道路構造物ジャーナルNET

土木研究所集中連載⑤

道路橋RC床版の耐久性向上に向けた研究開発

国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 
寒地基礎技術研究グループ 寒地構造チーム 
主任研究員

佐藤 孝司

公開日:2016.12.16

3.床版防水システムの高耐久化

 床版における凍害は床版内に水分が存在しないと発生しないことから、凍害の進行を抑制するためには、床版内の水分量を低く保つこと、すなわち、床版への水の供給を止めることが肝要である。床版はその構造および機能上、大きな水勾配を取ることができないため、どうしても水が滞留しやすい。さらに、床版内部へ水が浸入することで、走行荷重による疲労耐久性も著しく低下することが知られている。そこで、床版上面の滞留水を床版内へ浸入させないことが床版の長寿命化に対して効果的である。現行の基準では床版防水の設置が義務付けられているが、防水層の設置が基準化されたのは比較的近年であり、現行の橋梁の多くは今も防水層を有しないまま供用している。
 このため、床版の劣化損傷を防ぎ、安全で快適な交通を確保するためには、供用中の作用に対して舗装、防水層および床版の三位一体の構造をもって床版の劣化損傷を抑止し、路面等の滞水を速やかに排水する設備までを含めた耐久性の高い「床版防水システム」の構築が重要になる。
 一方、写真-4 に示すように防水層を有する床版においても、防水層の付着が不十分であったり、床版下面の漏水や遊離石灰が確認されており、防水層が適切に機能していない状況も散見される。そこで、これまでに防水層が設置された床版において実施した現地調査結果等を踏まえ、防水層を施工する際の留意点について、主な4項目を整理した。
①床版上面の脆弱部や塵等の適切な除去
 新設時において床版上面に塵、埃、ノロおよびレイタンス等が残っていると、防水層との付着に悪影響を与える。既設においても床版上面に凍害等で劣化損傷した脆弱部がある場合、母材コンクリートが破壊後はく離し、防水層の機能が喪失することがあるため研掃装置等により適切に除去する(写真-5)。
②床版上面の平坦性確保
 床版上面の不陸(凹凸)が大きいと、塗膜系防水の場合には凸部で防水層が薄くなり、防水性能の低下が生じる。シート系の場合には凹凸に追従しきれず付着性能が低下する。そのため凹凸は極力減らし、丁寧な研掃が必要である(写真-5)。
③床版上面の滞水の確実な除去
 床版上面に水分が残ったまま防水層を施工すると、その後舗装時の熱が加わることにより床版面に水蒸気が発生し、ブリスタリングが生じる。これにより初期段階から防水層が付着を失うことがある。
④舗設時の適切な温度管理
 舗装敷設時の温度管理を怠れば、防水層と舗装間の良好な付着が得られず一体化しない。そのため、早期に舗装がはく離する可能性が生じる。極力気温の低下する時期、時間帯を避け、適切な温度で施工する。

4.高耐久桝の開発

4.1排水桝の劣化損傷状況
排水桝の劣化損傷状況を把握し、現状の排水桝が有する問題点を明確にするために、北海道内の国道橋に関する点検結果を整理した。写真-6は代表的な劣化損傷状況を示したものである。排水桝に関連する劣化損傷は次の3つに大別される。
(1) 排水桝自体の劣化損傷
 写真-6(a)では排水管が腐食し、排水管周りの床版コンクリートの補修痕が見られる。周辺に白色の析出物が認められることから、排水桝と床版コンクリート間で漏水があり、漏水に起因したコンクリートの凍害、排水管の腐食が発生したものと考えられる。
 (2) 排水能力の低下
 写真-6(b)は排水桝の土砂詰まりの事例であり、排水能力の低下に伴い排水桝の周辺が土砂堆積および滞水していることから、舗装内が湿潤環境となりやすいことと推測される。
 (3) 排水能力の不足に伴うその他部材の副次的な劣化損傷
 写真-6(c)では伸縮装置近傍の床版防水層が剥離している。伸縮装置近傍は橋面における縦断勾配の関係から滞水しやすい箇所であり、排水桝の排水能力不足により防水層の損傷を助長した可能性がある。

4.2高耐久排水桝の提案

 従来排水桝の損傷状況を踏まえ、排水性および排水の確実性を向上させた図-2 のような排水桝構造を提案した。従来型排水桝と比較した特徴は次のとおりである。
(1) 床版上面水に対する排水能力の強化
 床版上面水に対する排水性を強化するために、断面の大きな水抜き孔を桝の4面に2個ずつ設けた。また、図-2(a)のように水抜き孔近傍における目詰まりを抑制するために、従来の排水桝にはない排水溝を設けた。
(2)排水桝と床版防水層の接続性の向上
 床版上面水を速やかに排水するよう、図-2(a) に示すとおり排水桝周辺において床版コンクリート上面に水勾配を設けるとともに、床版上面水を排水溝へ導水する構造とした。
(3) 排水桝と床版の一体性(止水性)の向上
 排水桝と床版の一体性の向上を目的に、図-2(b)のように鉄筋取付け用リブを設け、定着用の鉄筋を介して床版と排水桝の定着を強化する構造とした。
 また、排水桝周辺に生じる床版コンクリートの初期ひび割れ等が水みちとなることを防ぐために、図-2(c)のように排水桝周辺の床版防水層に浸透性の高い樹脂材料を隙間に十分浸透させ、床版自体に防水機能を与えるものとした。

4.3高耐久排水桝を設置したRC床版の定点疲労載荷試験
 本試験は、床版に設置された高耐久排水桝に対して、排水桝本体の疲労耐久性および排水桝周辺の止水性等を確認することを目的に実施した。写真-7に試験状況を示す。 
 載荷方法は定点疲労載荷とし、車両走行時に輪荷重が直接に排水桝へ載荷された場合等も想定した。試験終了後に実施した浸透探傷試験の結果、排水桝に疲労亀裂は認められず健全な状態であった。また、床版下面において排水管周辺からも漏水は認められず、排水桝と床版との一体性が確保されていた。
 なお、開発した排水桝構造は、北海道開発局における道路橋の排水桝の標準図5)に採用され、現場適用も進んできている。写真-8に設置状況を示す。

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