道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ⑳斜め吊による跨線橋補強提案顛末

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2016.12.01

はじめに

 11月25日の午後、東京霞ヶ関のイイノホールで開催された一般財団法人橋梁調査会が主催する「世界の橋梁建設とメンテナンス」講演会を聞く機会があった。その中で講演されたフランスの世界的に高名な構造技術者の話を聞き、専門技術者とは如何にあるべきかを痛感した。それは、コンクリート工学連盟の会長であったMichel Virlogeux(ミシェル・ヴィルロジュー)博士の講演である。博士の講演演題は、『Normandy Bridge, Millau Viaduct, Terenz Bridge and Third Bosphorus Bridge (表題ではThird Bospohrus Bridgeとなっていた)』である。
 博士は、以前から博士の橋梁に関する優れた知見や経験に満ちたお話を種々な場面で述べられ、博士が携わった橋梁の多くは間違いなく将来の貴重な遺産になると大きな評価を受け、卓越した功績を残している人に贈られるレジオンドヌール勲章を受章した人物でもある。私は、博士の講演を聞くのは初めてであるが、材料や力学的な考え、橋梁が創り出す景観など多岐に渡る持論を展開して述べられ、聞き惚れた場面が何度となくあった。70歳を越えられて未だ現役としての先進的な考えや熱意に、残念ではあるが博士のような専門技術者は日本にはいないなと強く感じた。
 特に私が専門技術者として感動したのは、The Third Bosphorus Bridge(現在の橋梁名:Yavuz Sultan Selim Bridge)構造決定の話である。設計条件である橋長と地形などから考えれば吊り橋が基本となる話は当然ではあるが、鉄道との併用橋における考え方を示された時、博士の見識の広さに感動した。これは、私の技術力不足なのかもしれないので、これから私が述べる内容にそんな常識的な事も分からないのかと笑われる方もいるかもしれないが、未熟者の戯言とご容赦願いたい。
 一つは、吊り橋の桁構造の話である。イギリス第一セバーン橋のような流線型の箱桁構造を採用するのか、一般的なトラス構造を採用するのかであった。渡河する海峡や周辺の景観を考え、美しい景観を創りだすために2層ではなく、1層で下面を絞った箱桁構造の採用を決定したとのことである。当然、自動車,鉄道との併用橋であることから、並列にすれば橋軸直角方向に広幅員となる。因みに幅員は、58.50mで箱桁の高さが5.30mである。このように広い幅員であること、中央径間が1,408mであること、海峡であることからかなりの大きな風を受けることなどから、当然風洞実験(フランスにおいて)を行ったとの事であるが、映し出された写真からの印象では非常にスマートな美しい断面形状となっている。種々な面で可愛がっていただいた故・成田先生のアドバイスでイギリスの第一セバーン橋を2度ほど見には行っているが、疲労上の問題はあるものの見る物に感動を与える道路橋であることには間違いはない。The Third Bosphorus Bridgeにおいて、鉄道と道路とを上下に分離することで幅員抑え、剛性の高いダブルデッキトラス構造を採用しなかった博士が述べられていた設計に対する強い意志は、次世代まで愛される橋梁を目指して意志を貫き通す橋梁技術者として我々が目指すべき姿であると感じた。山間部の美しい道路橋として評価の高く、多くの観光客を集める博士が設計したMillau Viaduct も同様である。最新の技術力を持ってすれば、過去に危惧していた風による捻じれ等も的確に処理できるのである。長大橋の技術は、日本が本州四国連絡橋を架設していた時代から大きく前進していると感じたひと時であった。
 私が、今回是非多くの読者に知ってほしいと思い、強く感動したのは第二番目の話である。博士は、The Third Bosphorus BridgeにRoebling が設計したNiagara Gorge Suspension Bridge設計思想を当該橋梁にも活用したとのことである。話しは、面白い。博士は、The Third Bosphorus Bridgeプロポーザル参加を依頼され、4か月後までに提案する形式、外観、基本的な考えなどを盛り込んだ提案書作成に取り組んだとのことである。一般的な中小橋梁ならいざ知らず、The Third Bosphorus Bridgeのような世界一の橋梁を提案するには、一般的な技術者であればとても短期間では困難と断るはずである。しかし、これまで輩出した多くの高名な欧米橋梁専門技術者と同様な新たな物への取り組み意欲と博士の持てるプライドが許さなかったのであろう、短期間に道路と鉄道併用橋、それも鉄道走行時に発生する大きなたわみをNiagara Gorge Suspension BridgeでRoeblingが試みた側径間の剛度を上げることで解消したのである。私は、図―1に示した書籍の中で、疑問の残る設計事例の一つとして何度も読み、内容を知っていたので博士の解説を聞いて驚きであった。しかし、博士の話すように側径間の剛度(コンクリート構造・ハイブリッド構造)に着目、確かに中央径間部分の剛度を上げるよりも理に適っているのである。もし、中央径間だけに着目して基本設計を行うのであれば、今の美しい薄い断面の箱桁形状では無理である。また、主塔を挟んで17本のStiffeningcablesで斜めに吊り上げる構造は、まさに後述するNiagara Gorge Suspension BridgeやBrooklyn Bridgeと同じコンセプトである。博士が自ら話したニューヨーク州バファローに架かっていた鉄道橋・Niagara Gorge Suspension Bridgeの設計思想を現在の長大橋に引用したとの解説は、博士がよくRoeblingの考え方を理解し、世界一のThe Third Bosphorus Bridgeに採用したことは私にとって驚愕の事実であった。世界に誇る専門技術者の真の姿は博士のような幅広い知見と優れた判断力、決断力が必要と思った瞬間であった。

 さて、話を本日の話題提供に移すとしよう。私が経験した、実現しなかった既設橋の補強? 架け替え? についてである。なぜ、今回この話をするのかは、くだらないと思われるかもしれないが、私がこの時に提案したのが斜め吊形式だったからである。

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