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⑥橋梁現場最前線での緊急対応

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~マネジメントしつつ専門的知見を得ていくために~

愛知県東三河建設事務所
道路整備課(事業第三グループ)

宮川 洋一 氏

公開日:2019.02.04

鋼製支承に重大な損傷が確認された事例
「渡橋(下り線)」の概要

 美矢井橋より約3㎞程上流に架かる緊急輸送路(主要地方道岡崎刈谷線)の橋梁で、1972年(昭和47年)に架設され、橋長L=517.5m、3径間連続鋼鈑桁が3連あり、P3、P6橋脚で掛け違いとなっている。交通量の増増加に対応するため、2003年(平成15年)に下流側に2車線の新設橋が上り線として架設されたため、本橋は下り線橋梁となった。
 日交通量は2万2千台、大型車混入率は17%であり、損傷発見当時、竣工から39年が経過していた。


図 渡橋の概要

損傷の発見

 2011年(平成23年)1月、落橋防止システム工事のために足場を設置したところ、「桁端部のMov(ピンローラー)支承のカバーが変形している」と施工業者から報告があった。カバーを取ったところ、ローラーが逸脱していた。橋梁全体を調査すると桁端部のすべての支承のローラーが逸脱もしくはせり出し壊れていた。一方、桁端部以外の中間支点部のカバーが設置されていないピンローラー支承、固定支承はすべて健全であった。
 P3橋脚上の損傷が最もひどく、4本のローラーの内、外側の2本が逸脱し、残り2本も外側にせり出してわずかに引っかかっているだけという、供用中の路面上に段差が生じる一歩手前の非常に危険な状態であった。


図 P3橋脚上のMove支承

図 非常に危険な状態

 既にピンローラー支承の逸脱は県内の他橋梁でも多くの事例が報告されていた。なかでも、回転と温度伸縮機能を1本のローラーで対応する1本ローラー支承(以前寄稿した衣浦大橋で事故が起こったのはこのタイプ)は、1本でも逸脱すると橋面に段差ができてしまう構造であるが、当橋のように複数のローラーを有するピンローラー支承であれば、1~2本逸脱してもすぐに重大損傷を招くことはなく、緊急事態ではないとたかをくくっていた。
 この報告を受けた時、あまり緊張感もなく、来年支承の設計を行い、取替工事を実施すればよいと考えていた。このころ同様な事例をよく目にしていたため、感覚が麻痺していたのかもしれない。
 同僚の専任監督員が隣の机で損傷写真をじっと見ていて、「宮川さん、これってなんだかやばいじゃないですか?」と声をかけてくれた。数をこなしてベテラン面していた僕の自信は吹っ飛んだ。

原因の推察

 損傷の原因は、ジョイントからの水や土砂等の侵入を防ぐ目的で設置された支承カバーがかえってメンテナンスを困難にし、さらに鳥の営巣⁉などによる異物混入のため、ローラー部が機能不全を起こし、桁の温度伸縮等の繰返しにより、徐々にせり出し、ストッパーを破断させ、逸脱したと推察された。
 この推察が正しければ、昼夜の気温差が大きくなったり、大型車両の振動などにより、わずかに引っかかっているローラーがすべて逸脱するのも時間の問題で、その際急激に路面上に段差が生じ、通行車両が被害を受ける場合もあり得る。すぐに手を打たなければいけない緊急事態であった。


図 損傷のメカニズム

緊急対応の内容

 まず、施工業者に頼んで、ローラーがすべて逸脱しても段差が生じないよう、支承の前面にサンドルをすき間なく設置してもらった。


写真 サンドルの設置

次に前年度対応していた美矢井橋と同様、
・サンドルの設置を施工業者に依頼。
・経過観察を施工業者に依頼。
・道路パトロールにて見回り(週1回)を維持管理課に依頼。
・大型車両(25t超)の通行不許可を維持管理課に依頼(大型車による衝撃を回避)
・震度4以上の地震が発生した場合に緊急点検する業者との協定を「震度4以上」を「震度3以上」に引き下げ。(これはのちに維持管理課より提案があった)
・異常が確認された場合、即通行止めとする。

 これらはあくまでも応急措置であり、抜本的な対策としては「一刻も早く壊れた支承を取り替える」しかない。
 通常、支承取替などの補修工事を発注する場合、
①設計業者に委託設計見積もり依頼
②設計業者への発注
③設計業者と契約後、設計、図面数量の作成
④工事積算・発注
⑤施工業者と契約後、工事着手
となり、多くの時間を要してしまう。しかし、一刻も早く支承取替工事を行う必要があったため、今回は緊急措置として施工業者に詳細設計とセットで支承取替工事の変更契約をお願いした。こうすることにより、速やかに支承取替の設計に着手でき、最短の工程が可能となった。施工業者が設計担当者を有する橋梁メーカーであったからこそであった。幸運だった。また河川管理者の国土交通省豊橋河川事務所岡崎出張所に事情を説明し、(出水期施工を)特別に了解していただいた。


図 緊急対応

緊急対応を終えて

 施工業者が変更契約に応じてくれたため、事なきを得た。しかし、変更契約で新たな工種が生じたにもかかわらず、当初の請負率での変更契約(当時愛知県のルール⁉)に施工業者は大きな抵抗があったと思う。もし応じてくれなかったら、その後の対応はどうなっていただろう。施工業者の篠田製作所の方々、工事を許可してくれた当時国土交通省豊橋河川事務所の岡崎出張所長には今でもとても感謝している。

 そもそも設計の段階から落橋防止システムの設計時にもっと詳しく現場を調査すべきだった。また、過去に桁端部のローラー支承を何度も取り替えてきた経験から、既設支承の周りに変位制限装置を設置するのではなく、既設支承を新しい耐震基準の支承に取替える設計にすべきだった。
 「支承周りがシンプルになり、メンテナンスもしやすく、今後の維持管理リスクも考えると総合的に優位とならないか」と打合せ時に設計担当者に主張したのだが、「既設支承は健全であり、支承交換は費用も多くかかり、現時点で経済的でない」と主張された。結局今後の支承取替え工事が可能となる空間を確保することを条件に、既設支承の橋軸直角方向に変位制限装置を追加設置する設計を了承してしまっていた。しかし、支承の損傷が確認され、実際に施工業者に相談したところ、施工に対する検証が甘く、支承取替えが大変困難(不可能)であることもわかった。もっと設計の段階から時間をかけて議論すべきだった。とても悔やまれた。


図 そもそも設計の段階から

 他事務所で筆者が担当し、先回報告した「衣浦大橋」では支承取替をしたのに、今回なぜそうしなかったのか。「会計検査で経済性について指摘された場合、説明しきれないかもしれない…」といったとても消極的でお粗末なものだった。猛反省だった。
 結果的には施工前に既設支承の重大な損傷が判明し、急遽取り換えることとなって幸運だったとしか言いようがない。
 この後、2012年(平成24年)に改訂された道路橋示方書には、既設支承の取替えやメンテナンスを考慮して設計することが明記された。このような事例はもう起こらないと願いたい。


写真 工事完了写真

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