道路構造物ジャーナルNET

②吊橋主塔の塗替工法について

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2019.11.01

(3)現場力と人材で塗替工法を開発

 2003年12月31日。大鳴門橋4P(鳴門側主塔)の主塔下部水平材の管理路上に旧知の仲の技術者をお呼びした。元住友重機械工業の部長さんで私の留守宅(神戸市西区)の近くの明石市に山平技術士事務所を開設されていた。テーマは「ゴンドラが縦横無尽に動き回れるステージの設置」である。一般的には、PC橋の張り出し架設時に直下の国道等を守る「路面防護工」がある。今回の場合、路面防護工が塗装作業用のゴンドラ基地となり、縦横無尽に動き回るゴンドラに対する車両の防護ともなる。二人で考え出したのが「主塔と主塔の間(L=30m)に橋を架ける」というもの。リース品のPGガーダーを主桁(6主桁)に、橋軸方向の幅員は10m(塔頂水平材の幅とゴンドラ幅と余裕代考慮)、主桁を支持するブラケット(4か所/塔)の設置に当たっては主塔本体の既設添接ボルトの内、56本を差し替えた。供用中の主塔水平継手の高力ボルトを抜くという発想は、この主塔の設計を担当していた角オリジナルのものである。

 それから約1年。路面防護工の施工に関する公団内部と高速隊協議を実施した。代替え道路の無い大鳴門橋、その主塔の塗替えのために路面防護工という「橋梁」を道路上に架設するのである。「供用中でありながら、塗り替え工事のために通行止めをするとは大問題だ」、という事務・営業担当の副所長達。公団内協議でも総スカン(いつもの通り、角派と反対派)を食った。しかし、協力者・理解者は居るものだ。「本四橋の維持管理の為には避けては通れない道」と説得すれば、事務担当の理事は「公共放送の人を良く知っているので広報をしっかりやり成功させよう」と。県警本部規制課長は、「対面通行規制で路面防護工を架設するなら通行止めで」と(当時、管内の高速道路拡幅工事等で対面通行規制を敷いた結果、正面衝突事故が頻繁に発生していた)。一方では、通行止め時間はとにかく短く、という注文がついた。今明かすと、「1回の通行止めは30分が限度」。それ以降、架設経験豊富な姫路のクレーン屋を一本釣りして日夜架設のシミュレーションを繰り返した。話が長くなるので施工法の結論を述べる。
 路面防護工の地組み立ては、主塔直近の路面上を島規制し、3主桁ずつを2ブロックに組み立てた。地組立てのために中央分離帯を撤去し、上り・下りの追い越し車線、路肩を含む島規制(幅13m×長さ約50m)を18日。その後、一括架設用の200t吊オールテレーンクレーンを使用して2回の通行止めにて架設を完了。通行止め時間は、最大30分間。最短で15分。県警規制課及び高速隊の方には非常に喜んでいただいた。綿密な計画と協議が実を結んだと言える。裏話ではあるが、通行止め日・時間帯は過去5年間の気象情報や通行車両台数を元に私が決定した。当然、雨や強風による不稼働を考えて予備日も設定していた。架設の前日、2005年4月9日の土曜日、夕方までは非常に穏やかな天候であった。夕方、事務所に出社すると規制実施班及び現場班の公団の若手~中堅技術者が参集していた(本四公団では他の公団のように通行止め作業を委託ではなく直営で実施)。しかし、架設実施のジャッジ(通行止めも)を私が行う22時頃から急に風速が上がり始めた。神頼みして決行のジャッジ。深夜1時に通行止め開始。通行止め開始前の深夜0時には風速8m/sまで上がったが、桁吊り上げ時には3~5m/s程度に落ちていた。この日は、第一ブロック架設を1時~1時半の通行止めで、第二ブロックを3時~3時半の通行止めで無事完了した。雨も降らず、支障となる風も収まった。神は私を見放さなかった。工事完了後の朝6時頃に単身赴任先の独身寮に帰って祝杯をあげたのは言うまでもない。
(写真-4に路面防護工の地組立状況、写真-5に路面防護工の一括架設設状況、写真-6に完成した路面防護工、を示す)。


(4)今後への期待

 主塔の塗替工法(路面防護工設置と磁石車輪ゴンドラ)は、大鳴門橋で確立し、その後、本四の他の吊橋主塔の塗替に採用されている。参考までに高所から塗料缶や刷毛がゴンドラから落下した場合の検討も行った(当時の公団上層部には内緒だが)。防衛大学の大野教授の実験室で落下実験(衝撃エネルギーのチェック)を行った。この実験から路面防護工のデッキに刷毛等が落下した場合、パンチングアウトしない床材の仕様や床材の反発力により手摺から逸脱しない必要手摺高さの設定も行った。
 日本には吊橋や斜張橋が結構ある。鋼構造物の維持管理の基本は塗装にある。本四で開発した磁石車輪ゴンドラを使用したり、路面防護工を併用したり、是非とも参考にして頂きたいものである。(2019年11月1日掲載、次回は12月1日に掲載予定です)

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