道路構造物ジャーナルNET

⑩ASR対策

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術管理監

植野 芳彦

公開日:2016.09.15

4.ASRの対策

 現状においてASRによる劣化が顕在化している場合は、ASRの進行を抑制し耐久性能の回復を図ることを目的に対策を行う。補修材料および工法は、ASRによる膨張が継続することを前提として選定することが重要である。また、鉄筋破断が認められ耐荷性能の低下が懸念される場合は、構造物あるいは部材全体の剛性を考慮して耐荷力の回復・向上の回復を図る工法を選定しなければならない。
 耐久性能の回復を図ることを目的とした対策は、さまざまな種類があると考えられるが、深く検討されていないのが実情であると考えている。(ここでは補修方法に関しての解説も他の方に譲る)さらに、補修でよいのかダメなのか? つまり作り変え(打ち換え)の必要が有るのか? の議論が十分にできないのが現状である。
 現在、富山市で行っている方法は、一般的に、「ひび割れ注入工法と橋面防水、非排水型伸縮継ぎ手への交換」である。水分の供給を断つという思想に基づくことであるが、これにおいても問題は多々有る。まず、橋台の裏側からの水分の供給はとめることができない。橋面防水にも欠陥が発生する恐れもあれば、劣化の問題が有る。非排水型の伸縮装置も劣化する。ひび割れ注入も劣化もあれば、ひび割れの進展があり、それに追従されない場合も出てくる。表面保護工を行っても同様である。(ここで他の補修方法に関しても、あえて述べない。有効な新技術をお持ちの方は、どうぞ、いらしていただきたい。)


ボロボロになったコンクリート/ひび割れ注入工法

橋台部のコンクリートひび割れ

5.まとめ

 「富山は、ASRの博物館」と言ってよいかもしれない。興味のある方は、案内させていただくのでどんどん見に来ていただきたい。ASRは技術力・財力の無い自治体にとって非常に厄介な問題である。「コンクリートの癌」と言われるように、有効な対処法も見当たらない現在、どう対応していくのかが大きな課題である。個人的には、勉強していく必要が有ると考えているが、我々は「実務家」なので、現在活用可能な技術を、如何に安価に活用していくかを考えなければ成らないのである。よく、さまざまな提案を持ってきていただくのは、ありがたいことであるが、まず、品質・精度が十分に確保されていて、安価であることが重要である。なんでも、使えるわけも無く、ましてや高価な物は自治体では使えない。
 今現在、ひび割れ補修等で対処している対処法が、本当に正しいのか?と言う問題も有る。最大の疑問点は、補修方法を提案してくるコンサルさんが、何処まで経験があり、その技術を理解しているか?である。「保障はしてくれるのか?」と難題を与えたいくらいだ。どうも安易なのである。安易だから腹が立ち信用ができなくなってしまう。他人事なのである。これは、職員にも言える。今後、おそらく会計検査等においても、補修方法に関しての問いかけが多くなると感じている。本当に有効な補修法を採用しているのか? 施工の精度は? コストは? 耐久性は? と言われた時に、果たしてどこまで対処できているのか? が問題である。自己満足では無い、きちんとした、裏づけが必要なのだ。
 さらに、最近、やたらと、「うちの技術を使ってくれ」と言ってくる業者が居る。しかし、裏づけが無いからダメだと言っているにもかかわらず、「他では使ってもらった」と言う。これは、公共事業の本質がわかっていないので、そういう業社さんは、使ってくれる心の広い役所で、活用してもらえればよい。私は了見が狭いので、自分自身と部下のリスクは極力削減したいと考えている。技術的な品質や精度、耐久性の観点から、現状で「技術審査証明」と、土木学会やNEXCOの「技術認証」程度の物が望ましい。これらは、NETISとは異なり、委員会での審査をキチント受けなければ、認証がもらえないので、技術の完成度が高いからである。また、厳しい委員会の審議を経ているので、何重かの審議を受けている。
 これとは別に「亜硝酸リチウムを用いた補修対策」もやってみたいところでは有る。今後、有効と思われる補修方法は検討し、実施しながら有効性を確認したいと考えている。施工後も、モニタリング(広義の)を行い、状況を確認して行き、今後につなげたい。補修は、1度やったら終わりではなく、その後の長い運用管理の中で、繰り返していかなければならない。有効な技術は認め、できるだけコストを削減し、その後の再補修や架け替えに予算を充当したいのだ。
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