道路構造物ジャーナルNET

第56回 インフラ・メンテナンスの新たな世界

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.08.16

4.まとめ

 老朽化対策の新たな技術や仕組みの導入がなかなか進まない。  これには、多くの課題があるが、やはり、その多くはヒトの問題である。とくに、役所側に問題がある。しかし、異分野の方々が結構興味を持っている。義理の息子のことを書いたのは、そういう意味の導入である。以前から、いわゆるメガバンクの方々からも相談を受けている。私が対応した韓国の高速道路PFIは、日本の銀行が出資していた。現在、コロナ禍で止まってはいるが、おそらくは動かさなければならない。コロナもそうであるが未知のものと向き合うには、リスクは覚悟で試してみなければならない。おそらく、役所はこれが一番、苦手でやりたくないことであり、できない。私が富山に行き6年経過しても、なかなか成果が出せなかったのも、私が行ったわけを、皆さんが理解できていないからである。役所なので組織体系がきちんとでき上っている。これはそれでよい。しかし、それは常時の体制なのである。
 インフラの老朽化に対するためという特別な目的の上で赴任したわけであるので、本来の組織とは別の動きが必要だった。それが理解の域を超えていたのであろう。異分子がは入ってくること自体がNGなのである。非常時であるからであり、常時とは別の体制が必要だから市長が呼んだわけである。これが理解できていれば周りの対応も変わっていたと思うが、長年培われた役所の体制、地方の建設業はそうはいかない。
 写真の1枚は、NTTドコモが実施している4K、8Kカメラを使用した、橋の画像解析でたわみを計測する実証実験の様子。もう1枚は福島県の株式会社久野製作所で開発した、首都高の壁高欄塗装用のロボットである。このような比較的簡単な計測技術や、自動化技術に関しても導入の検討を行っていかなければならない。結局、開発者と導入者がそれぞれ、ある程度は現場の知識を持たないと無理なのである。NTTドコモは、もう皆さんおなじみであるが、久野製作所は、ウォータージェットの会社である。ウォータージェットも今後の維持管理には現在以上に重要な役割を果たすであろう。(4月から公務員ではないので、企業のPRもよいことになる。一生懸命な企業は応援したい)

 



NTTドコモの実証試験の様子

壁高欄塗装ロボットの試験 (株式会社久野製作所)

 かつて江戸幕府が二宮尊徳を農業改革のために、地方に派遣した。飢饉で苦しむ地方の農業の生産性を上げるためである。農林省にいた父によく聞かされた。父も農業の改革に取り組んでいた。尊徳は栃木にも来ていた。(大体、二宮という地名があるところはそうである)ある時、地元民があまりにも言うこと聞かないので、身を隠して出て行ってしまった。それではいけないと気付いた村の代表は、探し出して謝罪し、尊徳に従うように村人に説いて、村の作物の生産性が上がった。これは、今の世の中では難しいのかもしれない。現在の人間は、1人1人価値観も違うし、教育のレベルもプライドも違う。いろいろな要素が邪魔をする。しかし、同じなのは、少しでも従来よりも良くしようという目的意識であるはずである。村人は、何をやっても無駄だ! とあきらめていたのだ。諦めたらそれで終わる。

 新たなものに挑戦していくためには、旧式な体制や考え方では対応はできない。そして、リスクは覚悟で取り組まなければならない。何よりも大切なのは、幅広い意味での「勉強」である。経験もなくうわべだけの知識で、対応しようとするから判断できるはずがないのである。今や非常時なのである。自分たちだけでは対処できないということがわかっていない。その辺の勘違いが荒廃への道となる。残念なことであるが、それも自分たちの、選択である。
 そもそも、他人に物事を伝えるのは難しい。相手がどういうとらえかたをするか?わからない。その人たちが、どういうとらえ方をし、どう判断していくのか?人は自分の経験値の中でしか判断の視野がないのが普通である。このコラムにしても悪意を持ってとらえていれば全く違ったものとして受け取られる。そこが難しいし、リスクでもある。
(2020年8月16日掲載、次回は9月16日に掲載予定です)

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