道路構造物ジャーナルNET

①愛知県の地方機関における橋梁現場担当の現状

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~マネジメントしつつ専門的知見を得ていくために~

愛知県豊田工事事務所
工務課(工務・環境グループ)

宮川 洋一

公開日:2017.07.06

竣工データの保管が大事

 新設橋梁の竣工データについては、従来から保管されてきていると思う。道路橋示方書改定により、橋梁の維持管理に必要な書類を保存することが明記されたが、補修・補強工事の竣工データは何を残すのか。竣工図、設計計算、施工計画書、打ち合わせ簿、工事写真、使用材料、品質管理…。愛知県では最近まで統一された仕様がなかったため、各事務所にて任意で仕様を決めて保管していた。工事後の不具合が起こらない限りは、すぐに使用することはないが、今後の維持管理を行う上で竣工データの保管はとても大事である。
 当事務所の歴代の先輩たちはどうであったかというと、主な橋梁はほぼ計算書や竣工書類が保管されていた。工事台帳も昭和40年代からの発注はすべて保管されていたし、主要橋梁の発注設計書や材料承認、打ち合わせ簿などは平成の初めころから捨てずにとってあった(これらの書類は5年後廃棄のルール)。これらの存在がのちの補修・補強設計にとても役に立った。当時も細かな取り決め等はなかったが、少なくとも「何が大事か」が考えられていたと思う。私も毎年、廃棄される工事関係書類の中から、必要と思われるものを確保することにしていた。
 事務分掌の記載やマニュアル化されていなくとも、必要な事柄は、考えて実行すべきで、そのようなことはまだたくさんあると思う。これは橋梁担当に限った話ではないかもしれない。

頼りにし、頼りにされ、専門技術職員になっていく

 先日、次期道路橋示方書の改定に対する意見照会の依頼が届いた。期限は短く、とても熟読する時間はなかったのだが、県庁の担当者が橋梁現場を離れた私にまで送付してくれたことがとてもうれしかった。これに答えないわけにはいかないと奮起した。
 思い起こせば平成24年の道路橋示方書の改定後、愛知県の「橋梁設計の手引き」の改定時にも当時別の部署に出向していた私のもとに分厚い改訂案が届き、驚いたがとても光栄に思い、これまた奮起して隅々まで熟読し、できる限りの対応をした覚えがある。
 使命感であったり、頑張りの支えであったりするのは、案外「人から頼りにされること」かも知れない。
 そのときから私はこの分野で「おせっかい」をすることに決めた。もちろん受け手との関係は重要だが、適切な「おせっかい」は相手だけでなく、自分自身も向上させると思う。皆さんにも自分にできる分野の「おせっかい」をすることを推奨したい。

 実務に追われる現場担当には、経験に基づく適切なアドバイスが必要と思うし、また実務が抱えきれないようなときは、優先順位をきめて、周りのだれかに頼ることも必要だろう。私もそうだったし、それができないときはとても苦しんだ。

 職員が本質的な問題にもう少し力を注ぐことができるようなれば、それが良い設計成果につながり、良い工事発注ができるし、無理のない工事が可能となり、工程や業者にも余裕ができるようになるだろう。そして成果物の品質向上につながり、良質なインフラ資産をより長く使えることにもつながり、結果的に県民へ享受されるに違いないない。
 私は理想論を言っているのだろうか。

良質なインフラ資産を持続可能にしていくために

 今後すべて維持補修のみで、この先もずっと良質なインフラ資産の維持や、そのための技術力を果たして維持できるだろうか。私はそれには疑問を感じる。持続可能な状態を保つには、我々技術職員だけでなく、設計コンサルタント、施工業者がそれぞれ健全に経営され、人を育て、技術力を確保し続ける必要がある。

 そのためには適切な範囲における新設橋梁事業、架け替え事業や補強事業などの投資予算的事業も必要であると思う。一般県民や議会、納税者に対しても当然納得されるような、合理的な観点が必須である。
 我々技術系職員についても同じことが言えると思う。目の前の業務をただ機械的にこなし続けている状態は、なんだか綱渡りのようで、皆が疲弊していくように感じる。いつまでも私たち世代が今のまま最前線で業務にあたるわけではない。必ず世代交代をする。橋梁をはじめとするインフラ資産の基本的寿命は、我々職員個人の就業年月に比べてはるかに長い。インフラ資産だけでなく、それらを担う人への投資も怠ってはならないと思う。
 新たに配属された技術職員が専門技術力を身に着けるにあたって、効果的な最短距離なんてないと思う。まずは仕事を自分事として考え、こわごわやってみて、一つのことができるようになること、その積み重ねしかない。しかし確実に進歩する。

 これからの世代はこれまでと同じような仕事の進め方ではいずれ立ち行かなくなるような時代の転機を迎えている気がする。目の前で起きている事象や解決すべき問題点に対し、誰かのトライアルを、誰かが決めるであろう基準やマニュアルなどの解決手法を待っている余裕はない。
 あなたのまちの大切なインフラ資産を、それぞれの領域の専門家(設計コンサルタント、施工業者)の手をかりて、地方自治体に所属する専門技術者である「あなた」が判断して守っていくのだ。

おわりに

 この連載は3年ほど前に仕事を通して知り合った「道路構造物ジャーナルNET」の井手迫氏から依頼を受けて執筆することとなった。「若手中堅の…」というタイトルで連載をどうですかと依頼され、名だたる大先輩と同じ紙面に掲載されると思うと気おくれしたが、それはそれで栄誉なことであるし、これまで自分が業務を通じて夢中でやってきて、自分なりに感じてきたことなど失敗を恐れずに紹介することで、これからこの分野に携わる人や今まさに業務にあたっている人、制度仕組みなどに携わる人、業界の関係者などに実情を知ってもらい、何かしらの参考になったり、いや、それは違うんじゃないなどと議論したりするためには、まずは自分のしてきたこと、考えたこと、これからしたいことなどを執筆しなくては始まらないからと、無謀にも引き受けることにした。少しずつ思い出しながら書いていくこととしたい。今回は地方自治体における橋梁現場の最前線の現状を、まずは理解していただくことも必要と思い、紹介した。また、主観的かもしれないが、私自身の思いも書いてみた。次回以降は具体的な実務の紹介を踏まえて執筆したい。
 また、私一人では荷が重すぎることから、強力な助っ人として同僚職員にも執筆をお願いすることにした。
 最後にこんな投稿の掲載を許してくれた「井手迫氏」に、忙しい中、添削していただいた同僚職員に、「道路構造物ジャーナルNET」の懐の深さに、ここまで読んでいただいた「あなた」に感謝したい。

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