道路構造物ジャーナルNET

③橋面舗装(鋼床版)について

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2019.12.01

(3)阪神高速道路の鋼床版舗装

 阪神高速道路の鋼床版舗装(以下、「阪神橋」という。)は、標準の2層仕上げ(基層はグースアスファルト混合物、表層は密粒度アスファルト混合物又は排水性アスファルト混合物)である。舗装厚さは、鋼床版がボルト接合の場合80mm、溶接構造の場合65mmとなっている。
 以下に述べることは私が阪神高速道路本社時代(2006年)あるいは神戸の設計課長時代(2007~2010年)に指導したことであり、建設時の設計に関して今さら愚痴るつもりは一切ない。
 本四と阪神の鋼床版舗装に対しての考え方の大きな違いは、舗装に優しい本四基準、鋼床版桁に優しい阪神、ということである。別に、阪神基準がおかしいわけではない。過酷な環境条件の海峡部長大橋では建設時により多くの配慮をした結果である。
 例えば、本四基準で規定したひび割れ抑制策である、①レーンマークの直下に剛性の高い主桁を配置する、②横桁ピッチは標準2m程度とする(防護柵支柱のピッチと同程度)、③デッキプレートは現場溶接(大ブロックの場合は工場あるいは地組み立てヤード溶接)とし、基層の厚さを確保する、という3点。
 阪神では湾岸線の長大橋を除きほとんどの橋梁が経済性を重視し、本体設計が行われている。このため、前記の3点は考慮されていない。阪神高速道路は都市内高速であり、本四橋のような大ブロック架設が出来ないこと、一部の湾岸線長大橋を除き小ブロック架設が前提であること、埋め立て地盤が殆どであり、出来る限り経済的に軽量化すること、が使命として挙げられている。

 これは、関空連絡橋でも述べた通り、橋梁のコスト縮減を第一に考えるか、あるいは舗装のメンテナンスも考えたLCCを考慮した設計とするか、であり大きな違いである。維持管理に目を移した場合、阪神高速の舗装の損傷はコンクリート床版に比較して鋼床版舗装に顕著に出ている。例えば、わだち掘れ、流動化、ポットホール、ずれ、等である。
 ポットホール等のスポット補修については限定的な補修でしかなく、本格的な補修は8年ごとに実施するリニューアル工事で行う。リニューアル工事では、舗装のひび割れ率とわだち掘れ量のマトリックス判定表に基づき、表・基打替え、あるいは表層打替え、を実施する。
 2007年以降、表・基打替えの際は、鋼床版表面を建設当初の状態に戻すことを目標に、①鋼床版表面処理は、ブラスト工法による1種ケレンとする、②基層はグースアスファルト混合物とする、と規定した。鋼床版表面処理の1種ケレンは、「連絡橋舗装基準」に準拠した。本四橋でも明石海峡大橋以降の長大橋では1種ケレンが義務付けられているとともに交通量が多い箇所にはプレコートチッピングが施工されている。
 基層については、2000年~2006年頃までは試験的にSMA(ストーン・マスチック・アスファルト)舗装が採用されていた。理由としては、グースアスファルト混合物に対してコスト面で有利であること、グースアスファルト混合物と同等の水密性が確保されること、耐久性に優れている、等のふれこみであった。実際には施工時の温度管理が難しいこと、十分な締固め密度が得られないこと、損傷が繰り返されること、等から使用を制限した(私が当時使用を許可したのは新設の京都油小路線での技術提案事例のみ)。
 鋼床版表面処理工法の1種ケレンは、関空時代の経験から必須とした。本四橋でも明石海峡大橋以降の長大橋では1種ケレンが義務付けられているとともに、交通量が多い橋(明石)にはプレコートチッピングが施工されている。

(4)カザフスタン・イルティシュ川橋の橋面舗装

 これまで長大吊橋や斜張橋を中心に鋼上部構造を主として担当してきた。関空時代から橋面舗装もライフワークに加わり、現在では国内・国外でのアドバイザーもしている。ここで紹介するのは2011年度にJICAから発注されたカザフスタン共和国「イルティシュ川橋梁維持管理支援」という業務の概要である。
 カザフスタンは中央アジアに位置する共和制国家(1991年にソビエト連邦から独立)である。イルティシュ川橋梁は、日本の円借款により建設され2001年10月に開通した橋長1,086m、中央径間750mの単径間吊橋である。
 それでは、何故こういう業務がJICAから発注されたのか。供用10年ちょっとで至る所に損傷が出てきたこと、これを契機に現地の技術者の維持管理能力の強化、が目的である。設計施工は日本の大手ファブである。現地の管理体制(供用後)の問題もあるが、それだけではないと私は考えている。大手ファブの代表技術者は多々羅大橋の設計施工を一緒に行った仲間だから名前は伏せる。
 この業務は大手ファブの下請けで本四会社が入ったもので、ファブの担当は吊橋本体の調査と補修提案。本四の担当は橋面舗装の調査と補修提案であった。本四の担当者は耐震設計のプロであったが、舗装設計や施工を一度も経験したことがない。以前、私の部下だったことが数回あり、今治管理センターの副所長の傍ら、日本側でのサポート等を行った。本四会社の常套手段である。
 イルティシュ川橋梁の橋面舗装の損傷状況を写真-3に示す(JICA イルティシュ川橋梁維持管理支援 報告書より抜粋)。


写真-3 橋面舗装の損傷状態

 損傷形態、要因を以下に示す。
 〇損傷形態
  ・舗装全面に亀甲上ひび割れ、ポットホール、補修箇所の流動化
 〇損傷原因
  ・過酷な気象条件(-50℃)、使用材料、過酷な交通荷重に起因する舗装材料の劣化等

 JICA専門家の黒子(裏稼業)に徹し、JICA報告書に記載(提案)した表・基打替え補修工法は以下の通りである。すべてが関空の連絡橋舗装委員会での検討や経験、その後の阪神高速道路での検討や経験を踏まえた提案としている。
 ①鋼床版表面処理は、ブラスト工法による1種ケレンとする。
 ②舗装は、二層構成とする。
 ③接着層は、瀝青ゴム系プライマーとする。
 ④基層は、グースアスファルト混合物+プレコート砕石(交通量が非常に多い)
 ⑤タックコートは、ゴム入りアスファルト乳剤とする。
 ⑥表層は、改質アスファルト混合物(ポリマー改質アスファルトⅢ型-WF)(耐久性から)
 写真-4にイルティシュ川橋梁を、図-5に橋梁一般図を示す。(JICA HPより抜粋)


写真-4 イルティシュ川橋梁

図-5 イルティシュ川橋梁一般図

(5)最後に

 橋面舗装技術の発展の経緯は、本州四国連絡橋の鋼床版舗装の設計・施工にあたり各種調査研究が行われ、その集大成として「本州四国連絡橋橋面舗装基準(案)」(1983年4月)が整備された。その後、本四連絡橋等の経験や構造の特殊性から「委員会」が組織され、鋼床版舗装に関する既設橋の現地調査や舗装ひび割れに関する解析や載荷実験結果を加味した「空港連絡橋舗装基準」が策定された。
 特に、①鋼床版表面処理工法としてのブラスト工法による一種ケレンの義務付け、②合成鋼床版構造に起因する舗装ひび割れと発生予測箇所への切削目地の施工、が特色のあるところである。
 本四橋における橋面舗装維持管理の基本方針は、鋼床版を腐食から守る基層のグースアスファルトを健全な状態に保ちつつ、劣化損傷した表層を打替補修し、寿命を延ばすことである。
 橋面舗装技術、特に鋼床版舗装技術は、現場での施工経験や実績を基に新たな材料開発も踏まえ発展してきた。鋼床版舗装を長期的に健全に守るためには何をするか。一言で言えば、「舗装に優しい(配慮した)桁本体の設計を」心掛けなさい! 
 NEXCO総研、首都高速道路、阪神高速道路では現在も委員会等を組織して継続的に舗装材料の開発や施工の研究が行われている。大いに期待したい。
 (2019年12月1日掲載/12月27日修正 次回は2020年1月1日に掲載予定です)

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