道路構造物ジャーナルNET

⑩ASR対策

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術管理監

植野 芳彦 氏

公開日:2016.09.15

 民間と行政の双方を経験し、何が見えるか?書いてほしいとの話があった。執筆を引き受けたのは良いが全く書く内容に困った。しかし、これから大きく変化する、社会情勢の中で特に、何が今問題なのか?我々は何をするべきなのかを考える一助になればと思い書くことにする。技術的内容よりも、一般論に近いものとなる。書くに当たっては、批判も罵声も大いに結構である。さまざまな考えの方が居て当然であり、私の考えが間違っているかもしれない。大いに批判していただきたい。

1.アルカリ骨材反応

 富山において、構造物の維持管理をしていく中で、最大の問題は、「アルカリ骨材反応」である。これは最近始まったことではなく、以前から存在する問題なのだが、有効な補修方法が無く、皆苦労してきている。多くの先生方や民間の方も取り組まれているので、学術的な詳しい説明はここでは行わない。それは、他の方々に譲りたい。管理者としての見解を示すことにする。
 アルカリ骨材反応とは,骨材中の特定の鉱物とコンクリート中のアルカリ性細孔溶液との間の化学反応のことで、この反応によって、コンクリート内部で局部的な容積膨張が生じ、コンクリートにひび割れを生じさせるとともに、強度低下あるいは弾性の低下という物性の変化が生じる。
アルカリ骨材反応は3種類に分類される。
①アルカリシリカ反応
②アルカリ炭酸塩反応
③アルカリシリケート反応
 アルカリ骨材反応の中で最も多く発生しているのは,「アルカリシリカ反応(Alkali Silica Reaction : ASR)」である。(以下、ASRという)
 富山に赴任して、現場を見ていくなかで、最初に感じたのが、「ASRのひどさ」である。コンクリートの劣化の3大要素として、「塩害」「凍害」「ASR」が良く挙げられるが、富山では意外に「(純粋な)塩害」は少なく「凍害」は、ほとんど見られない。(思い込みは戒めるべきだが)それに比べ、「ASR」および「ASRと塩害の複合劣化」は非常に多く見られる。これがまた、厄介なのである。富山にとって大きなリスクであるが、本当の理解者は、どれほど居るか? また、これまで苦労してきているはずであるが、何か対処法の工夫はしてきたのか? が大きな疑問である。
 課題を解決するためには、状況を分析し工夫することが重要であるが、其れがなかなかできないのが、役所であり土木の世界である。

2.アルカリ骨材反応が生じた構造物

 アルカリ骨材反応が生じた構造物に共通してみられる特徴は、コンクリート表面に発生するひび割れである。「亀甲状のひび割れと」表現されるように、方向性がないのが特徴である。また、アルカリシリカゲルと呼ばれる白色のゲル状の物質がひび割れから滲出している場合もある。橋脚、橋台はもちろん、最近では上部工に見られる。最近、役所内で相談を受けたものでは、地下道や大型ホール、学校の校舎の基礎部分と広範囲である。
 実構造物においては,補強筋の配筋状態あるいは内部応力の状態によりひび割れの発生が影響を受けることから,、ひび割れの状況のみで、その原因がアルカリ骨材反応であると特定することは必ずしも簡単なことではないとされているが、地域性等から思考していけば、容易に判断できると考える。
 骨材は一般に岩石からなっており、岩石は一般には鉱物からなっている。したがって、反応性骨材とは、反応性の鉱物を含む骨材ということになる。アルカリシリカ反応を生じる可能性のある鉱物としては、シリカ質鉱物、ガラス(火山ガラス)、シリケート鉱物などが挙げられる。しかし、鉱物種のみから正しく反応性を判断することは極めて難しいことである。富山においては常願寺川と神通川の河 砂利を使用していた物において、有害鉱物が存在していると言われている。これも、良心的なプラントでは、過去の使用骨材のデータも残っており、ある程度の追跡は可能であるのだが、そこまで確認しようと言うコンサルは居ない。(調べようと言う気がない)

3.ASRの調査方法

 富山においては特に、ASRによる性能低下の程度を評価し、補修・補強の必要性とその範囲に対する判断および対策工法を検討するために調査を行う必要が有る。はじめに、劣化の現状把握を目的に構造物の全体あるいは劣化を代表する箇所において、表面のひび割れ、変色、ゲルなどの変状を調査する。そしてASRであるか否かの診断を行ったあと、損傷度と第三者被害等を考慮する必要が有る。 
 次に詳細調査が必要と判定されたものについて、現在のコンクリートの品質を把握する目的で「コア採取」をおこない、圧縮強度、静弾性係数、残存膨張量試験(「JCI-DD2法」「カナダ法」「デンマーク法」)などの試験を行う。鉄筋破断が予測される場合は「はつり調査」も合わせて実施する。そして、調査結果から構造物全体の評価を行い、補修設計に反映させる。と言うのが、一般的な調査である。
 さらに、残存膨張量試験は将来のASRの進行の可能性を検討する手段の一つであり、補修工法の材料選定では試験結果の活用が有用だ。しかしながら実構造物との対応関係が必ずしも明確ではないこともあるので、過去の点検記録(ひび割れの追跡調査)などと照合し総合的に判断することが重要である。残存膨張量試験の詳しい内容は、別の方に譲る。


ASRの損傷状況

 この、ASRの調査費用としては、対象橋梁の規模、河川条件等によって大きく変わるが、一次調査では、超概略で1橋あたり約10万円、橋梁点検車を使用する場合は約30万円かかる。また二次調査では、コンクリート試験の種類によって大きく変わるが、1橋あたり約200万円程度はかかる。(地域や条件により大きく変わる)つまり、詳細な調査を行い、ASRの確認や、今後の残存膨張の可能性を予測するために、1橋あたり、数百万円も余分に必要なわけである。これは、自治体にとっては死活問題だ。たとえば、乱暴だが富山市の管理橋梁約2,200橋のうち、半数がASRの疑いがあるとして、約1,000橋を調査しなければならないとすると、数十億の費用が必要になることになる。実際に疑わしい橋梁は、それよりも多いと感じている。さらに、課題なのが、橋脚の地表部は良いが土中部やフーチング部、橋台の裏側の確認をどうするかである。超概略と言ったが、良く検討時にも詳細な費用を欲しがる方が居るが、無意味である。概略でどのくらいの予算が必要なのか常につかんでおくほうが重要である。


ASRで損傷した橋脚拡大写真/ASRで損傷した橋脚梁部

 これも、乱暴な話であるが、私個人としては、ASRは見ればわかるので、詳細は確認しなくても、対処はできるのではないかと考えている。しかるべきものが、見てASRと判断すれば良いと考えている。ただし、職員には現時点では「詳細調査が必要ならば実施せよ。やりたければやりなさい。」と言っている。経験を積ませ、自分の感覚として身に着けることにより担当者の判断で対処できることになり、構造物の診断レベルを上げたいのである。
 またまた、乱暴かもしれないが、ASRに関しては、現時点で有効な対策が存在しないことが、わかっているので、状況判断で十分であると思われるからである。我々、管理者は研究者ではなく実務家であるということが、大きな理由である。これは、理解できますでしょうか? 「研究と実務」「研究と設計」「実験と実物」などが一緒になっているのが現状かと思います。我々は実務で考えるべきなのですが、研究的な提案に乗ってしまう場合がある。目的がキチント有ればよいのだが、提案している方でさえ、目的を見失っている。悲しいかな、我々は、実務を淡々とこなしていくしかない。研究したければ、別なかたちで相談をする。
 維持管理の世界は、実経験が大切である。多くの物を見て、体験し学習していくのが一番重要である。最近、橋の設計も施行もしたことがない方々が、維持管理の世界に参入してきている。恐ろしいことだと感じている。また、役所の人間も、ここでもそうだが、私の言うことよりも、業者の言うことを信じるようだ。これは、相手がキチントしたプロで手抜きをしないことが前提だと思うのだが。

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