道路構造物ジャーナルNET

④“マッチ・ポンプ”からの脱却!≪名港西大橋Ⅱ期線の無人ケーソン≫

高速道路の橋とともに40年

中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
チーフエンジニア(橋梁担当)

宮内 秀敏

公開日:2018.01.22

【塔基礎構造の工夫】

 塔基礎の構造を図-8に比較して示している。Ⅰ期線では、ケーソン基礎の部分はフーチングと考えて、その上に橋脚の躯体が載るという考え方で、左の図の構造で施工された。Ⅱ期線の計画設計でも、これを踏襲した設計となっていたが、右の図のようにケーソン頂版を無くすとともに、隔壁数も変更することとした。Ⅰ期線の工事誌を読んでいると、ケーソン刃口が比較的軟弱な地盤に到達したときに、頂版コンクリート(版厚4.5m、重量 13,000t)を打設することとなり、急激な沈下に対する検討が必要となり、苦労したことが記載されていたためである。そこで、前例の設計にとらわれずに“頂版を無くし、ケーソンと橋脚柱を一体構造にすれば地盤の悪いところも安心して掘削できるのではないか。”と気づき変更した。さらに、Ⅰ期線では左の図のように、ケーソンが隔壁で細かく分割されていたため型枠、配筋作業が非常に煩雑となっていた。これもⅡ期線では部屋の数を大幅に減らし(36→12)施工の効率化と工期短縮を果たしている。また、これらの変更により、コンクリート量、掘削量も約10%縮減することができた。(表‐2)


【おわりに一言】

 名港西大橋は、我が国の本格的な斜張橋技術の先駆的な役割を担っている。特に筆者が深くかかわったニューマチックケーソン無人掘削工法の開発は、活発な議論が交わされ、“いいものをつくろう”との合言葉のもと、共有した目標に向かって施工会社と公団職員が一体となり、新しい技術に挑戦した成果であったと思っている。名港西大橋の建設当時は、潜函工の高齢化や技術者の減少などから技術革新が求められていた時代でもあった。無人掘削工法の開発によって、単に近接施工の解決だけではなく、作業環境の劇的な改善により、一人あたりの実稼働時間を長くすることができ、潜函工などの熟練作業員不足にも寄与するなどの効果をもたらすことができた。現在では、無人掘削工法はさらに進歩を遂げ、名港西大橋で課題であった掘削機械のメンテナンスなども大気圧下で可能な完全無人掘削工法が開発されている。
 さて、これから我が国の中心的役割を担う若手技術者にぜひとも伝えたいことがある。我われ土木技術者は、計画段階から工事完成、さらに維持管理までを一人で一貫して担当することは、まずできない。昨今、構造物の劣化対策として本格化してきている更新や大規模補修などのリニューアル事業についても、相当な時間がかかるため、一般的には、途中で前任者から引き継ぐことになる。この時重要なのは、引き継がれた設計なり施工方法を、自分が納得できるかどうかであると思う。何か変だけど既に決まっていることだから、「まあいいか」で済ますと後で大変なことになりかねない。前任者から引き継いだ時点で、すべての責任はあなたにあるのだから。今回紹介した近接施工の事例も、既設計の遮水壁で果たしてうまくいったかもしれないが、納得がいくまで手を抜いてはいけない。とにかく基本に帰り、多少後戻りをしても、自分自身が納得してから物事を進めなければならない。

 

 もうひとつ、近年国内では、今回紹介させていただいた名港西大橋のようなプロジェクトが激減し、必要とされる技術が、新規建設から補修や補強といったメンテナンスにシフトしてきている。10~20年ほど前までは、「建設」が花形であり、「より高く、より長く」を合言葉に、新しい構造形式などの技術開発にしのぎを削ってきたものである。新しい構造物を造り上げることに、技術屋として大いに達成感を感じたのは私だけではないはずである。この時代は、インフラストックを増やすことに懸命であり、(旧日本道路公団では、ピーク時には、年間250kmの高速道路を供用)「メンテナンス」のことはあまり考えずに構造物を造っていたと反省している。しかし今は、構造物の更新・大規模補修などの事業が中心となってきており、大学などでも近頃はメンテナンスを教えているようだし、学協会などの論文発表ではその多くが、新規建設ではなくメンテナンスに関するものである。我が国の根幹を支えてきたインフラを保全し、末永く使っていくことがいかに重要であるかということに、皆が気づいたのである。しかし、財源の確保をどうするか、技術者不足にどう対処するかが大きな課題となっている。これらの課題に大きく貢献できるのは、やはり技術開発である。若い技術者諸君には、ぜひ目標を設定して柔軟な発想で果敢に技術開発に挑戦し、「メンテナンス技術」を花形として育て、さらに次の世代に繫げていってもらいたい。どのような仕事でも、人から言われてやる仕事より、自分で工夫をしてやることがどれほど楽しいか、ぜひ味わってもらいたいからである。そのためには、我われの世代がなすべきことがある。いきなりモチベーションを高く持って!と言ってもそううまくはいかない。もっと根本のところ、つまり、いかにインフラが日常生活を支えているのかを多くの国民に正確に認識してもらい、欧米に比べて劣っている土木技術者の地位の向上・処遇改善へと繫がっていく流れを作り、やる気のある若い「志願者」を醸成するところから積極的に働きかけていかなければならない。

 最後に付け加えると、構造物をメンテナンスするということは、単に、点検をして、健全度評価をして、補修・補強するという技術を身に着けただけでは不十分である。建設の知識がきわめて重要となってくるのである。対象とする構造物が、どのようなものなのかを知らなければ、的確な、その構造物にとって最適な仕事はできない。どのような技術基準で作られたのか、どのような施工方法で、どのような材料を使用しているのか、はたまた、施工会社はどこなのかなどを紐解かなければならない。これらの条件により、構造物の性能が大きく違ってくるからである。一見面倒くさいと感じるかもしれないが、この作業は結構楽しいものであり、ある意味、考古学に通じるものがある。調べるにつれて、建設当時の技術者の考えや苦労したところなど、息遣いを感じ、親しみを感じたら、しめたものである。建設を経験できる機会が少なくなった今、いかに建設技術を若い技術者に伝承していくかということも大きな課題である。(2018年1月22日掲載、次回は3月ごろに掲載予定です)

【高速道路の橋とともに40年シリーズ】
③橋梁技術移転と草の根外交!≪キルギス共和国≫
②難問に立ち向かう!≪若戸大橋の4車線化≫
①若い者にやらせてみる!≪全溶融亜鉛めっき橋の開発≫

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