-分かっていますか?何が問題なのか- ㉗遊具が壊れ子供が落ちた! 管理責任を問われるのか? その1
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
1)吊り篭遊具の破壊
事故は、高架道路の桁下、水上アスレチックの吊り篭に子供が乗って遊んでいた時に、突然吊り篭を吊っているロープを支える鋼鉄製の柱から金具が引きちぎれるように破壊し、乗っている吊り篭が水面に落下した。写真-12は事故を起こした水上アスレチック遊具の外観である。
まず、事故を起こした遊具の概説をしよう。吊り篭を吊り渡している支柱の間は、河面で水が流れている。吊り篭は、人が乗って誘導用ロープを操作して吊り篭を動かし、支柱間を移動する仕組みとなっていた。重要なロープの張力は、ロープ両端の取り付け金具を介し、遊具を支持するフレーム、横梁から支柱へと伝達する仕組みである。遊具支柱間の距離は、8.5m、支柱高は2.4m、幅は2.7m、鋼製支柱は、一般構造用角形鋼管のSTKR400が使われていた。
破断したロープ取り付け部は、2箇所あるロープ両端の取り付け部のうち、ロープカバー金具が取り付けられていた側である。取り付け金具は、すみ肉溶接で横梁に接合され、取り付け溶接止端に沿うように亀裂が発生、進展し、最終的に破断したと想定される。写真-14に示す破断した箇所を含め周辺は、写真-15のように腐食が著しく、破断面や横梁角形鋼管内も腐食が進展していた。今回の事故で破断しなかったロープ取り付け金具の状況を写真-16に示すが、破断した箇所と同様にすみ肉溶接によって横梁に取り付けられている。
2)遊具破壊調査内容
遊具の破壊メカニズム並びに破壊原因を工学的に明らかにする目的で、調査・分析を行ったが、概要を以下に示す。
遊具取り付け部の破壊形態を調査するために、第一に発生している腐食、亀裂の進展、疲労ビーチマーク(ストライエーション)模様、破断が延性破壊か脆性破壊かの確認を行うこととした。第二には、吊り篭遊具を固定していた各部の形状と作用する外力によって、遊具を固定している構造が安全であったかの強度確認となる。第三には、遊具全体をモデル化し、吊り篭遊具に荷重を作用させ、破壊した取り付け金具の応力状態をFEM解析によって明らかにすることで遊具の構造安全性の確認をも行う。第四には、吊り篭遊具の実荷重状態や応力状態を確認する目的で事故の起こった現地で再現実験を行い、計算結果等を再検証することである。以上の4項目の調査、検討を行うことによって、吊り篭遊具がなぜ破壊したのか、安全性はどの程度であったか、遊具取り付け金具の破壊は想定できたかなどを推定することとした。
ここにあげた遊具破壊、安全性確認調査は、その後開かれる裁判をも意識し、短時間で効率的に行うことが必要十分条件となる。これらの調査分析は、種々な事故が起こるたびに行われる言わば決まりきった常道ではあるが、技術者としての技術力だけでなく、私がいつも口にする倫理観をも問われる重要な内容を含んでいる。
ここで読者の方々に謝らねばならない。これ以降、皆さんが最も期待している先に説明した詳細な調査、分析、破壊推定、顛末は残念ながら紙面の都合と筆者の勝手な要望で次回・その2に送ることとする。どのような結論となったかを既に導き出している方もいるとは思うが、次回どのようなことが説明され、顛末となるかを楽しみにしてもらいたい。
さて、吊り篭遊具事故の続きは次回へ送るとして、最後に私の好きなニューヨーク・ブルックリンブリッジの話をしよう。写真-17は、昔ブルックリンブリッジの中央を走っていた鉄道を荷重や橋の損傷などから撤去し、自転車歩行者道として長い間使われ、市民からも慕われている歩行者空間である。ご覧のように、多くの人が利用していても自転車と歩行者が接触し、大きな問題となっているような話は聞いたこともない。
これは国民性かもしれないが、自転車に乗る人は歩行者を気遣い、歩行者は自転車に注意すれば両者は十分共存できるのだ。ニューヨークの道路施設を管理している市のポートオーソリティの職員を知っているが、日本のような過大とも思える施設整備は行ってはいない。彼らは手を抜いているわけではない。市民の自発的なマナーづくりを期待し、最低限の整備で最大の効果をあげているのだと私は考える。
美しいブルックリンブリッジの歩行者空間に『いじわるバー』が建たないことを望んで止まないし、それはニューヨーク市民も大反対するであろう。その理由は、ブルックリンブリッジを横断トンネルに変更しようとしたニューヨーク市の大改造案を、見事覆したニューヨーク・マンハッタンの顔、ブルックリンブリッジをこよなく愛する市民なのだからだ。