道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉘遊具が壊れ子供が落ちた! 管理責任を問われるのか? その2

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2017.08.01

3.重要な吊り篭遊具取付部の耐用年数推定結果

 ここまでお読みの方は、吊り篭遊具の材料的、構造的な検討不足で事故が発生したのではなく、原因は疲労損傷であるとお分かりであると思う。ここで、最も重要な吊り篭遊具の耐用年数を推定した結果について説明しよう。遊具実応力測定結果から得られた130Mpaが取付金具上端部に繰り返し作用した場合、疲労亀裂発生が何時かを推定することとした。仮定条件としては、取付金具の回し溶接止端部に疲労亀裂が発生するとし、照査応力は回し溶接に直交する応力を仮定して耐用年数を算出することとした。対象部材の鋼横梁と取付金具の溶接継手は、一般的な鋼構造継手部と対比すると面外ガセット継手に該当し、「鋼構造物の疲労設計指針・同解説(一般社団法人 日本鋼構造協会)」によれば疲労強度等級はF等級となる。鋼横梁とロープ取付金具の溶接継手部が図‐3に示すような構造であるので、疲労亀裂は赤線の位置に入り、継手として面外ガセット・すみ肉溶接・非仕上げとなると疲労強度等級はF等級(⊿σf65MPa)である。ここで、疲労設計指針に示す疲労設計曲線を使って応力範囲130Mpaが作用した場合の疲労亀裂発生繰り返し数を求めると25万回となる。求められた疲労寿命の繰り返し回数が25 万回に到達するまでに何年が必要かを推定することとした。

 仮定条件としては、取付部に作用する1日当たりの荷重変動回数は、100回(10往復/日×10回/往復)とし、年間36,500 回の繰り返し荷重を受けると仮定し耐用年数算出を行った。吊り篭遊具の取付金具部の耐用年数は、疲労亀裂発生に至るには6.8 年(25 万回/3.65 万回)との計算結果となる。以上の結果から、遊具設置後約5年後に事故が発生したことは、推定寿命と概ね合致していると判断した。
 写真‐8で示した疲労破面のストライエーションの間隔(0.4~0.6μm)から推定した板厚貫通までの8,000 回の繰り返しは約2.6 ヶ月に相当している。これは、先の疲労寿命と合致しないのではと疑問を感じられる方もいると思うので説明すると、ストライエーションによって求めた値は、亀裂が一定の速度で進展したとの仮定条件であり、亀裂進展速度が一定ではないのが一般的である(作用応力や亀裂進展時期による速度差)。実際には、遊具を使い始め、何度かの力が問題の箇所に作用した後に上部ビード部亀裂が発生、その後、下部ビード部亀裂が発生し、上部と下部の亀裂発生部分が繰り返し動き、最終的に取付金具部の溶接部が破断に至ったものと考えられる。

4.吊り篭遊具取付金具破壊メカニズムの推定

 吊り篭遊具に子供が乗ると、金具取付部の鋼横梁図‐4に示すように凸形状に変形し、応力集中が発生する。ロープ張力は斜め下方向に作用することから、図‐4の右側(FEM解析結果)取付金具の上側に高い応力が生じ、繰返しの荷重によって上側に疲労亀裂(図‐5参照)が発生する。これは、図‐3で示した面外ガセット疲労発生箇所と合致する。次の段階として、ロープ取付金具の下側部(図‐3右側参照)にも応力集中が発生することから、図‐6に示すように下側部にも疲労亀裂が発生することになる。

 次に、上下に亀裂が発生した状態で繰返して荷重を受けることから、取付金具の上下側に生じた疲労亀裂は、図-7に示すように溶接部を取り囲むように、そして左右に進展し始める。ここまで亀裂が進展すると、残った断面では耐力が不足、過荷重状態となり最終的に破壊に至るとの結論だ。以上が、吊り篭遊具の破壊メカニズム推定結果である。ここまで吊り篭遊具の事故原因と事故発生メカニズムについて種々な観点から説明してきたが、だいぶ読者の頭もクリアーになったと思う(私の勝手な思いであるが)。

5.同様な遊具事故を起こさないためには何が必要か

 今回事故を起こした吊り篭遊具は、取付金具溶接構造が疲労強度の低い、荷重伝達型すみ肉溶接十字継手タイプであった。また、角形鋼管の平面部に取付金具が溶接されていたことから、荷重が作用すると面外変形が発生し、応力集中する結果を招く結果となっていた。また、変形箇所に、局部変形を抑制するような補剛材などが無く、変形から応力集中、延性破壊の形態に至る結果となってしまった。もしも、これまで説明した破壊メカニズムや疲労損傷について理解がある技術者が関与し、遊具設計時にこれらについて配慮して製作・施工されていれば、恐らくこのような破壊形態とならなかったと考えられる。

 子供が遊ぶ遊具は、最初にも話したが考えられないような使い方、想定を超えるような柔軟な身体で種々な部分に入り込むし、軟な肌で接触する。また、荷重にしても子供だけが使うのではなく、大人も使う可能性も十分考えられる。今回ここで遊具事故の説明を長々としたのは、技術者としての仮定、想定には限界が無いこと、あらゆる物にその想像力が活かされることを考えてもらいたい。事故が起こるたびに、管理者の瑕疵行為がニュースとなるが、本来は、子供の両親、周囲の大人が余計なお節介をして、危険な行為をしている子供たちに注意してあげれば事故には至らない事が多々ある。海外に行って何時も思うのは、国内の過保護とも思える数多くの防護施設設置への反省である。しかし、我々技術者は、国内で業務を行わざるを得ないのであるからには、私が常々言葉にする想像力を豊かにしてほしいと思う。防護柵を初めとして、数多くの付属物をないがしろにせずに、それらに十分な配慮と周囲への景観との一体性を考えて設計・施工することを心掛けなければいけない。あなたの持つ豊かな想像力が事故を防ぎ、もし不幸にして事故が起こったとしても、配慮が行き届いていれば大事故に至ることは少なく、その影響を極力抑えることが可能となるからだ。

 さて、ここで紹介した高架下に設置した吊り篭遊具の事故の顛末であるが、担当技術者から種々な検討結果と丁寧な説明を子供の両親が聞き感じ、その熱意を感じ取ったのか訴訟への持ち込みは行わないことになった。事故に会った3人の女子は、さぞかし驚いたとは思うが、同様な遊具で遊ぶ際には十分な注意を自ら払って利用するようになったと思う。また、その後開催された議会において、ある党から遊具事故の安全性等の質問を受け、行政側は、同様な事故の再発防止と遊具安全管理の徹底を約束し、無事議会も終了した。何度も言うようだが、種々なことが起こるたびに、定性的ではなく、工学的なそして定量的な理詰めの調査と判断が我々技術者に求められていることを忘れてはならない。これは、自分にも言えることではあるが。(次回は9月1日に掲載予定です)

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