道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑮

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 高品質のトンネルを実現するには

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁 氏

公開日:2017.01.21

NATM 施工目地を征服すれば定期点検を制する

 ――加藤さんが考えているトンネル覆工コンクリートの理想像はどんなものですか
 加藤 NATMは施工目地の損傷を征服すれば、トンネル定期点検を制するというイメージです。多少クラックが入っても、有害なクラックというのはNATMには少ないですよね。平成初期はNATMに慣れていないために、変位が収束しないうちにコンクリートを打ったり、品質管理が不十分であったため、有害クラックが発生し、漏水を招くということがありました。しかし最近は、計測技術の発達や品質管理の向上もあり、そうしたものも生じなくなっています。最後に残っているのが施工目地の不具合、うき、はく離、はく落であり、これを無くしたいと考えています。
 ――その施工目地の不具合の話は後でお話を聞きます。一方で、コンクリートのひび割れについて、もうちょっとお聞きしたいんですけど
 加藤 養生が悪いと、乾燥して亀甲クラックが入ったり、ひび割れが貫通したりする場合もあります。第三者被害はそうした箇所が一番危ないので無くしたいですね。
 ――すなわち、それなりにしっかり施工すると、有害なクラックは入らないという理解ですか
 加藤 そうですね。ただし、昔はひび割れの発生の有無などに気を遣っていなかったと思います。私が入社した頃は打設機械にムカデコンベアを使って打設していました。
 ――ムカデコンベアとはなんでしょうか
 加藤 斜め45度にチェーンに箱が沢山付いていて、ぐるぐる回って打設箇所に流し込む装置です。その時代が終わると今度ポンプ車がようやく出てきます。在来工法でしたからセントルの中は配管です。管径は4インチぐらい、1.5㍍くらいの単管をつないで、妻部から打設していくのですが、ポンプ車で生コンを圧送し、その配管途中から、エア圧力で飛ばすんです。言うなれば分離したコンクリートを一生懸命に天端に詰めていたわけです。だから在来工法で施工したトンネルは点検したらあちこちに不具合が出てきます。空洞は、最大で人がはって歩けるくらいのものもありました。その解消のためにできたのがパイプ引抜装置です。油圧で細部までパイプを挿入し順番に引抜いていく、この装置によってエアによる材料分離の問題は大きく改善されました。それが終わったら今度は吹上というふうに、入社した当初と比べると、随分改善されています。手引書を作りながら思いましたが、品質はだいぶ良くなっており、現在入社してくる人々はそうした先人の進歩を享受できていると思います。それでも今いった不具合はあるわけです。

手引き作成の過程で「経験」をデータ化

 ――手引きの話をちょっとお聞きしたいと思います。私も仲間に入れていただいて、みんなで相当苦労して作ったこの手引は、東北地整だけでなく近い将来には全国で使われる可能性が出てきています。まずこの斬新な品質確保の手引きの作成の陣頭指揮をとられた感想や苦労した話を聞かせていただければと思います
 加藤 私は手引きのようなものをあまり作ったことがありませんでした。そのため技術文書的な表現は先生方はじめ、佐藤所長にもご迷惑をかけて、勉強しながらなんとか仕事の合間を縫いながら作ることができました。
 今までも施工継目は悪いってことを大半の技術者が経験として知っていましたが、その弱点について中身を分析しデータとしてまとめてくれましたし、表層目視など施工段階でのチェックや現状把握を行うことで、本当にこういうものでやっていけば、施工段階での損傷は殆ど消去できるということがわかりました。これを施工に携わる技術者・技能者に伝えることができたのは非常によかったと考えています。

現場が手の内を隠さず現場を見あって作成に協力
 ベクトルの合った官民品質向上協力

 ――実践的な手引きですもんね
 加藤 そうですね。今回は手引きを作るにあたって各現場の所長さんたちの意見を聞きながら、作成できましたので、「実践的」という面に大きく寄与していると思います。本当に皆さん協力的でした。

取組に細田准教授が合流し化学変化
 手引きの作成へ深化

 ――あれは稀有な体験だと私も思います。どうしてああいう雰囲気になったんですか。たとえば釜石山田道路では、施工者が手の内を隠さず、お互いの現場を見合い、本当に良いものを作るための知恵を出し合っていましたよね
 加藤 細田先生が目視評価を函渠工で去年、おととしと現場で公開して勉強会を開いたじゃないですか。


表層目視評価の勉強会/品質向上委員会

 ――2014年の6月4日でしたね
 加藤 その内容を見て、いやあ、お金だけじゃないなあ、って私思ったんです。それで、今の工務課長に相談したんですよ。
 ――田口(秀美)さんですか
 加藤 はい。その時は専門官でしたが、彼に「トンネルでもより高い品質を確保する取り組みをやりませんか」と言ったんです。すると「佐藤所長(当時)も一生懸命取り組んでいるんだよ、加藤さんもベクトルが合うなあ」、と。それで立ち上げが決まりました。この覆工向上委員会をやりたいということで、業者さんに声をかけて立ち上げました。「専門官や所長の想いもあるし、私も品質をより良くすることに努力したい」と言ったらすぐ賛同してくれました。それでみんな手の内を明かすようにして、良いものを作ろうという雰囲気になったんですね。そこに先生が来て、さらに盛り上がっていきました。


委員会での活動報告/委員会での覆工コンクリートの不具合勉強会

 ――2014年6月4日は、仮設の南三陸国道事務所の会議室で佐藤所長さんと私がレクチャーして、その時田老第六トンネルのことも少し紹介しました。当時目視評価法も試行的に開発していて、その情報も加藤さんたち聴講者に伝えたので、それがうまく噛み合っていったんですね。委員会には私から直訴して入れて頂きました。私が初めて参加した時に、土曜日だったと思うんですけど、東亜建設工業さんの現場で表層目視評価の解説をしました。結構雨が降っていましたが、引き続いて南三陸国道事務所に行って、委員会を開催しました。そこで特に施工目地のところをつぶせばメンテナンスフリーにできるということを勉強会でもおっしゃるわけですよ。それで、ぜひその方法を確立することをこの委員会の目標にしてくださいとお願いして、その成果物がこれ(手引き)に結実したわけですよね
 加藤 現場でも、実際の施工目地にビニールシートを挟んでくれる工夫をしてくれたりしました。その効果を調べる調査も。本当に協力体制が整っていて、一つのものを作ろうっていう、雰囲気が盛り上がっていました。
 ――今後この手引が各地域で使われていきます。その過程で、手引内容の精査もするでしょう。その成果は、今回と同じく現地の施工技術者の方々と協力してフィードバックしていきたいですね
 加藤 まだまだ改善の余地はあると思います。時代の流れによって色々な方法・技術も出てくるだろうし。だから絶えず見直しはしていく必要があると思います。今回はそうした場合の官民学協力体制のモデルケースになりえると思います。

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