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⑦横風と車両横転について

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.04.01

2.横風と車両横転について

 2012年4月3日、日本列島を急襲した「爆弾低気圧」により各地で車両横転事故が発生した。本四橋でも「しまなみ海道 大三島橋」上においてアルミバントラックが横転した。このため、島嶼部の貴重な足となっている対面通行道路が長時間にわたって通行止めとなった。以下では白戸先生に助言を頂きながら実施した「事故原因究明と対策」についての取組を示す。
(1)爆弾低気圧の発生(図-1参照)
 2012年4月2日、中国の黄河南部で発生した1,008hpaの温帯低気圧が黄海を東に進み朝鮮半島を横断し日本海に。4月3日朝から急速に発達をはじめ、中心気圧が低下していった。3日、15時には972hpaに達し、「爆弾低気圧」の定義を満たした。4日、15時にオホーツク海上で最低気圧950hpaまで達した後、気圧が上がりながら北東に進んだ。この爆弾低気圧の影響で各地に被害が発生した。

(2)爆弾低気圧による被害
 被災地域は、西日本から北日本にかけて広く分布。災害の気象要因は、急発達した低気圧による暴風雨。人的被害は、死者5名、負傷者350名以上。日本の至る所で車が横転したり、屋根が飛ばされたりした。本四橋では、しまなみ海道「大三島橋」(写真-4参照)上でアルミバントラックの横転事故が発生した。

(3)しまなみ管理センターへの赴任
 2012年3月中旬に神戸本社からしまなみ今治管理センター副所長への異動の内示をもらった。入社33年目で14回目の転勤である。単身赴任も慣れてきて、通勤用に妻からミニ自転車を支給された。今治は2度目の赴任となる。最初は瀬戸大橋の開通日(1988.4.10)付で来島海峡大橋計画の為に着任。それから24年後に現場管理責任者として着任。4月1日(金)に本社で辞令をもらい、3日(日)の昼前の新幹線とJR四国のしおかぜ号で今治まで6時間ほどの小旅行。独身寮に着いたのが18時頃。翌日、出社するなり「横転事故の対応」にあたることに。まさかこういう事態になっているとは思いもよらなかった。

(4)横転事故の概要
  4月3日(日)、13時35分頃、今治ICを入って大三島橋上り線を走行中の6.7トンアルミバントラックが折からの強風に煽られ、反対側の下り車線上に横転した。このため、しまなみ海道は大三島IC~伯方島IC間が約7時間にわたって通行止めとなった。しまなみ海道は、海峡部長大橋4橋(新尾道大橋、因島大橋、多々羅大橋、来島海峡大橋)が片側2車線の全4車線。残りの区間は暫定2車線の対面通行で運用している。幸いなことに大三島橋上では下り線を走行中の車が無く、大惨事には至らなかった。大三島橋上での車両横転状況を写真-5、図-2に示す。

(5)横転事故原因の究明と対策の必要性 
 4月8日(金)、四国管区警察局、愛媛県警(高速隊含む)、本四会社の情報共有会議が開催される。一歩間違えば死亡事故に繋がる可能性もあり、従前から海峡部橋梁に求められていた「強風対策の設置」が警察側から再三発言された。(裏話;この夜は着任から1週間、横転事故対応に駆けずり廻った疲れもあって、同僚・部下と近くの居酒屋に。あまり触れたくはないが独身寮までの帰り道、街灯も何も無い、狭いあぜ道みたいなところを歩いて帰るが足を滑らせて川に転落。幸いにも渇水期で水がほとんど無く、大事には至らなかった。週明けに事務方の副所長が病院で診てもらったらいかがですかと。病院での診断は、頚椎損傷と腰椎骨折で2カ月は入院加療とのこと。医者は信用していないのでコルセットをして2か月我慢。来客案内で吊橋の桁内など腰を屈める場所は控えて。結局、身長が2cmほど低くなった。ほぼ8年経つが、腰は思うように曲がらず、頚椎損傷に伴う左手の痺れは多少残っている。このためゴルフのスコアは今一)。
 この一件に対する警察サイドの強い要請と私自身の技術者魂に火が付いた。このため、4月末から本格的に原因究明に着手することとなった。

(6)原因究明と対策に至るシナリオの作成
 原因究明と対策のシナリオは、①車両横転風速の推定、②地形及び橋梁の特殊性、③過去の横転事故事例の収集分析、④風環境調査を実施、⑤これらの結果を元に、構造的対策の実施と検証、というものである。
 白土先生には事故後お会いした。ご意見を伺うと共に、本件への協力をお願いした。幸いなことに、白土研究室においても「横風対策」をテーマに取り上げている、ということであった。

(7)車両横転風速の推定
 ①過去の文献
 これまでに車両の横転風速に関して検討したものは、「関西国際空港連絡橋の道路部強風対策に関わる検討(H8):本四公団」(表-1参照)があった。転倒時の瞬間風速は、実験や計算を元に算出されており、これを平均風速(大三島橋ではある意味開けた海上なので突風率は1.2と低く設定)に表したものである。参考に、本四橋の海峡部橋梁の強風時の通行止め風速は25m/秒以上、阪神高速湾岸線では20m/秒以上としている。

 ②今回の車両での検証
 横転した車両について釣り合い式(図-3参照)から横転風速を算出した。結論だけ述べると、積載物満載時においては表-1と同様な平均風速で横転。一方、空荷の状態においては通行止め基準を下回る風速で横転する可能性があることが判明した。

③横転事故による通行止め前後の風速時系列
 平均風速の時系列を図-4に示す。参考までに、伯方・大島大橋、来島海峡大橋のデータも示す。13時前後から徐々に風速が上がり始め14時20分には最大風速25.9m/秒に達し、それ以降徐々に風速は低下している。問題の事故発生時刻近辺では22m/秒程の小さな風速のピークが発生している。重要なのは、通行止め風速には達していなかったこと、トラックが橋上に進入した時点から蛇行運転をしていた(ITVよりの情報)こと、である。何らかの風況の変化が横転事故を誘発したのではないかと推定できる。

(8)地形及び橋梁の特殊性
 橋梁の耐風設計上、重要な要素の一つが地形の影響である。今回の検討は車両に直接作用する気流なので、例えば、風向(直角か否か)、気流の傾斜角及び乱れである。過去台風や今回の爆弾低気圧による風向はほぼ橋軸直角方向(WSW)(図-5参照)であった。

 要素の二つ目が橋梁の特殊性である。橋梁に作用する前の「接近流」が、構造物の特殊形状等により増速や減速されることがある。よく考えられるのが吊橋や斜張橋の主塔の影響である。また、自身で「横風対策」の検討を行った橋梁が一橋あった。それが「北九州空港連絡橋」の中央部アーチ橋である。
 全橋模型で耐風安定性の検証を行った後、今後の利用者の為に横風検討を行った。この時も「アーチリブ」及び「桁」の形状により、下流側の一定範囲に増・減速域が確認された。この時にお世話になったのが福岡県の耐風部会の(故)吉村健部会長(元九州産業大学教授)、久保喜延委員(九州工業大学名誉教授)、(元)三菱重工業長崎研究所 本田明弘氏(現 弘前大教授)である。この時の知見があったが故に大三島橋の車両横転事故の原因究明に繋がった。なお、この時の模型は、三菱重工業長崎研究所の大型風洞に入れる前提で縮尺1/50、3次元弾性体模型とした。横風検討に使用した模型の外観を写真-6に示す。

(9)風環境調査の実施
 風環境調査は、①定時・定点観測と②移動車両計測、である。定時・定点観測は、橋梁防護柵上に設けた3成分超音波風速計によりデータを取得したもので省略する(写真-7参照)。移動車両計測は写真-8に示すように、路面から2.6mの位置に3成分超音波風速計を設置した車両を強風時に走行させデータを取得するものである。

 この風環境調査は、平成25年春の冬季季節風を対象に実施したものである。このうち移動車両計測は強風の発生が予測された夜間に行った。移動車両の速度は、30,50,70,80km/hrとした。現地調査時には、白土先生他、研究室の学生さんが計測監視車両に同乗された。

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