道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉝

品質確保と講習会

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2019.10.16

5. 東北地方整備局での講習会

 2011年の東日本大震災は、私の人生にも多大な影響を及ぼしました。土木学会の調査団に選抜され、当時の阪田憲次会長とともに一週間の調査にも参加しました。多くは語りませんが、土木がなければこの国は成り立たないことを腹の底から理解しましたし、30代後半であるのに恥ずかしながらマスコミの影響を多少なりとも受けてしまっていた私が、土木というものを真に理解する大きなきっかけともなりました。

 何とか復興に貢献したい、と思っていましたが、山口システムの同志たちが、特に二宮純さんの後押しにより立ち上がりました。この連載でも記しましたが、2012年8月、10月、12月と東北地方整備局の道路工事課に通い、品質確保と耐久性確保の重要性および達成するためのビジョンを説明しました。
 最終的に12月には、現場でもすぐに実装できる「施工状況把握チェックシート」と「目視評価法」の2点に絞って、何とか品質確保に取り組んでもらえるよう、私の人生でも最高の気合で臨んだことも良く覚えていますし、このことは、今でも佐藤和徳さんと語り合うときの語り草になっております。
 この12月の話し合いで受け入れてもらえなければ、復興道路において私たちの提案する品質確保システムが使われる可能性はなくなる、という覚悟で臨みました。そのため、私自身も山口県や横浜市の現場で施工状況把握チェックシートの極意を実践的に学びましたし、目視評価法の活用法についても鹿島建設の現場等でトレーニングさせていただき、それらの実践的かつ本質的な知見をすべて背負って、12月のプレゼンに臨みました。

 2013年5月31~6月1日には、仙台塩釜道路の拡幅工事の橋脚の品質調査を実施し、山口県の構造物と比べて、表層品質が十分でないことを明らかにし、調査終了後に速報会を行い、品質確保の必要性を共有しました(写真4)。


写真4 仙台塩釜道路の橋脚の品質調査直後の速報会(2013年6月1日)

 2013年9月3日に、仙台にて、2時間の講演をさせていただく機会を得ました(写真5)。佐藤和徳道路工事課長の差配で、「復興道路の品質確保のための目視評価と施工状況把握チェックシート」というタイトルで話しました。このときの聴衆には、東北地整管内のほぼすべての事務所から監督官等が参加していたとのことです。
 私の講演力を信頼してくれた佐藤さんに感謝いたしますし、このときから始まる様々な講演会が実構造物の品質確保に役立っていったものと信じています。


写真5 東北地方整備局での品質確保の講習会(2013年9月3日)

 仙台での講習会の後、2013年10月から、私は1年間のフランス留学で日本を離れることになりました。復興道路等での品質確保の取組みが本格化するタイミングでの離日にはいろいろと思うこともありましたが、結果としては、フランスから5度の日本への大型長期出張を組むことになり、出張期間中はほとんどを日本国内の現場等で調査研究を実施しました。
 2014年6月4日には、南三陸国道事務所にて、トンネル覆工コンクリートの品質確保について講習会を開催し、佐藤和徳所長が品質確保の必要性について30分話し、その後90分ほど、品質確保の手法について私が話しました(写真6)。
 それまでに、田老第六トンネルの建設で私の教え子の西松建設の八巻大介さんが監理技術者をしていたこともあって、覆工コンクリート用の施工状況把握チェックシートや目視評価法のプロトタイプを開発し、試行していました。それらの知見を話しましたが、聴衆は南三陸国道事務所の工事を受注している現場の代理人や監理技術者、監督官やPPPの方々ですので、講習会で学んでいただいた考え方や知識がすぐに現場に実装されるため、極めて効果的な勉強会であることを実感しました。また、講義の後は、事務所のすぐそばの橋台で目視評価法の実習も行いました(写真7)。


写真6 南三陸国道事務所でのトンネル覆工コンクリートの講習会(2014年6月4日)

写真7 南三陸国道事務所での目視評価法の実習

 現場での品質確保の実践が始まり、現場で多くの工夫がなされ、様々な知見が蓄積されていくことになります。2015年12月に「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」が発刊され、東北地整から通知されました。現場での実践から生まれた手引きができると、その内容を周知するための大きな講習会が仙台で300人規模で開催され、また現場へ拡がっていく、という形を作り出しました。

 仙台での講習会だけでなく、各地の事務所での講習会も開催しました。手引きも、トンネル覆工コンクリート、高耐久床版、ひび割れ抑制対策、凍害対策、ASR抑制対策等、が産官学の協働で作られ、そのたびに講習会が開催されてきました。
 復興道路・復興支援道路の建設も2020年度末で一段落ということになります。私たちの品質・耐久性確保システムはいまでも試行工事の位置づけであり、完成したシステムでは全くありませんが、少しでも耐久性の高い構造物が建設されるよう、出来得る努力を重ねたいと話し合っています。

6. おわりに

 いろんな方々と協働、連携しながらプロジェクトを進めていくことが大好きな私にとっては、また教師という職業に就いている私にとっては、講習会というツールと品質・耐久性確保というプロジェクトの組み合わせは、非常に魅力的で、自分の力を発揮させていただける場となってきました。産官学の協働による講習会は内容も濃く、様々な立場の方々にとって有用な情報が飛び交う場となります。そのような場で講演することは、講演者にとっての成功体験になりますし、次回以降もそのような場で講演したいというモチベーションにもつながります。
 私自身は新設コンクリート構造物の品質・耐久性確保に現在は注力していますが、少しずつ既設構造物の補修・補強後の品質・耐久性確保に対しても活動を開始しています。より難しいターゲットで、関わるプレーヤーもさらに多岐に渡ると思いますので、講習会というツールも適切に活用していきながら、チャレンジを重ねたいと思います。
(2019年10月16日掲載。次回は11月に掲載する予定です)

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