道路構造物ジャーナルNET

⑯鋼橋について

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術管理監

植野 芳彦

公開日:2017.03.15

2. 鋼橋のメンテナンス

 鋼橋に関して書いて、というので書く。そういえば、鋼橋に関してはあまり書いてない。というか、実際に、あまりやっていない。後回しの状態である。富山市の管理する橋梁のうち鋼橋は約100橋。其のほとんどが、重要橋梁に当たる。 まず、鋼橋の点検結果から状況を見ると、「塗装劣化」が圧倒的に多い。当たり前である、錆びているのは誰が見ても分かる。また、耐侯性鋼材を使用した橋は、安定錆が形成されていない。一般塗装を行った橋においても錆びの状況を見ると、進行性の錆びと、安定した錆びが見られる。必ずしも再塗装が、早急に必要か?というとそうでは無い。
 錆びているだけなら、まだ問題は無い。腐食して穴が開いているものもある。これは、見逃してきたのか?見ていないのか? 仮に管理者として意思を持って意図的に後回しにしてきたのならば、良いがそうではないようである。点検の手抜きと、塗装時にも、何も考えずに、ただ塗ってしまっている。これは、これまでの監督の不備なのか?業者の手抜きなのか?いずれにしても手抜きである。普通、穴が開いていれば、視れば直に気づくはずである。しかし、気づかない。なぜか?それは、言いたくも無い。「点検」という事が、単なる作業になってしまっているからである。もともと、わが国には、「鋼橋の技術者は少ない。」と言われている。コンサルは毎度、申し訳ないが、あまりあてにはならない。そもそも、コンサルタントには、コンクリートの専門家のほうが多い。なぜ、そうかというと、その生い立ちを考えてみればわかる。たしかに、中には、すごい方も居たが極々少数である。しかし、メーカーの技術者が完璧なわけではない。

見た目は悪い/錆びは、安定している

 以前、私が参加していた、数名の限られたメンバーでの、ある協会でIHIの方だったと思うが、塗装に関して、ものすごい方が居た。其の方の話を聞いていて、「塗装」だけでもかなり奥深い物があるということを感じた。こういう方にこそ、表彰でも勲章でもなんでも差し上げたらよいし、若手の技術者は、教えを請うべきだ。まあ、これは実際に、話してみないと、わからない。感じなければ何も感じない。上辺だけ教科書的に説明しているのとはわけが違うのだ。ということで、塗装の劣化を見ても、錆びているのは分かるけど、その奥にあるものは、なかなか理解できていないという現実がある。
 塗装の仕様によっても異なるが、素地調整は非常に重要である。塗装面の状況により塗膜の寿命も変わってくる。再塗装においては特に、この素地調整「ケレン」が重要である。過去にはケレンを十分にしない、もしくはほとんどしないで、塗り重ねていた形跡がある。これは、塗装の塗膜の状況を見れば分かる。ケレンを十分に行わないと、錆びが残ったまま蓋をしてしまうことになるので、内部で進行する可能性がある。癌と一緒である。その後どういう結果になるか?は、一概には言えないが、あまりよろしくは無い。本来は「ケレン検査」「塗膜検査」をしっかりやるべきであるが、時間的制約もありやられていないのが実情であろう。維持管理の現場では、検査体制の充実も重要に成ってくる。しかし、一方、ケレンが不十分でも何もしないよりはよいのかもしれないと最近考えている。本来は望ましくないが、やらないよりは良いということは維持管理の現場では多々ある。
 ここで、最近厄介なことが起きている。平成26年5月30日付けで、厚生労働省労働基準局安全衛生部から出された、「鉛等有害物質を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」という文章である。これにより、いわゆる鋼橋などの鋼構造物の塗装の塗り直し作業の発注に懸念を示す、発注者が増加していると言うことである。われわれ自治体にすれば、国もしくは県が、明確に対処法を示してくれれば良いのだが、そうなっていない。したがって、悩んで、面倒だから後回しと言う事例が増えいるのではないだろうか。
 もともと、鋼構造物のさび止め塗料には鉛を含有している塗料が、散々使われてきた。さらに、塗料によってはPCBなども含まれている。私は、塗装の専門家ではないので、詳しいことは述べない。かつて、工場や現場で塗装屋さんと話していると、「塗装屋は皆、(希釈材の)シンナーで、やられちゃうんだよ。」と聞いたことはあった。したがって、現場などでの塗装作業においても、換気には十分な配慮が必要だった。実際に、塗装作業を視ていて、頭がくらくらしてきたこともある。しかし、シンナーの問題だけではないと言うことである。
 さらに、作業従事者だけではなく、其の橋梁が住宅地や都市内にあれば、拡散するのを防ぐことも必要であり、環境への配慮も必要である。また、かき落とした、塗料の回収と処理の問題も大きい。拡散防止のための完全防護と作業者のための十分な換気と相反する設備が必要となり、さらには、廃棄物の処理の問題がある。こういったことで、塗装費用が増加してきている。よって、最近、鋼構造物の再塗装を敬遠している自治体が多い。
 近年「部分塗装」という考え方も出てきた。桁端部の塗装劣化が一番激しいことから、有効な手法だと思うが、地方自治体では現実的ではない。なぜか?塗装のサイクルが長いので結局、桁中央も塗装劣化が進んでいる場合が多いからである。こうなると、全体を塗り替えることになる。


部分塗装の施工前(左)/施工後(右)

 富山市においては、どちらかと言うとこれまで、コンクリート橋の補修を先行し、鋼橋に関しては、後回しにしてきた。これは、コンクリートの劣化は見た目にも直分かり、不安が大きくなるからであると思う。これは多くに自治体共通の課題であろう。もともと、塗装は多少ひどくならないとやらない傾向にあった。現在、平均的に15年に1度くらいの塗り替えローテーションになっているのではないだろうか?しかし、これが、前述のように、かなり手間が増えることになり、現場では混乱が生じている。明確な、指針、具体的対処方法的なものを国または県が示す必要が有るのではないだろうか?さらに、維持管理における、再塗装に関しては、現実的な対処が必要なのではないだろうか。

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