議論されている。自治体には橋梁台帳とすらきちんと残っていない。以下のリスク要素が本来必要であると考えている。
 計画時
  ・計画位置の決定根拠
  ・構造形式の決定根拠
  ・未知情報はないか? 土質や災害の歴史 等
  ・計画業者、調査業者
 設計時
  ・構造形式の決定根拠、特に基礎形式
  ・接合構造や、部材の重なりなどの検討
  ・水処理、水仕舞の検討
  ・細部構造の配慮、維持管理上の配慮
  ・鉄筋量、配筋の根拠
  ・構造物のバランス、デザインにとらわれていないか?
  ・設計業者、下請け業者
 施工時
  ・部材等の製作仕様
  ・塗装や保護工法
  ・使用材料の特質
  ・残留応力の有無
  ・既製品を使用した場合の受入情報
  ・施工業者、下請け業者
 完成時
  ・出来形、キャンバー値の管理
  ・初期不良の有無

 これらが、きちんとできていてこそ、はじめて、点検結果のみで対応できる。簡単に言うと、そもそも、病気のあるものの寿命を延ばすために、膨大な予算をかける必要がどこまであるのか? と言うことである。ある橋梁のように鉄筋が不足していたり、配筋がめちゃめちゃであったりしたのでは、とても無理であり、今頃、「長寿命化」と念仏のように唱えても、真の意味での長寿命化はできない。
 これらは、過去の「甘えの構造」が導き出すリスクであり、地方の市町村にはこれらが多数存在することが懸念される。そして、これが理解できている自治体職員は、少ない。これを今、強く感じている。

4.まとめ

 現在、新型コロナウイルスが広く蔓延し、感染数は累計で28万人、新規感染者は1日約8千人(2021年1月上旬)と言うことである。医療破綻が叫ばれている。これと比べれば、橋梁数は70万橋、評価Ⅲは約7万である。
 しかし、データに踊らされていても仕方がない。我々はデータに弱い。しかし、我々は科学的に、1橋1橋の問題を技術的に解決し、総合的にマネジメントしていかなければ問題は解決しない。今になっても、1橋1橋の話をしている方もいるが、新たに作るときに、いい加減に作っておいて、維持管理になってから、騒いでも遅い。設計時や施工時には必ずと言ってよいほど、様々な問題が発生し、それに対応しなければならない。構造上問題が無ければよいが、欠陥を発生させるものもある。さらに、ほんとうは、構造物を作ってはいけない場所に作っている場合も多々ある。さらに、道路線形が劣化を早めている場合だってある。
 いつも言っているように結局はそれらをどう見極められるかが問題であり、それができるかできないかは、“ひと”である。コロナで医療崩壊の大きな要因は、医療関係者の数である。現状では質の話はあまり出てきていないが、この辺も、似ている。技術者はすぐには育たない。特に橋梁技術者は少なく、トンネルの技術者はさらに少ない。我が国において、大規模プロジェクトが無くなってから久しい。つまり、育っていないということである。

 財政がきびしい。来年度はもっと厳しくなる。2030年くらいが正念場かと思える。インフラの老朽化問題は、さらに厳しくなっていくであろう。その前に少しでも早く光明を見つけないとならない。どうも今の議論は、ハード技術の専門家の方はハード技術を、マネジメントの専門家はマネジメントを、IOTの専門家はIOTを、と分割して議論しているが、この問題は総合力で対処しなければならない。専門家にはそれぞれ聞けばよい。1つずつでは解決できない。何よりも、管理者側にこの辺が理解できる人間が必要である。いなければ育てる必要があるが、当面もう手遅れであるので、そういう人間を外部から入れるか? 来てもらう必要がある。私はそういう目的で、富山市に招聘されたわけであるが、理解できていた人間は少ない。管理者側には新たな思考と、新たな事柄を受け入れる度量が必要である。

 技術者の育成と言う観点だけから見ても医療関係者以上に時間や様々な経験が必要となり、確固とした技術者1人育てるのはかなりな労力と時間と個人の資質が要る。あの天才、アインシュタインでさえ、「何かを学ぶのに一番良い方法は自分で、やってみることだ。」と言っている。私もこういう主義であり、今までさんざん無駄だと思えることも、やり失敗もして評価を下げてきた。インフラ・メンテナンスに今必要なのは、「やってみる」と言うことである。こういう変換期で、十分な情報が無い中では、やってみるしかないのである。やってみる、度量も必要だ!
 最近、遠慮がちに、いろいろ聞いてくる方や、知り合いを通じて「相談したいと言っているが良いか?」と言ってくる。私は、ありがたいことだと思う。以前より自由の身なので、いくらでも対応は可能である。何か相談があればどうぞお気軽に。もう、公務員ではないので、気軽に応じられる。(2021年1月16日掲載、次回は2月16日に掲載する予定です)

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