道路構造物ジャーナルNET

⑫構造物の欠陥との付き合い

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.08.01

1.3 コンクリート打設の施工計画が悪いと欠陥構造物になります
 この話は、当たり前の話ですので、ここに書くまでもないのですが、毎年何件か、新設構造物でコンクリートの充填が不十分で、壊すということが起こります。技術は進歩してきたので、このようなことは減るかと思うと、逆に増えているように感じます。
 コンクリートの施工計画は大事です。1日のコンクリートの施工量とポンプ台数、コンクリートの流動性とそれに対応した作業員の数、打設順序などしっかりと計画することが必要です。
 コンクリートのスランプと、配筋の込み具合のバランスが悪いと豆板を作りがちです。またコンクリートの投入口の確保、バイブレーターの挿入箇所の確保の計画が不十分でもコンクリートに欠陥を生じます。この欠陥を後から直すのは大変だし、また場合によっては壊して作り直すこととなります。それまでの鉄筋組立などの苦労が水の泡となります。このコンクリートの打設計画は事前にしっかり経験者を入れて作ることが重要です。不安なら、コストは少し増えますが、高流動、中流動のコンクリートを使用するほうが、結果的には安くなります。
 硬いコンクリートをしっかり施工するには、多くの作業員が必要です。鉄道橋の最初の本格的なPC桁の信楽高原鉄道の第一大戸川橋梁は、スランプ3cmのコンクリートを入念に施工しています。
 今では各種混和剤が利用でき、施工が楽なように、スランプは12㎝程度になっています。それでも、さらにコンクリートの施工を容易にするように、さらに大きいスランプでの施工を期待することが多いようです。単位水量はコンクリートの品質面から上限が規定されています。それを守った範囲で、柔らかくするのは技術的な面からは構わないと思います。単位水量さえ守れば、柔らかいコンクリートを使うことは悪くありません。

 生産性向上ということが建設分野でも必要とされ、いろいろと対応されてきています。コンクリート分野での生産性向上は、ポンプ施工の導入が大きかったと思います。しかし、導入直後には、生コンへの加水が多く行われ、中性化の早いコンクリート構造物が多く造られてしまいました。今、それらの構造物のメンテナンスに苦労しています。
 これからも生産性向上の施策が色々取り入れられるでしょうが、欠陥構造物としないように品質を確保しながら対応していくことも大切です。コンクリートの施工性を高めるには生コンも流動性の自由度を上げて、人手がなくても豆板を作らないものを自由に選べるようにし、品質の管理は単位水量や、強度などに変えていく方向に進めていくべきと思っています。


写真-4  コンクリートの充填不良

写真-5 PC定着部付近のコンクリート不良

2.現場作業員から施工不良の告発

 ここでは、私のかかわった作業員からの施工不良の告発の例を紹介します。
 施工記録にて、施工状況を後からでもわかるようにしておくことは、今は必要な時代です。資料がないと言っても、国会答弁とは異なり、我々一般人は逃げられません。現場での人間関係が悪化すると、悪意をもって、故意に欠陥を作りマスコミに知らせるということも起こります。このようなことが起きないように、また起きても、説明できるように、記録を残しておくことが必要になってきました。以前PCグラウトを故意に施工せずに、国会に投書した例も紹介しました。
 今はICTが進歩しています。すべての現場の状況を映像で記録し、施工者も発注者も常時見ることも、またあとから確認することもできるようにしたらいいと思います。このような記録があれば、社員教育にも、また現場の作業改善や、技術開発などに役立つと思います。
 今までは、現場の実情を知られるのは喜ばない風土がありましたが、これからは疑いをもたれた時、証明できる仕組みにしていくことのほうが優先度の高い時代と思っています。

 実構造物の施工欠陥について、週刊誌や新聞の記者などから相談を受けたり、マスコミに出てしまってからその事実関係を調査したりということを経験しました。
 マスコミという意味では、何度か、かつて国鉄の記者クラブで災害などの復旧方法などを説明したり、事故や災害で現場に調査に行ったら記者に囲まれてしまったという経験もあります。
 人間ですので何度か付き合っていた記者は、お互いにわかっていることもあり、話を理解してもらえます。これが初対面ですとなかなかうまくいきません。我々技術者が常識と思って話をしても、技術的な常識は理解されず、場合によっては記者が思い込みを持って聞いてくるときなどはこちらの説明をほぼ信用してもらえません。
 記者クラブでの説明も、多くの記者は大学を出て数年の文科系の出身者です。基礎知識のない人に技術的に妥当な方法などという説明はほとんど理解されません。そのような集まりに、知り合いのベテランの記者がおり、この技術者の言っていることは大丈夫だというような発言があると、突然皆が納得してくれます。
 事故や災害で現場に行ったときなども、地震被害などでは、記者によってはすぐ施工不良でしょうという先入観を持っている人もいます。すぐ近くで同様の構造物が無被害ですと、壊れているのは施工不良だと思い込んでいるようにも思われます。若い技術系でない記者に理解してもらうのはなかなか大変です。このような時は、大学教授などの肩書があると、比較的納得してくれるようです。
 以下に私がかかわった施工不良の告発の事例を紹介します。

2.1 コンクリートの欠陥の存在を週刊誌の記者から連絡
 写真週刊誌に、ある発注者での施工の欠陥が掲載されました。その週刊誌の記事を書いた記者から、我々の現場でもその施工者で施工欠陥があるとの連絡を受けました。その記者の言う構造物を記者と一緒に調査しました。表面をはつってみると鉄筋の輻輳している内部はコンクリートが十分充填されていない状況でした。記者は、そこの作業員から直接話を聞いており、記者の言う通りの施工欠陥がありました。


写真-6 鉄筋輻輳箇所のコンクリートの不良、この奥に空洞

2.2 鉄筋が不足のまま施工されたとのマスコミへの投書があり、記者から記事にする前に確認を求められた
 これは専門誌の記者からの問い合わせでした。施工現場の作業員から、現場の配筋が足りずに施工しているとの手紙と一緒に、鉄筋の配筋状況の写真が記者に送られてきました。その写真は設計図と比べると足らない状況でした。記者から、私のところに記事にする前に事実の確認をしたいとの連絡がありました。
 その現場の、配筋検査の写真を取り寄せ、送られた写真と比べました。コンクリート打設前の検査での写真には図面通りの鉄筋が配置されており、作業員の送った写真は配筋途中での写真でした。誤った記事にしないで済んだことと、欠陥構造物との疑いを晴らせたことで安心したことがありました。でも、記録写真が残っていなかったら欠陥構造物といわれても、反論のしようがありません。記録をしっかり残しておくことは大切です。

2.3 柱のコンクリートのコア削孔で、鉄筋を切ったとの写真付きの手紙
 これは耐震補強で柱にコアを抜いてそこに鉄筋を入れてせん断補強を行う工事でのことでした。この現場の作業員から、発注者にコア抜きの時に柱の鉄筋を切ったと、コアの中に鉄筋のある写真と手紙がとどきました。
 鉄筋を切っている柱と、鉄筋を切らずに施工した柱を調べることは困難な状況でした。柱ごとに鉄筋を切っているのか、いないのかのわかる証拠の記録写真は残っていませんでした。そのため、施工したすべての柱で鉄筋が切られたという前提で、その施工会社の施工した構造物すべてを補強することにして対処しました。
 この事件の後に、コアを抜いたら、コアをすべて残して、鉄筋が切れていないことを確認して、立ち合いと写真での記録に残すことにしました。これは作業員と、その雇い主の施工会社との間でトラブルがあったことが一因と想像されています。
 しかし、あとから問題があるといわれたときに、問題ないといえる証拠の写真などを整備することは品質保証のためにも必要です。証明できないと、全構造物を補強するなどの対処が必要となります。

3.人身事故で、設計や管理の責任の有無の取り調べ

 コンクリートの剥落などで、それが人に当たり、けがをすると事件となります。かつて高架橋の高欄にブロックが多く使われていました。このブロックは水を通しやすく、鉄筋が内部で腐食膨張しブロック片が剥落するということが起きていました。現場のメンテナンスの担当者は事前に叩き落しなど非常に注意を払っていました。
 不幸にも、高架下が道路に利用されており、そこを通行中の乳母車の赤ちゃんにブロック片が落ちて、大きな人身事故になってしまいました。私はそのブロック高欄の設計にはかかわっていませんでしたが、図面には私の職を以前にしていた先輩のサインがありました。
 設計の実態を知りたいということで、何度か警察に呼ばれました。設計面で不備があったのではないのかというのが私への質問の中心です。設計がされた時期にすでにブロック高欄というものの中の鉄筋が錆びてブロックが割れて、その一部が落下するというのは、一流の技術者なら判断できたのではないのかということが質問の中心です。
 設計時点で判断できるのなら、当時の設計者にも責任があるとのことです。当然、設計当時でも予測可能であったと言わせようと取り調べはかなり厳しいものでした。いろいろな関係者が、現場の管理や、予算の配布など、それぞれの分野で責任があるのではと調べられました。
 現場は必死にブロック表面を叩いて、浮いている個所を落としていましたが、それでもまだできることがあるのであれば責任はあるとのことでした。たとえば、落下物注意と看板を出すこともできることではないかとのことです。現場から本社に対して、補修の予算要求を当然しており、その予算を付けなかった本社の関係者も調べられました。
 この経験から、とにかく担当のできる範囲でやれることをすべてやっていないと責任を問われることになるということを知りました。また取り調べの警察の担当者は、かなり優秀で数週間でブロックや、鉄筋、構造なども一流のエンジニアと議論できる知識を身に付けていました。その担当者は、前の担当事件は、有名な飛行機の墜落事故を担当していた人でした。

 事故が予測できるときは、お金がないなら、ない範囲でできることをすべてしていないと、人身事故となると刑事事件の被告となってしまいます。技術面でもわかっていることはすべて何らかの方法で対応していないと、責任を問われることになります。事故の場合の取り調べはかなり厳しく、うそをつきとおすというのは一般の人には無理ですので、人身事故は起きないように細心の注意が必要です。
 また取調官は、事件の責任のストーリーを作って、質問してきます。取り調べの調書に最後に内容を確認したら、指紋を押して認めるのですが、この調書は丁寧に読まないと、調査官のストーリーに沿って書かれており、話してないようなことも加わっていることもあります。
 この部分は言っていないといって、すべて削除してもらわないと誰かの責任が生じることもあります。かなりなボリュームの調書を丁寧に読み、修正させることはエネルギーが必要です。長時間の取り調べの後にこの作業なので、これは忍耐力のない人では難しいと感じました。このような経験をしないで済むように欠陥構造物をなくしていきましょう。
 なお、この事件の後、全国にあったブロック高欄は撤去され、RC構造に変えられました。
(2020年8月1日掲載。次回は9月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)
⑨道路 PCグラウト
⑩支承部の損傷
⑪基礎の移動、沈下、地下水の変化による構造物への影響

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