道路構造物ジャーナルNET

㊳維持管理における官の役割

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦 氏

公開日:2019.01.16

1.はじめに 

 あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。
 どうも最近、自分の体が老朽化でおかしくなってきている。年末年始は長めにいただいた。単身赴任も長くなると、体によろしくない。富山の皆さんには明るいニュースであろうが、本年はさらに辛辣に幅広く、インフラ・メンテナンスの課題について語りたい。
 前回は、第2ステージに向かうにあたりということで書いたが、どうも周辺の話を聞いていると、点検の“手抜き”の方向に話が行っていて、不安である。再劣化に関しては、当たり前の話である。物を造ったからには、時間が経てば劣化していくのは当たり前で、今、構造物の老朽化の問題が出ているのも、新設時からの経年劣化が大きな課題だからである。
 本当に手抜きの方向で、大丈夫なのであろうか? そこが心配ではあるが、少なくとも財政的には、楽になるのかもしれない。しかし、点検でフウフウ言っているようでは、メンテナンスはできないのではないだろうか? 今後、ひと桁ふた桁違った予算が必要になってくる。

2.第1ステージはスクリーニング

 孫子の兵法の有名な一節に、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」というのがある。敵とは、相手であり対象物である。己とは、自分であり、自分の組織であり、自分が使えるものすべてである。ここで重要なのは、敵もさることながら己の分析である。
 己の能力と装備、財政などを十分に分析し、何が強くて何が弱いか?を見極めていなければ、闘えない。私はこれまでの人生の中で、意識的に橋梁や構造物に関するすべてのプロセスを自ら体験してみた。さらに、わざと、中小企業にも2社ほど行ってみた。いわゆる下請けの経験もしてみたかったのである。下請けの仕事ができれば、技術者としても一人前だという説もあるくらいである。ただし、このときの下請けとは、高度な業務の下請けである。雑用ではない。雑用は役務と言う。

 インフラ・メンテナンスを行っていくうえでは、「戦略」が必要である。正攻法では勝てない。限られた、与えられた資源(ヒト・モノ・カネ)で戦うのである。ここには、外部の力、特に委託しているコンサルは大きな戦力であるので、これを甘やかすのは、負けを望んでいるとしか思えない。
 まじめにコツコツと時間を掛ければ、なんとなく解決するのが今までの業務であったろう。まちづくりなどの計画系の仕事は、「ミス」をしても、人命には影響を与えない。評価をつけられづらい、個人の感性も絡んでくる。しかし、構造物は違う、大きなミスを犯せば人命に関わる。責任が発生するのである。おそらく、自治体職員の苦手とする部分である。そこで、第1ステージが終わったからといって、点検を手抜きの方向に持っていこうという議論でよいのか? 点検や診断の精度は大丈夫なのか? きちんと分かった者が議論しているのか?

 私は、第1ステージは“スクリーニング“だったのだと思う。スクリーニングによって、これからどのようにメンテナンスに力を入れていくべきか? という出発点にようやく立てたのだ。スクリーニングをやれたということは重要であり価値がある。ドローンやロボット化という話はまさに、またスクリーニングをするという話である。
 人間でいうと健康診断の集団検診のようなものである。これで安心していると、場合によっては取り返しのつかない結果になる。なぜか考えてみて欲しい、検診のシステム自体が、丁寧なものではなく機械的で、「大人数を処理すること」が目的になってしまっている。申し訳ないが、診ている医師のレベルもさほど高くはない。私の父親は、栃木県の職員だったが、死亡してから、その年度の検診結果が送られてきて「異常なし」であった。
 これは、橋梁に関しても同様である。現在の点検マニュアルでは、構造物の表面を診ているだけである。果たして、構造物の表面だけを診て、どこまでのことが言えるのか? 深部の状況は分かっているのか? それほどの知見がある技術者が診ているのか? 表面だけを診て内部の状況が、把握できるほどの技術者が、現在のわが国にどれだけいるのか? ここが、最高に問題である。



PC桁のひび割れ(上2枚)と内部の損傷状況。表面だけを診て内部の状況が把握できるか?

PC桁のひび割れ補修

 また、それほどの技術者が、地方にいるのか? ということもある。とはいえ、この5年間で結構な数がやられている。本来は、造った者が見てくれるのが一番良いと思うのだが。マニュアルには、「点検はコンサルがやること」とは書かれていない。コンサルさんの仕事は、他にあると思うのだが。

 ここで、これまでの点検結果を見ていると、前にも書いたが、「そもそも設計思想がおかしい」構造物がたくさん存在している。ここ富山市の案件で気にかかるのが、上部工はそれなりであるが(細部構造などの工夫はない)、下部構造が甘いのである。フーチングや基礎の根入れ、大きさ、配筋などどうもおかしな物がある。これで長寿命化は無理である、というのが私の意見である。少なくとも最初にちゃんとした物を作って置けよ! と言いたい。補修するにも課題が多いし、耐震補強などは論外になってしまう。
 結局は、官も民もお互いが、できないものはできない、わからないものはわからないと言えばよいのである。お金だけほしいと言う輩には、厳しいチェックとペナルティをする必要がある。官も民も、きちんと知見を持って仕事をしなければ技術者の仕事ではない。

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