道路構造物ジャーナルNET

⑯鋼橋のトラブルと対策

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.12.01

3.空頭不足で自動車が桁にぶつかる

3.1 下フランジの変形
 鉄道の下を道路が通っている個所での話です。桁下空頭が少ない場合は、道路上に鉄道の桁の手前に防護工があるのですが、それでもそれを突破して車が桁にぶつかることが時々あります。写真-6の鋼桁は下フランジが曲がってしまいました。


写真-6 車が衝突した鋼桁

 大きく曲がってしまった部材は、その部分を撤去します。少ない曲がりは、温度管理をしながら熱して元の形状に戻します。撤去した部分は新しい鋼材にて置き換えます(写真-7・8・9)。元の部材とハイテンボルトで接合します。このような補修方法で、早期の列車運行の再開が行われています。


写真-7 ベントで仮受け後、損傷部位を切断、撤去

写真-8 新しい部材の取り付け

写真-9 補修完了後

3.2 桁防護工の転倒による鋼製橋脚の転倒
 写真-10は、桁防護工と桁が近かったため、桁防護工にトラックがぶつかり、桁防護工が転倒して、桁を支持している鋼製橋脚を倒した例です。
 桁同士を連結していたこともあり、桁の落下は防げました。鋼製橋脚を再設置して、倒れにくいような補強をして復旧しています(写真-11)。また、防護工の位置も桁に転倒しても当たらないように桁から離して設置しなおしています。


写真-10 桁防護工の転倒による鋼製橋脚の転倒

写真-11 鋼製橋脚と橋げた防護工の復旧

4.F11Tの遅れ破壊

 高張力ボルトが今では部材の接合に多く使われています。かつてはリベットが主流でした。この高張力ボルトの強度も徐々に高強度のものが採用されてきました。1964(昭和39)年にJISB1186(摩擦接合用六角ボルト、六角ナット、平座金セット)規格が制定されてから、SM41鋼材にはF9T、SM50鋼材にはF11Tが用いられました。
 なお、試みとして1965(昭和40)年に中央線笛吹川橋梁において、F13Tが用いられました。F13Tは早いものは数か月のうちに遅れ破壊を生じ、1967(昭和42)年のJIS改定に際し削除されました。
 その後、F11Tについても厳しい条件下で同様の現象が発生し、1979(昭和54)年の改定で、なるべく使用しないことが望ましいとされ、括弧付きの扱いに変更されました。
 F11Tの破断が起き始め、道路の上に架かっている桁等から破断したボルトの一部分が落下するので、人や車に当たらないようにネットで覆う処置がとられました。破断したボルトはF10Tに変えられています。写真-12は高張力ボルトF11Tが破断した跡です。写真-13は破断し落下したナットの部分です。鋼材の強度を上げていくと、このような事象も生じます。高強度材料に変えていくことは必要ですが、このような点にも注意して進めることが必要です。


写真-12 高張力ボルトの破断跡/写真-13 破断して落下したナット部分

 鋼桁の損傷の補修は、劣化した箇所を撤去して新しい部材に交換して、ボルト接合で一体化するというのが基本かと思われます。鋼橋の関係者はかなり容易に補修を行っているように見えていました。
 古い鋼橋でディテールが悪いものは、塗装が完璧にいかず腐食が進んで苦労しているものもあります。
 騒音問題で、新設の鋼橋は鉄道では都市部でほとんど採用されることはなくなっています。騒音の問題の少ない地域では採用されています。腐食対策として、メッキした桁や、耐候性鋼材を用いた桁、あるいは重防食塗装や金属溶射を採用するなどメンテナンスを減らしたものが増えています。

【参考文献】
1)野澤太三、山田幸男;新幹線橋梁の現状と諸問題、鉄道土木.Vol.19,No3,施設協会、1977年
(2020年12月1日掲載。次回は2021年1月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)
⑨道路 PCグラウト
⑩支承部の損傷
⑪基礎の移動、沈下、地下水の変化による構造物への影響
⑫構造物の欠陥との付き合い
⑬RC桁の曲げひび割れと乾燥収縮
⑭たわみで問題となった桁
⑮ 規格や基準の誤解、間違い、不備が原因のトラブル

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