道路構造物ジャーナルNET

⑬八田橋(ポータルラーメン橋)の架け替え

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術管理監

植野 芳彦

公開日:2016.12.13

4. 維持管理性の向上

 ポータルラーメン橋は、桁端部漏水による桁端腐食の原因となる伸縮継手を排除し、支承も設けない維持管理上優れた構造である.また、八田橋は、鋼桁ウェブをコンクリートで被覆し、橋面排水を鋼製排水溝で道路側溝に引き込むことで橋梁内部に取り込まない処理を行い、維持管理性を向上させた.更に、多くの添加物を桁間に抱きかかえるために、床版の維持管理性と添加物自体の取り付け空間の確保に課題が生じた.そこで、床版は、型枠にアーチフォームを使用することにより、耐久性を向上させ維持管理頻度を減少させることを試みた.また、隅角部に関しては、隅角部の安全性と添加物用箱抜きが生じる部位に関して、3次元FEM解析を実施し、安全性及び補強の検討を行った.

5. CIM(Construction Information Modering)の採用と試行

 八田橋は橋梁そのものは一見、単純な橋梁に見えるが、構造物(隅角部の鋼材・配筋図を含む)として複雑であり、添加物、埋設物が事情に多く、施行及び今後の維持管理に課題が生じることが懸念された。また、住宅地であり市の中心的市にも存在するために、周辺環境を含めた3次元化した情報として取り込み、施工時及び維持管理まで共通の情報として使用することを試みている.施工時に変更される情報は、逐次CIMデータの変更を行い、その後の施工と維持管理のデータとして有効活用していく予定である。

CIMの活用例

6. 施工状況

  現在の工事は、1期工事であり、LRTをはさんで上流側の施行を先行している。上流側の工期は、平成27年12月18日~平成30年3月16日であり、施工者は佐藤工業・日本海建興・角地建設JVである。
《進捗状況》
  9月から本格的に工事着手し、現在、橋台の基礎杭(場所打ち杭)工事を施工が終了し、旧橋撤去作業に向けた、足場設置作業中である。

図-3 工事状況(全景)/図-4 基礎杭(場所打ち杭)施工


本橋の施工に当たっては、都市中心外の交通量の多い路線上での橋梁架け替え工事における、課題等を抽出し、今後、富山市中心街での同様な老朽橋の架け替え時の参考としていく。

7.今後の予定

【平成28年度】
10月下旬から既設橋を撤去、来年1月頃から橋台を整備(両岸2箇所)
【平成29年度】
新たな橋桁(約36m)を架設し、橋面の舗装を実施

 

8. まとめ ~意見~

 本橋の架け替えに関しては、さまざまな意見があり、情報が少ない中、地方都市の都市部における、長期的な老朽化対策のさきがけとなるべく実施した。現在「長寿命化」「予防保全」と言われ、架け替えが敬遠されがちで有るが、自治体のトータル的な長期のインフラ・マネジメントを真剣に考えた場合、「架け替え」「更新」というメニューが必要である。地方自治体の橋梁は元々新設時の出来が非情に悪い状況のものが多数ある。元々の施行不良が、劣化を著しく進行させる要因になっていることは否めない。という事は、予防保全による長寿命化にはかえって予算が必要となり、実際にあまり維持管理に取り組んでこなかった方々の机上の理想論であるという現実がある。
 おそらく、富山市においても今後、八田橋と同様な事例が想定されることから、八田橋は早々の架け替えとし、今後の検討課題を抽出していくこととした。一番大きな問題は、元々がTL-14で設計され老朽化しているにもかかわらず、町の中心部において多くの交通量をかかえ、大型車も規制無く通行させていることである。さらに、複雑な添架物を有する橋梁であり、これも地方自治体の街中の橋梁の共通する課題であり、モデルケースと捕らえている。老朽化した橋梁は、「長寿命化や予防保全」を施しても、いつか必ず、「架け替え」をしなければならない時期が来る。長寿命化という言葉に皆さん誤解を抱いているようであるが、たとえば、80年経過した橋梁を長寿命化しても、その後100年持つわけではない。せいぜい10~20年程度であろう。其れをわざわざ、お金をかけて直していくのか?という事である。ましてやその橋梁が、重要な位置に架橋されていれば、10年ごまかしても、税収が減った後に何とかしなければならない状況に陥ってしまう。このような橋梁が多数存在する。ただし、歴史的に価値があり、保存したい橋梁は別である。この場合は、全体のマネジメントとは別に検討する必要がある。
 架け替えだけ捉えれば、なんとなく、皆敬遠しがちになってしまった。「荒廃するアメリカ」とならないようにと言うことであるが、わが国特有のこの業界の、企業間の実力差、風習や考え方、最大の違いの予算の配分と言う議論が抜けてしまっている。後々問題になるだろうが、現在の皆さんにはなかなか理解されないと思う。
 今後、街の中心の橋梁や山間部の橋梁を、計画的に架け替えをしていかなければならない。おそらく、1橋ずつ、なるべく重ならないように、計画、設計、工事へとマネジメントしていかねばならない。それも財源が減少してしまわないうちにやらねばならないので、時間との戦いとなる。おそらく、皆さんが感じているのとはだいぶ違う、ハイペースで取り組まなければ成らない。我々に残されている時間は少ない。
 「マネジメント」「戦略」という事がよく言われるが、本当に理解しているのだろうか?理解していたとしても実行しているのだろうか?先日、道路メンテナンス会議に出た際に、「点検数が予定数よりも少ないから、何とか頑張れないか?」という指示があった。これはこれで良い、真実である。しかし本来議論すべきなのは、その「点検の質」であり「精度」であると思う。私が心配しているのは、点検結果を鵜呑みにしてしまい。そのまま、補修設計を実施し補修工事を行う体質である。本当に、補修で正しいのか?補修の方法や使用材は適切なのか?この辺をコンサルに頼りすぎている。民間企業に委託すると言うことは、「プロに依頼」しているのである。アマチュアはお金を取ってはいけない。「仲買人」に頼んでいるわけでもない。個別の企業や技術者を責めるつもりはもうとうない。
  時間の無駄である。「出来ないことはできない」「わからないことはわからない」と言えるものが少ない。他人に聞こう、教えてもらおうという態度が無いのである。残念である。
  富山市の状況を見ていると、まず、点検の「精度」が劣っている。「精度が劣っている」というと、なんとなく、不可効力のような気がするが、それだけではない。精度が劣っているのならば、その劣っている分をカバーしなければならない。しかし、これを見逃すと、そのまま補修設計に行き、補修してしまうのだが、補修設計も、本来必要な豊富な現場経験や知識が有る者が行っているかと言うとそうではない。しかし、現実は適当に地元の使いやすいコンサルに委託し補修設計を行い、(ここではあえて実際どういうことが行われているかは書かない)上がってきた結果に基づき補修工事を行う。役所は「処理」や「予算消化」にばかり目が行き、本来議論すべきところが議論されていない。情けないことである。「適切な技術と予算執行」この、2つがそろって初めて有効で適切な管理が出来ていくと思う。 なにか、どこかで「議論と判断」が足りないような気がする。
  そろそろ、実状と真実を理解し、今後どうして行けばよいか真剣に議論すべき時期だろう。うわべのきれいごとで考えても埒は明かない。私の発言は、「厳しく過激だ」と言う方々も居るが、まだ10分の1程度である。「モット厳しく」と言う方も居る。橋梁関連業界を一通り経験してきて、実態を見てきているので、裏側もわかっている。無駄なことをしている時間はもう無いということを強く言いたい。「八田橋」の架け替えは、その検討経緯からさまざまな課題を含んでいる。なかなか、書けない部分も多々有るが、とにかく、維持管理の問題は、全て同じではないので「考えること」が重要である。

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⑧土木研究所との協定の狙い……「後」を見据えて
⑦「考える職員」を増やす
⑥役所側から考えてみる
⑤橋梁保全対策室を新設
④診断・補修について
③点検について
②自治体自体の長寿命化を図るために
①魅力ある提案が欲しい

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