1. はじめに
今回は、「八田橋」に関して書いてくれないかとの事なので書こうと思う。単なる、構造説明では面白くないので、課題と合わせて現状を解説していくことにする。本橋はまだ、工事が始まったばかりである。今後、工事はもちろんだが、今後の富山市の橋梁マネジメントの指標となっていく大切な工事である。
富山市内に架かる八田橋は、昭和30年ごろに架けられた、3径間RCゲルバーT桁橋である。(“ごろ”と言うのは明確な資料が確認できないから)もちろん、当時の図面等も残っていない。過去に2度点検が実施されており、老朽化が懸念されていた。この点検にも問題があり、富山市の橋梁点検の精度そのものが疑われる原因を作った橋でもある。その後、補修計画を行っていたが、土木学会の小委員会の点検を受け入れ、劣化の度合いが激しいことが指摘され、再検討を行い、結果的に架け替えの判断を下した。本来であれば、この時点で、反省をし今後の体制や点検のあり方そのものをもっと検討すべきであったと考えている。どうも、皆さんは決められた、過去のやり方やしくみを変えることができないようだ。ダメならばやり方を変えなければ、いつまでもダメなままである。我々が今、与えられている課題は「インフラの老朽化」というかつて無い、あまり考えられてこなかった課題である。
新たな「考え方」「仕組み」が必要であると考えている。それに向って、“限られた”「財源」「人員」「装備」で戦わなければ成らない。全てに劣る、特に地方の弱小勢力が勝ち残っていくためには、「工夫」が必要であり、「戦略」が必要なのだ。いつまでも、過去のやり方では絶対に滅びさる。この危機感が無い。
再検討に当たって、当然、設計図書の収集に努めたが、図面等は残っておらず、よくある設計図書の保管の不備があった。重要な橋梁に関しては、設計図書の保存は、その運用期間中は必ず保管しておくと言う鉄則が守られていない。さらに、本橋の問題が「NHKスペシャル:日本のインフラが危ない」で取り上げられたために、市民からの反応も大きかった。ちなみに、「NHKスペシャル」では、富山市と浜松市が取り上げられ、現在、浜松市とは「NHKスペシャル被害者の会」を設置し、けなされるだけ(笑い)ではなく、その後の取り組み等に関しても評価していただきと、懸命に取り組んでいる所存である。浜松市さんとは情報の共有等を行い、維持管理の共同研究などもしていきたいと考えている。
ここで、あらためてあげたいのは、各所からの情報提供が得られたことである、60年以上前のものなので、今までの役所においては、資料の保存がされていない。かつての建設部長や市民のかたから、情報が寄せられ、正確ではないものの非常に参考になった。面白い情報では、未確認ではあるが、元々は木橋であった。というもの、木橋を上部工のみRCの桁に変えたというもの。であり、なるほどと納得できるものである。かつては全国的に結構そういう状況の橋が存在していると思われる。私の経験の中でもよく相談されるのが、「上部工は架け替えたいが、下部工はもったいないのでそのまま使えないか?そういう検討をしてくれ」と言う相談であった。まあ、これは、阪神大震災以降はさすがに無くなった。
さらに、使用されているコンクリートは高度成長期の物よりも、良いコンクリートである。ただし、ゲルバー構造を採用しているために、ゲルバー部が弱点になる可能性が大きい。ゲルバー構造は最近ほとんど見られなくなったが、当時は競って作られたのであろう。桁高を低く抑えられるため、好まれたようだが、維持管理上は厄介である。これと同じ物が合成桁、合成構造である。「設計上は複雑になるが、経済的」ということで盛んに使われたが、やはり今後維持管理上問題となる可能性が大きい。