道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-㉑酉年の新年に期待すること

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.01.01

時の経過を考えて橋を造る
 鷹部屋福平博士の言葉をかみしめる

3.今日から始まる酉年に期待すること
 さて嫌な思い出話はこれくらいにして、明るい話に戻すこととしよう。商売繁盛を得るには、海外に誇れる技術を持つことである。本州四国連絡橋を計画、設計・施工していた時代は、長大橋、それも最先端の技術を駆使して地震国に多種多様の橋梁を建設してきたのは日本の技術者、専門技術者の世界の誇れる技術力を数多く保有していたからである。過去に起こったヒューマンエラーによる事故や不祥事は、如何に技術が進歩し、技術者の持てる能力が上がったとしてもこれからも起こる可能性は大である。人は、過ちを犯す動物である。しかし、自らの過ちを確認し、公衆への負の影響の大きさを自覚したならば、二度と同様な過ちを犯さないはずであり、起さないと私は期待もしたい。酉年の特徴、大きな成果、それも国内の橋梁技術者が誇れる大きな成果を期待したい思いである。
 北海道帝国大学、九州帝国大学、防衛大学校で教鞭をとった、日本の誇れる工学者でアイヌ文化研究者としても有名な鷹部屋福平博士は、北海道帝国大学教授時代に次のように橋梁の景観について述べている。
 『橋を造るには、橋そのものが適度な丈夫さを持って造られると同時に、見たところがよくなければならない。適度な丈夫さとは、何れの部分もが力学上の理論に従って無駄に遊んでいるところがなく、よく緊張して働いて居る様に設計せられて居るということである。一部分が過度に丈夫であって他の部分が不足の堅牢さをもって造られて居ることは最も下手な設計である。見たところがよい様にとは橋そのものの形が美しいいうことと、環境との調和が美しいという二つを包含している。橋そのものの形が美しいとは、その重心の位置、曲線部と直線部との調和及び比例、内容の表現、あるいは意匠様式手法等の如き審美的要素の完全を意味するものである。勿論なくてすむところに複雑な装飾の施されることは失敗である。必要な丈の生きた材料が活躍して居るものが力図強い美を意味する。橋そのものの美と共に環境との調和をよく保たせる為には、時の経過ということを、よく考えなければならない。・・・』。
 鷹部屋先生は、水墨画も書き、テニスも熟すスポーツマンで愛知県生まれの色男である。鷹部屋先生の講義は、構造理論をベースにしていることから分かりやすく、多くの優れた専門技術者育成に寄与し、多くの学生に愛されたと聞いている。技術者冥利に尽きる、羨ましい限りの存在である。
 私も酉年の年頭にあたって、鷹部屋先生に少しでも近づく(全く不可能なことかもしれないが)ために行う行動を紹介し、今年の抱負を述べることとする。3回り前の1981年(昭和56年)酉年の橋梁業界を振り返ると、帝都高速度交通営団(現東京地下鉄株式会社)の東西線が荒川を跨ぐ、当時国内で最も長いワーレントラス式鉄道橋である「荒川・中川橋梁」が建設されている。この橋は、荒川を吹き抜ける風で列車が脱線しかかるなど曰くつきの鉄道橋である。何の因果か私がこの鉄道橋の架け替えに関与することになり、年明け早々に関係委員会が開催されることになっている。現在の東西線・「荒川・中川橋梁」は、供用開始した後に写真-4に示すように直近下流に東京都が管理する清砂大橋が建設された。鉄道橋は、日々多くの人を運ぶ公共交通機関であることから、一時たりとも止めることが出来ないのは常識である。それも、千葉から都心を繋ぎ、武蔵野まで走る重要路線である。開催される委員会の趣旨を聞いただけで東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の技術陣もかなりの熱が入った一大イベントとの意識が伝わる。私にとって非常に楽しみな、先に示した鷹部屋先生に少しでも近づくチャンス到来である。

 写真でもはっきり分かるようにかなり近接している清砂大橋に影響を与えず、優雅に流れる荒川の景観に十分に配慮された、優れた技術力を誇示できるような素晴らしい、夢のある鉄道橋に架け替えたいものである。ここに示した私の願い、力学的な考えに裏付けられた構造美を造りだす鉄道橋、最先端の技術力と想像力について一年を振り返って話せるような酉年となることを期待している。

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