道路構造物ジャーナルNET

第57回 「新技術」と言うのは、「道具」である

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.09.16

毎年のように災害がやってくる
 老朽化は、静かに着実に侵攻してくる

3.新たなしくみ、新たな人
 戦略の基本は、最悪の状況を想定しそれに備えることが重要である。今後どういう状況が自分たちに降りかかってくるのか? 事前に用意しておくことはあるのか? 何もできないのか? 今は、非常時なのである。先の九州の豪雨災害を見ても、毎年のように災害がやってくる。この災害と老朽化は、避けては通れない。しかし、50年に一度が毎年毎回怒っている状況を見るとこれまでの常識を考え直さなければならない。おそらく、来年度は、災害に目が向けられていくであろう。老朽化は少し静かになるかもしれない。しかし、老朽化は待ったなしで静かに着実に侵攻してくる。

官側の責任は果たせているのか?

 まず、新規の時にきちんと、対応ができているだろうか? わが国には先進国の中では極めて厳格な基準類がある。それを着実に実行できているだろうか? 最近設計に関して書いてきたのにはその辺の疑問が非常に大きい。これは民間だけの責任ではなく、打ち合わせ協議時の的確な指示や完了検査時などの検査時における、厳格な検査体制等の官側の責任が十分に果たせていない場合が結構あるのではないか? 「わからない」ままで済ませてしまい、なんとなく受け取る。簡単に言うと、正しくない設計かもしれない。一つの、解決策として、「資格制度」がある。発注時の資格要件を明確にして、プロに仕事を依頼するのが本来の姿だが、富山市でさえ私が赴任した平成24年までは、その辺が明確ではなかった。調べてみると地元に手厚くという逃げの構図である。これできちんとできていればよいが、どうもそうとは限らない。

それは腐食による損傷か? 疲労や衝撃によるものか?

 1点、以前から非常に気になっていることがある、道路橋示方書の中に、製作や施工の出来形の管理の基準値があるが、皆さん、これをあまり意識していない。点検時にもしかりである。点検して、これが大幅に狂っているようであれば荷重の伝達は正常には伝わらない。伸縮装置の段差が大きければ、衝撃がおおきくなる。床版や本体にまで悪影響を与えるし、劣化を促進する。しかし、あまりそういう報告を聞いたことがない。
 例えば、鋼材などの破断面を見てそれが腐食によるものなのか? 疲労や衝撃によるものなのかは、経験のあるものならば、一目瞭然である。いわゆる破断面を見ればすぐわかるのだ。しかし、老朽化による腐食で済ませてしまっている。これは、実験などの経験が少ないからなのである。
 作る段階では、やはり精度管理の問題が大きいが、図面通り作れるか? 作っているか? と言う問題がある。土木構造物でも「品質管理」はあるはずである。
 橋脚の沓座にクラックが入り、崩落した時にASRがあったとはいえ配筋不足だと思った。鉄筋探査をさせると、案の定、橋脚の天端には鉄筋がなかった。橋脚の途中で止まる、というか、これも不思議な入り方をしていた。「コンクリート打設時にずれたのかもしれない」と言うものもいたが、それならば本来は、ハツリ直して配筋を再度し直して、打設し直しである。

「不安な構造物を市民に提供」したことになる
 老朽化問題の多くは施工不良の問題が大きく関わってくる

 土木構造物の品質管理とはそういうものだ。皆あまり気にしていないようなので、今更、言わないようにしたが、これを施工した業者は本来は出入り禁止であり、監督員の責任もある。何よりも、普段皆さんが言っていることと違い「不安な構造物を市民に提供」したことになる。ただし、瑕疵担保期間も過ぎているし、「老朽化」という、世の中の動きに救われた感じである。老朽化問題の多くは本来は、施工不良の問題が大きくかかわってくる。出来が悪ければ長持ちはしないということである。設計も施工もよくわかっていない人間がかかわると、形だけ真似しようとする。「なぜこういう構造なのか? どういう配筋何か? 何に注意しなければならないのか?」これは、現場での施工と言うのは、設計で示されたものを現物に再現する作業であるからである。大きく違ってしまえば、力の伝わり方も変わってきてしまい危険な状態なものを作ってしまうかもしれない。そんなものは長持ちするわけがない。実はこれが、地方自治体の老朽化問題の大きな要因なのである。しかし、皆触れたがらないだろう。

「コンサルの図面では物は作れない(?)」
 役所にも大きな責任

 最近、現役を引退したこともあり、ゼネコンの方々と多く話すようになった。(富山ではなく東京のスーパーや中堅)皆口をそろえるのは、「コンサルの図面では物は作れない」と言うことである。これは何度も書いた。思わず「すみません」と言ってしまうが、その実態を分かっていない役所にも大きな責任があることを、もうこの辺で認識しましょう! 旧来のシステムがダメなら、変えればよいのだ。この時、様々な圧力がかかるであろう。それに屈するか屈しないか? それは個人個人の選択肢だ。コンサルの方々は、自分たちが何をすべきなのか? を考える時が来た。これは前から言われている。
 コロナ禍で経済は大きく衰退した。今後も、厳しい次期が続く。経済を回復する、特効薬は公共事業であるが、極力無駄を防ぐ努力をしなければならない。

富山市 数人のサムライに将来を託す
 議論し意見を闘わせ、判断していくことが、今後重要となる

4.まとめ
 インフラの老朽化対策と言う、新たな課題に対抗するには、新たな発想が必要である。旧来の考え方では、おそらく対処しきれない。私が富山でなんとなく6年間やってこれたのは、富山という地方の古い考え方が強く残る地域においても、同調し理解して、一緒にやってくれた数人が居たからである。この数人のサムライに将来は託したい。変わらないでいてほしい。
 私は、これまでどこに行っても、決して周囲に無理強いはしないことにしている。それは、自分にとってそれが一番いやだからである。思いは伝えるにしても、無理強いはしない。そういう、立場、権限を与えられているわけではないし、基本的に相手の解釈に任せていた。これでは、弱いと言われるかもしれないが、全ては判断し選択する相手方にボールを預けている。マネジメントを実行するには、リーダーシップを示す者が必要である。高圧的なリーダーシップもあるだろうが、今どきはやらない。そして、全員が理解してくれなくても物事は動く。動かせる。
 そのくせ、世の中の現在の風潮はすぐに「住民の総意」とか「同意」と言う方向にもっていきたがるがそれはまやかしである。本当の民主主義ならば、様々な意見があってよい。出てくるはずなのである。周りの雰囲気で、意見が言いづらかったり、合わせろというような雰囲気になってしまっている。これを「空気」とよく言う。「忖度」もそうである。同調の強要とまではいかないが同調しなければならないという雰囲気づくりを一部の人間がしてしまうのが今の世の中である。自ら乗せられていく人もいる。民主主義、民主主義と言いながら、社会主義になってしまっている。様々な選択肢の中では、正しくないこともあるだろうし、回り道になってしまうこともある。しかし、それは、社会的には仕方ない。結局何事も、その時その時の判断なのである。で重要なのが判断する人間である。この判断する。判断できる人間が、居ることが、その自治体、その組織の強みとなる。
 今後、橋梁ばかりではなく、トンネルや他の老朽化構造物は多々ある。橋梁もそうだったが、私が気になるのは、点検する方々は、まじめに、0.2mmのひび割れまで一生懸命拾っている。ご丁寧に損傷図も書いている。ここまではよい。しかし、すぐそこにある20.0mmのひび割れに対し、疑問を持たないというよりも持てない。これは技術者として、劣化である。いかがなものか? そのようなものに、「モニタリングでとりあえず監視しろ」と言ったら、付けたのだが、意味が分かっていないから、とんでもない場所に、定規を張っただけ。まず、モニタリングは目的を理解し、取り付ける、計測する場所を理解して考えなければならない。これができないのは素人である。「もっと、ちゃんとつけろ」と言うと、300万円の見積もりを持ってきた。どうせコンサルが、できるわけがないと思い、計測会社に直接見積をもらったら1/3の値段だった。(と一応言っておく)ぼったくられてはいけない。Ⅲ評価に、モニタリングシステムをつけることも対処法の一つとして認められたので、モニタリングシステムに関する期待が大きい。修繕するのと観察していくのでは大きく予算規模が異なる。弱小の自治体にとってはできるだけ、モニタリングでしのいだほうが、安価なわけである。
 しかし、安易にサービストークに乗せられてはいけない。つける場所が無駄ならば無駄なのである。モニタリングシステムをつけたから、それで解決するわけではない。データをどう収集し、どう判断していくかが重要なのである。管理者の方々は騙されてはいけない。力学の基本がわかっていればわかるはずである。
 これは金の問題だけを言っているのではない。技術者であるならば、現象を正しく理解して、どうすべきか考える癖が重要なのだ。そして老朽化問題は、時効であろうが、かつての施工不良や設計ミス、特に技術者の劣化を、露呈していく。  これを言うと嫌がられるかもしれないが、これから重要なのは、困難を切り開いていく、精神である。これまでに、あまり重要視されなかったインフラの老朽化を、真っ向からとらえ、自分たちで切り開いてほしい。官も民も目的は一緒である。ともに議論し意見を闘わせ、判断していくことが、今後重要となる。それを恐れないでほしい。本来の姿になるだけだ。そういう、サムライたちに期待したい。
(2020年9月16日掲載、次回は10月16日に掲載予定です)

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