道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㊽高齢橋梁の性能と健全度推移について(その5) ‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2019.03.31

落ちかかった米国の国道橋
 ゲルバーのかけ違い部が破断

3.まさかと思ったが、アメリカで今度は道路橋が落ちかかった
 先月号では、今年の1月30日の夜、アメリカ合衆国・アーカンソー(Arkansas)州のYell Countyの北東部にある『Dale Bend Bridge』がセミトレーラーと共にPetit Jean Riverに落ちた話をした。

 まさか今月号で再び、メンテナンス先進国(私だけがそう思っている??)のアメリカ合衆国の話をするとは思わなかった。今月号の話は、供用中の道路橋、それも自動車専用道路の高架橋が落ちはしなかったが、落ちかかった話である。事故は、イリノイ州シカゴ市ミシガン湖畔を南北に走る全長25.48kmのNorthbound Lake Shore Drive(一般国道41号線)で 、今年、2019年2月11日(月曜日)の早朝に起こった。
 図‐14にアメリカ合衆国の北東部に位置するシカゴの位置、図-15にシカゴのミシガン湖沿岸を走る一般国道41号線・Northbound Lake Shore Driveの今回事故を起こした区間を示した。私自身も自らの管理橋の鋼部材が破断しかかった経験は3度ほどあるが、一つは疲労損傷、後の二つは車両と船舶の衝突によって発生したせん断破壊である。その時の話は、以前に何度か話したことがあるので、読者の方々は記憶に残っている方もいると思う。一般的に、鋼材の破断した状態を自らの目で見たり、経験した多くの技術者は、実験室以外であれば大地震時に被災した鋼部材破断事故が多いと思う。改めて今回のシカゴの鋼道路橋の鋼部材破断状況を見てみよう。


図-14 シカゴの位置/図-15 当該事故を起こした区間

 写真-13で明らかなように、ゲルバー桁の掛け違い部がみごとに破断している。この事故の第一発見者は、なんと橋梁技術者ではない、一般市民でもない。ゲルバー桁の掛け違い部が可笑しな状態になっていると気付いたのは、何と電気技術者だったのである。2月11日(月曜日)の午前10時頃、事故現場の近くで交通信号機の修繕工事をしていた作業員が第一発見者である。何と、ラッキーなことか。


写真-13 主桁が破断したゲルバー桁掛け違い部

 鋼材破断の原因は、疲労によるものとの説もあるが最終的な結論ではない。当該区間の橋梁は、1986年に建設され33年経過している。当然全米の道路橋と同様に、2年に1度の定期点検を行っており、直近では、2017年6月29日に定期点検を実施している。シカゴDOTの発表では、この6月にはルーチンの定期点検を行うことになっていた。2017年に行われた定期点検では、当該区間の橋梁に数か所の小さな亀裂と劣化を確認しているとの報告がある。鋼材の破断は、外桁と一本目の中桁の掛け違い部が破断したことで、伸縮装置部の部分で数センチ段差(写真-13の地覆の段差を見てほしい)が出来たようである。


写真-14 破断したゲルバー桁掛け違い部の詳細

 写真-14に破断した詳細が分かる写真を示したが、腐食部分、応力集中箇所の脆性破壊現象である。写真-15を見ると、外桁だけでなく、矢印の先、一本目の内桁が破断しているのが明らかである。このような状況となれば、道路管理者は当該区間の緊急措置、仮設の支保工(ベント)を設置し、破断の進展と他の箇所への広がりを防止するのが常識だ。


写真-15 外桁と内桁(1番目)の破断状況

 写真-16は、シカゴDOTが緊急措置を行った状況である。私の個人的な思いで言わせてもらえば、当事者(シカゴDOTの技術職員)の辛さと、死ぬ思いで種々な対策を考え、それを段階的に執行する火事場のような状況が手に取るように分かる。私が、シカゴで道路橋の事故があったこと、管理者がシカゴDOTであったことに強い関心を示したのは、大きな理由がある。実は、2005年の春にシカゴDOTを直接訪問し、可動橋のメンテナンス等の意見交換をしたからである。


写真-16 破断した区間の緊急措置状況

 図-16は、Chicago Department of TransportationのChief Engineer・Thomas Powers, P.E.から説明を受けた時に使ったPPTの表紙である。シカゴDOTのエンジニアの橋梁への熱き想いと技術力触れた私は、2日間感動、感動の連続であった。このような背景もあって、シカゴの出来事は他人事とはとても思えない。読者の皆さん分かりますか?技術者の繋がりとは強く、固いことを。


図-16 シカゴDOTのTomas Power,P.E.のPPT表紙

 写真-17は、破断した箇所以外の同様な構造の箇所を夜通し調査しているDOT職員の状況である。管理者として、市民や道路利用者の安全を確保し、一日も早く復旧しようと頑張る技術者の熱き心が伝わってくるようだ。私としても、本当に辛い!!涙が出る。写真-18は、当該箇所の事故前の状態である。このカット写真は何時撮られたのかは定かではないが、矢印の先、既に亀裂が存在するように見える。


写真-17 主桁破断事故措置過程、他の箇所の緊急調査状況

写真-18 破断したゲルバー掛け違い部の状況:破断前

 写真-19を見てほしい。鋼部材が破断した主桁を支える鉄筋コンクリート橋脚は、鉄筋が露出し、健全な状態とはとても思えない。鋼部材の破断の原因について、シカゴ市交通局の責任者は、異常気象による温度変化も一因であるとし、それは北極圏の華氏-23°から春の華氏51°(-31℃~11℃)に変動したことと、腐食をあげている。私の理解では、彼女(Rebekah Scheinfeld:シカゴ交通局の局長)は、低温脆性(Low-temperature brittleness)による破壊と言いたかったのであろう。低温脆性とは、鋼材は、-20~30℃になると急激に脆くなり、衝撃を与えると破断することである。温度が低下して鋼材が急に脆くなる温度を遷移温度と呼んでいるが、シカゴ市の今年は遷移温度を超えた状態であったようだ。


写真-19 Northbound Lake Shore Drive高架橋の劣化状況

 ここで資料を基になぜこのような状態となったのか考えてみた。シカゴのあるイリノイ州は、私の資料によると25,943橋の道路橋があるが、そのうち構造的に問題を抱えている橋は、9.4%の2,447橋である。イリノイ州は、先の構造的な問題を抱えているような道路橋の修繕に6年間で約26億ドル(日本円で約2,875億円)投資しているが、必要額は4倍の100億ドルは必要であると言っている。全米の道路橋修繕に必要な額は、何と2兆ドル(日本円で約200兆円)であるとも言っている。アメリカ合衆国の管理橋数で考えると1橋あたり約3億円が必要との考えである。前述した写真のような状態が多くの橋梁に存在するのであれば、それも当然かもしれない。

 さて、今日本の状態は、大丈夫なのだろうか? 私は心配だ。あまりにもメンテナンスに投じる予算と技術者が不足しているからだ。確かに東南海地震、首都直下地震も心配だが、メンテナンス投資を積極的に行わなければ明日は我が身なのだ。最後に、今回主として説明している構造別分類において、当然ゲルバー桁も分類しているので少し紹介しよう。
 図-17は、ゲルバー橋(鋼橋、コンクリート橋)4橋の分析結果である。幸い、健全度はやや注意のCランクからほぼ健全のBランクへの推移結果となった。まあ、妥当なランクではあるが対象数が少なすぎる。シカゴの事故情報を調べ、定期点検資料の分析を行っている時は、シカゴのような事故は東京都には起こるはずがないと思った。しかし、ふっと頭を掠める事実を思い出した。


図-17 健全度ランクの推移(構造別):ゲルバー橋

 写真-20は、臨海部に架かる鋼ゲルバー桁橋である。矢印の先には、微細な疲労亀裂を確認している。その時は、載荷試験を行い、亀裂に無いこと、発生応力が低いことを確認、その後経過観察しているA橋である。しかし、シカゴのような異常低温状態となるのであれば、低温脆性による破断が無いとは言い切れない。まあ、異常気象で気温が高い東京の場合は考えにくいが、逆に、欧米のような異常低温状態が来るかもしれないが、どうであろう。


写真-20 A橋のゲルバー掛け違い部:疲労亀裂あり

 今回は、書きすぎて私も疲れたが、読者の方々も読みにくい文章を解読されさぞかし疲れたと思われるので、ここでストップし、以降は次回としよう。
(次回は5月1日に掲載予定です)

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