道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ⑳斜め吊による跨線橋補強提案顛末

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2016.12.01

2.R橋の対策案

 R橋の地震時における安全性は、先に話した鉄道事業者と散々行ったが、常に自分達が考え、行った対策案は完璧であり、私が話している仮定に基づく被害想定は可笑しいとの判断で事は進んだ。しかし、既設橋脚の調査結果が出た後は、態度が急変した。要するに、自分たちが行った対策案の根底を揺さぶられたからである。RC橋脚は、現行の基準を満足するほど十分(後に行われた繊維巻き立て分を考慮しても)ではなく、フーチングと躯体が一体となっていると仮定した主鉄筋が全くないのである。それも、柱中心に1本の鉄筋、まさにヒンジ構造である。
 そこで考えたのが、図-5に示す対策案である。既設橋台の裏側背面に大口径の深礎杭を築造、そこに主塔を建てて既設PC桁を斜吊して受け換えるのである。それとともに、既設橋脚に荷重が作用しないように、また、地震時に変位しないように橋脚頭部を鋼製の部材で固定する方法である。私が対策案を話すと幹部は、「髙木さん、正気ですか?本当にそんな案が設計できますか。」との事である。誰が考えても当然幹部のような答えが帰ってくるはずである。

 しかし、設計してみるとこの対策案は、十分に成り立つのである。難点は、事業費が高額となることである。今回示した対策構造を見られた方は、このような複雑な構造や段取りを考えると施工は到底無理、桁下を走る鉄道の線路閉鎖時間内で架け替え工事を行えば簡単じゃないかと考えるのが一般的である。
 現実は厳しい。始発が午前4時29分、終電が午後0時47分の時間帯を確保して、起電停止、線路閉鎖を行った後の作業時間は僅か2時間30分弱しかないのである。この作業時間内で、既設橋脚に手を付けずに、耐震性能を向上させる案を他の考えられる方は是非提案いただきたい。本音である。ここまで苦労して積み上げたR橋の対策案は、事業費約10億円と作業時間の制約等でお蔵入りとなった非常に残念である。しかし、R橋は、今も毎日多くの人(約3,000人)と車(約10,000台)が利用している現役、バリバリの橋である。逃げては通れない、今後R橋をどうするか決める時期が必ず来るのである。

 今回私が久々に感動した専門技術者の話と程度は違うが私が新たな構造へのチャレンジした対策案を紹介したが、何時も言っていることではあるが、広中先生の言葉に 独創のコツがあり「第一には、結果がどうでるか分からないのにコツコツ努力を続けること。第二には、ここ一番という時に打って出ていく勇気、博打根性といってもよい。この両方がないとせっかく持っている力も出し切れない。」と示している。まさに、成果を求めて日々の努力を行うのでは無く、自分の知識を養い、視野を広げるためにコツコツと学ぶことを忘れてはならない。これは、自分への戒めでもある。
(次回は2017年1月1日に掲載予定です)

髙木千太郎氏報文シリーズ

⑲勝鬨橋の跳開について
⑱架け替えか補強が妥当かのせめぎ合い
⑰奇妙で可哀そうな道路橋の話 その2
⑯「奇妙で可愛そうな道路橋の話 その1」
⑮「アセットマネジメント、予防保全型管理について」
⑭  「災害復旧と仮橋の位置」
⑬「有事に機能する真の技術者集団とは―現場で得る知識は100の技術書を読むより有益―」
⑫「モニタリングの現状と課題―持続力と議論が必要―」
⑪「想像力と博打根性」
⑩「橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願い」
⑨「私見 勝鬨橋再跳開の可能性とその効果」
⑧点検はこれからが勝負
⑦PC桁の欠け落ち損傷
⑥溶接構造の品質保証について
⑤橋と景観
④独創のコツ、なぜ研修制度は機能しないのか
③「道路メンテナンス会議」は本当に機能し始めたのか
②「道路橋の変状と架け替え」について大きな疑問
-分かってますか?何が問題なのか-①

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