道路構造物ジャーナルNET

④“マッチ・ポンプ”からの脱却!≪名港西大橋Ⅱ期線の無人ケーソン≫

高速道路の橋とともに40年

中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
チーフエンジニア(橋梁担当)

宮内 秀敏 氏

公開日:2018.01.22

【無人掘削工法採用へのハードル】

 以上述べたような目的で、私としてはこの新しい工法の採用を決めていたが、最終決定までには組織としてのいくつかの関門がある。当時は名港三橋の設計や施工についての学識経験者、施工業者および道路公団で組織する検討委員会が設けられており、ここでお墨付きをもらえばあとは粛々と決裁をもらえばよい。しかし、事前に内部に説明し、了解を得ておかなければならないが、大体聞かれることは決まっている。すなわち、①前例がないが、大丈夫なのか?②工事費は増えないのか?この答えとして、①前例がないから「新工法」なのです。当初の遮水壁案では、「Ⅰ期線が傾くかもしれませんよ」と上司を脅す。②工事費は増えません。こう説明をしたが、当然それまでに請負人さんと何回も話し合い、コンセンサスを形成していた。
 このなかで、①の技術的な課題については、あまり苦労なく合意できたと記憶しているが、請負人さんからは、労基署への施工計画承認手続きに、発注者も同席してもらえないかということになった。そこで、通常は請負人さんにお願いしている承認申請に、役に立てるかどうかは別として、労働省本省まで同行したのを覚えている。一方で、②の工事費については、かなり知恵を絞った。というのも、やはり初めて実構造物で、しかも巨大な規模での採用となると請負人さんとしても未知数の部分も多く、従来工法と比較すると、どうしても何割か高い見積もりとなった。いくら技術的に安心できる工法だと上司に説明しても、あまり高いと採用が難しいことになる。そこで、工事費の比較に新工法では不要となる、遮水壁(マッチ・ポンプ)構築の費用、その作業に伴う警戒船費なども対象として、これらを含んだ総額を限度額として工事費を決めていくことで請負人さんと話がついた。
 私はこの工事のしゅん功を待たず東京湾アクアラインの現場に転勤したので、最終的にどうなったかずっと気がかりであったが、だいぶ経ってから当時の請負人さんとお会いする機会がありお聞きすると、宮内さんの考え方に沿って設計変更され、何とかなりましたとのことであった。よかった!

【無人掘削工法の概要】

①掘削の流れ
 本ケーソンの施工地点の水深は12mあり、P2、P3ともTP-12mの海底面からの掘削となり、最終掘削は、P2でTP-45m、P3がTP-40mとなる。構築および沈下掘削は、ジャケットと称する鋼製海上桟台上から行った。刃口から上方16mは鋼殻構造となっており、衣浦港および豊橋港の岸壁で製作したものを、3,000t級クレーン船で吊り曳航し(写真-1)、ジャケット内に据え付けたのち、1~3ロットのコンクリート打設と水荷重により水深12mの海底地盤に着底させた。その後の掘削沈下フローを図‐6に示す。
 掘削工は3パターンからなる。①刃口深度がTP-20mまでの8m間は、函内掘削機に作業員が搭乗しての通常の有人掘削である。②その後のTP-30mまでは、無人掘削である。以上の2つのパターンでは、高気圧作業安全衛生規則別表に従う減圧表を用いた。③TP-30mから最終掘削面までが、ヘリウム混合ガス併用無人掘削工法である。このパターンでは、掘削作業は大気圧下の遠隔操作で行い、掘削機械等の定期点検、メンテナンスなど入函が必要なときは、ヘリウム混合ガスを用いる。この時の減圧表は開発した特別のものを使用した。ヘリウム混合ガス呼吸の深度をTP-30m以深としたのは、経済的な理由と圧気圧が0.3MPaを超えると高気圧障害発症率が高くなるとの研究によるものである。

②無人掘削の方法(P2ケーソンの例)
  TP-20mからの無人掘削は、地上の遠隔操作室(写真-2)での作業となる。遠隔操作室には、5基の遠隔操作盤があり、それぞれ一郎~五郎と名づけられていた。写真の手前のオペレーターは若い女性である。遠隔操作は、函内掘削機に搭載の3Dカメラおよび作業室天井に設置した監視カメラの映像を見ながら、操作盤上の3本の作動スティックを操って行う。オペレータは偏光眼鏡をかけて立体視しての掘削作業となるため、事前に地上において隅部や刃口下など、微妙な操作を要する掘削作業について訓練をし、その操作性等を確認した。実際のケーソン作業室内には、掘削機搭載カメラのほかに12台の天井設置カメラがある。そのうち4台は、遠近と方向が自在の機能があり、オペレータが必要な映像を要求通りに映し出す。このように、合計22台のカメラで作業室内を隈なく、また、肉眼同様に監視することが可能となっている。なお、この操作システムには学習機能があり、オペレータの操作を記憶し、その動作を自動化しての半自動掘削も可能となっている。函内掘削機にはメンテナンス作業を少なくする設計もなされており、集中グリスアップ装置の搭載により給脂に入るのは2週間に一度でよく、また、自己診断システムにより機器の情報も中央管理室に表示されるため、入函は2~3日に一度でよい。なお、掘削設備の配置を図-7に示している。

③ヘリウム混合ガスの使用 
 ケーソンが平面積1,000㎡を超える大型であり、作業室内をすべてヘリウム混合ガスで満たすことは、技術的にも経済的にも困難であるため、作業員はマスクによりヘリウム混合ガスを呼吸するシステムとした。(写真-3)なお、ヘリウム混合ガスの組成は、酸素、窒素、ヘリウムからなる3種混合ガス(Trimix)とした。窒素酔い防止や呼吸抵抗低減の観点からすれば、窒素の含有を0%にしたヘリウムと酸素の2種混合ガス(HeliOx)がよいが、函内での短時間滞在では復帰減圧が長くなる、②ドナルドダック・ボイスといわれる音声の変性等が生じてコミュニケーションが不明確になる、③体が冷える、④作業気圧が0.7MPaまでの範囲ではTrimixに比べて高価であることなどから、本橋の工事ではTrimixを採用した。Trimixの組成は、最大作業圧力下で急性酸素中毒を起こさないようにするため、酸素分圧が0.16MPa以下になるような酸素濃度とする。一方、窒素は最大作業圧力下で窒素酔いを生じさせないようにするため、分圧が0.3~0.4MPa以下になるように濃度を設定した。

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