道路構造物ジャーナルNET

㉝豪雨災害と橋梁

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.08.16

1.はじめに 

 暑い日が続きますが、体調など崩されてはいないでしょうか? それにしても暑すぎる。気候が明らかに変わってます。数十年に一度という雨がしょっちゅう降っています。こうなってくると、数十年に一度ではなく、通常の状態なのではないでしょうか? また、台風の進路も変わってきました。
 今回は、編集者から「豪雨災害と橋梁」ということも書いてくれとの依頼があったので、少し加えたい。

2. 豪雨災害と橋梁

 前回も、負の遺産に関してあげてみた。負の遺産が老朽化に関して現れてくるのは、比較的ゆっくりであるが、災害に関しては一気に来る。橋梁の設計を経験している方は、お分かりだと思うが、橋というのは鉛直の荷重に関しては、よく検討されているはずであるが、横からの荷重については意外と甘い。そのほとんどが、いうなれば「想定」なのである。横荷重とは何か? というと、①風②地震が主である。
 下部工の設計には、静水圧と流水圧を見るようにはなっているが、豪雨災害の場合、水位が何処まで来るかによって変わってくる。上部工全体まで水圧を受けると橋梁はひとたまりもない。橋梁は鉛直荷重に関しては強いが、横荷重に関しては弱いということを認識して欲しい。東日本大震災時の津波の影響も同様である。豪雨や津波の場合、水圧だけではなく、流木や岩石など、それ以外の流されてくる物の衝撃力も加わる。
 水害で、橋に対して一番悪影響を及ぼすのは、「局所洗掘」であろう。これもなかなか実感がわかないと思うが、流れの中に異物(橋脚)が入っていると、流れが乱され“渦”が発生する。その渦が河床を掘り起こしてしまうのである。


橋脚の洗掘

洗掘された小規模橋梁の橋台

 私はこれに対しては思い入れがあって、大学の時、産学協同実習(今で言うと、インターシップ)で土木研究所の河川研究室でこの実験を1ヶ月ほど行っていた。後で聞くと、本州四国連絡橋のある部分の局所洗掘の式を求めるための基礎実験のお手伝いであった。水路に、橋脚の模型を置き、水位や流速などを変化させ、川底の砂の洗掘状況を確認したわけであるが、なかなか信じられない状況であったのが思い出される。
 河川は直に流れているわけではない。曲がりくねって、常に水が当たる場所もある。橋梁も単純桁ばかりではなく、多径間のもの、しかもパイルベントのように短スパンに多くの橋脚があるような物になってくると、局所洗掘ではなく、「流木だるま」が問題となる。橋脚に流木などが流れ着き、絡まり最終的には、橋脚間もふさいでしまい、結果、ダムを造ってしまう。


流木ダルマ。これが成長するとダムとなる

 橋がダムになれば、当然流れをせき止めてしまい、周辺にあふれた水が流れ出す。パイルベント基礎の橋梁は、下部・基礎一体構造で構造が簡単であり、施工時の締め切り工が不要なため工事費や工期の面で有利であり、昭和35年から49年ごろの橋梁に多く採用された。しかし、硫下物が引っかかりやすいことや、耐震性に欠けること(新潟での落橋事故)から、昭和51年の河川管理施設構造令では、その採用が規制され、現在ではその数が減っているが、自治体には存在している。
 かつて、川島先生のご指導の下、「パイルベント基礎設計施工調査委員会」で検討をさせていただいたこともまた懐かしい。さらに、沈下橋や流れ橋というものも存在し、こちらも現在は少ないが、洪水などの時には、あまりよろしくない。
 つまり、橋梁がダムになる可能性も持っているということである。桁下空間高さと河積阻害率だけを気にしていたのでは、橋梁がダムとなる可能性は排除できないが、何処まで検討しておけばよいのかというのは、今後議論されていくべきであろう。
 ここ富山で現場を見ていると、どうも橋脚の底版の位置が浅いのではないか? と不安になるものが多い。十分に理解した者が計画・設計したのか? さらに地質の調査は十分なのか?
 橋梁において、上部工以上に下部工は難しい。基礎工も難しい。しかし、現実を見ると、甘いのではないか? と疑うべき物が多い。これは、これまでやられてきた、計画設計の不備が原因である。技術力のない、設計者が何かを参考にしながら、形だけ合わせたような状況が一つ。さらに、過剰に会計検査を気にしてからか(?)コストばかりを気にして設計した結果である。これから先の維持管理などは、あまり考えられていなかったのではないだろうか?
 50年に一度という雨がしょっちゅう降るようになり、台風が東から西に向うように、明らかに気候が変わってきている。これまでの設計思想のままでは対処できなくなってくると思われるが、土木工学の基本は経験工学であるところが大きく、特に災害に関しては、実際に起こった最大の災害が設計思想に反映される。したがって、未曾有、想定外となると、計画の甘かったもの、「負の遺産」の物から崩壊していくことになる。
 常時に健全でない物は、災害時には、弱さを露呈することになる。建設当時からの、「設計の不備」「施工の不備」「手抜き」や「理解不足」(優しく言ってます)が存在するなか、果たして災害時に市民や国民を守れるのか?


水害は橋梁だけではない。テールアルメの崩壊

 本ジャーナルの最近の現地報告の写真を見ていると、まさに計画から疑わざるを得ない。しかし、建設当時はそれが最良だったのかもしれない。その時点での判断ということも重要なので、今後の世の中では、計画当初から建設、運用、維持管理に至るまでのサイクルにおける、種々の管理者の判断も記録に残す必要がある。そうすることにより、後の人々に時々の思想を残すことができ、管理に大いに役立つ。
 かつて、石橋を勉強していて、鹿児島の石橋の図面などを見せていただいた時に、河床に石を敷き詰めていたのに目が行った。局所洗掘を考えてのことであろう。石橋は基本アーチ構造であるので、バランスが崩れれば崩壊する。その時に一番重要なのがアーチ支点であり、ある意味橋脚に当たるので、非常に考えられていると感じた。橋を作るには、考えなければならないことがたくさんある。(橋に限らないが)付け焼刃的に、参考資料をまねただけでは、必ず問題が起きる。十分な知見が必要である。

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