道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ⑰奇妙で可哀そうな道路橋の話 その2

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員 

髙木 千太郎 氏

公開日:2016.09.01

3.当該橋梁の引き継ぎ条件を満足する対策

 現行基準に適合する構造物への改善対策を考えると道路の幅員、上部構造では床版を含めた活荷重(B活荷重)の対策、疲労損傷対策等、下部構造は、土圧等により側方移動への対策、液状化対策及び耐震対策等、落橋防止システムの付加等である。引き継条件には、道路附属物も含まれ、伸縮装置、排水施設、高欄、親柱、照明等多岐に亘った。果たしてどこまでが引き継ぎ条件として妥当であり、過大なものはどれかの判定を本来であれば行うべきところ、異なった組織間での引き継ぎであることから、全ての対応が必要との回答が施設を引き継ぐ側からなされた。


第1期橋の現状と現行基準への対応表(線形条件)

第2期橋の現状と現行基準への対応表(設計条件)

第1期橋の現状と現行基準への対応表(構造等条件)

第2期橋の現状と現行基準への対応表(構造等条件)

 第一に道路構造令における車道、歩道幅員である。当然、当該橋梁建設時には、橋梁及びトンネルへの狭小幅員適用時代であったことから、前後道路との整合をとると幅員が不足となる。詳細は、左側路肩が0.25m、歩道部において、歩道のみの扱いとすれば、0.25m、自転車歩行者道とすれば、1.25mいずれも幅員不足である。そこで、引き継ぎ条件を4案想定、各案は、高機能案、基準対応案、条件緩和案、現状維持案である。いずれにしても上部構造と附属物全てを要望通り改善すると11億8千万~5億8千万の費用が必要となる事が明らかとなった。更に下部構造の耐震対策が必要となる。


上部構造補強案対比表

 下部構造の橋台は、第1期橋及び第2期橋について照査検討を行ったが、液状化による影響以外では一部の基礎でL2地震において降伏する部分もあったが無視する程度であった。このようなことから竪壁、躯体、基礎とも現行基準を満足する結果との判断となった。問題は、運河中の橋脚躯体の耐力不足と、液状化による橋台及び橋脚基礎の耐力不足である。ここで、L2地震動による静的耐震照査をおこなったところ、液状化によって基礎杭自体のせん断強度が許容値内とならず、耐震補強が必要と判断された。過去に河川や運河中の既設基礎の耐震補強事例は少なく、対象工法として増し杭工法、鋼管矢板基礎、深層混合処理工法(CDM)及びIn-Cap工法が選定された。


下部構造側方移動及び耐震照査結果

下部構造主要補強案対比表

 増し杭工法の採用は、液状化層の対策効果は認められ局部的な発生せん断力の低減効果も認められるものの一部においてせん断耐力を越える結果となった。また、鋼管矢板基礎の採用であるが、工法自体は多くの事例があり信頼性は高いが、鋼管矢板基礎の範囲が第1期橋及び第2期橋橋脚を取り囲むことが必要となり、事業費から莫大となる判断された。次に、深層混合処理工法(CDM)による対策である。深層混合処理については、液状化層における発生モーメント、せん断力とも改良効果は見られるが、下層のせん断力耐力向上が別途必要となる結果となった。最後に In-Cap 工法(下図)である。
 当該工法は、既設フーチング周囲に鋼管矢板を打設し、その内部を深層混合処理で改良する工法である。しかし、改良する地盤は、地震時の受働土圧が期待できないこと、杭頭部を補強する工法であることから地震時慣性力が増加すること、補強した下部層も軟弱な粘土層であり受働土圧が期待できず杭の損傷の恐れがあることなどが問題点と残った。しかし、何故か大型基礎の実績もない、信頼性も良いとは言えないIn-Cap 工法が最も好ましい対策として選定された。このような状況となって、私の基に当該橋の照査結果等の確認資料が持ち込まれた。当該橋梁は、そもそも不幸の星の基に産まれたような可哀想な橋梁である。私もまた再び記憶を紐解くような橋梁に出会うとは思っていなかった。(これは、当時これまでの経緯を他の人には全く話していないことから、引き継ぎを依頼した側も引き継ぎ条件を出した側も私が以前当該橋梁に関わっていたとは、全く分からずに事が進んだ。)
 ここで、当該橋梁を引き継ぐ側が架け替えを条件に進めてこなかったと褒めてあげたい、このまま進めても良いと思ったほどである。しかし、前述の基礎補強案の説明で判断は大きく変わり、何時もの話であるが、不可解な気持ちと怒りが込み上げてきた。その理由は、In-Cap 工法選定の理由である(断わっておくが、In-Cap工法そのものを否定しているわけではない)。当該橋梁の引き継ぎに際し、引き継ぎ条件を検討する委託設計期間は、何と4年に及びそれも各年で委託設計を外注しているのである。累積委託金額も大きいが、委託成果が正当ではないのである。その理由は、In-Cap 工法を採用したいがために種々な検討を行ったように見せかけているのである。出された引き継ぎを目的とする委託設計を当初から確認すると、初期の段階で必要もない地盤解析や実験が行われ、何とかIn-Cap 工法の採用へと私的に導いているのである。信頼性と実績のある鋼管矢板井筒基礎を行う範囲が大きく不利との比較結果で示されていたが、In-Cap 工法も同様に鋼管矢板を使用すること、杭頭部が非常に重たくなり支持地盤から吐出した状態では、杭本体が地震時せん断力で耐力がないこと、それよりもこのような大型の下部構造では全く実績や検討事例も無いことなどから結論は明らかである。私が本工法の採用取り止めを指示したのは言うまでもない。

4.並列して架かる可哀想な橋梁の今

 私が止めたIn-Cap工法による補強は、信頼と実績多い鋼管矢板井筒工法で最終検討となったが、それに対し種々な方面から横槍が入り再検討となった。その結果、最終的には、約46億円ともなる莫大な架け替え事業費となっても架け替え工法が最適であるとの判断がなされた。数年にも及ぶ引き継ぎ設計を行った理由、厳しい引き継ぎ条件を出した組織の問題点、種々な補強対策を訳も分からず行ってきた事実に対する見直しもなく、引き継ぎ依頼組織が架け替え事業費を準備し工事は将来管理者、最適な引き継ぎ案は、最も担当技術者(行政側)への負担が少ない無駄とも思える既設橋架け替え案で合意に至った。
 架け替えの条件は、既存下部工の基礎を撤去すると地盤が緩むため、既存基礎の撤去は行わず、架け替え橋下部工位置は、航路と干渉することの無いように橋台側へ移動させる。構造形式は、現橋梁と同様な鋼橋とし、車道及び歩道の幅員は、現行規定を満足する26.0㍍(車道:10.5㍍、歩道:2.5㍍)以上とすることとなった。


第1期橋及び第2期橋の架け替え概算事業費表

 しかし、ここに示した可哀想で可笑しな道路橋は、結局、計画当初の検討が不足していたことから種々な部分に変状が発生、それを見かねて建設した組織引き継ぎを将来管理者に依頼、結果的に将来管理者の判断で工事費用が最も高い架け替え工法に決定された。まだまだ余命があるのに命を絶ち、新たな構造物を造ろうという安易な技術者の姿勢には組織の金余り現象の最たる事例と言わざるを得ない。

 関係者の間でキャッチボールされた可哀想な道路橋の現在は、未だ架け替え工事に手も付けられずに、言い方は悪いが放置されたままである。風の噂では、直近に工事に着手するとのことであるが、読者の皆さんはどう思います?(次回は10月1日に掲載予定です)

髙木千太郎氏報文シリーズ
⑯「奇妙で可愛そうな道路橋の話 その1」
⑮「アセットマネジメント、予防保全型管理について」
⑭ 「災害復旧と仮橋の位置」
⑬「有事に機能する真の技術者集団とは―現場で得る知識は100の技術書を読むより有益―」
⑫「モニタリングの現状と課題―持続力と議論が必要―」
⑪「想像力と博打根性」
⑩「橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願い」
⑨「私見 勝鬨橋再跳開の可能性とその効果」
⑧点検はこれからが勝負
⑦PC桁の欠け落ち損傷
⑥溶接構造の品質保証について
⑤橋と景観
④独創のコツ、なぜ研修制度は機能しないのか
③「道路メンテナンス会議」は本当に機能し始めたのか
②「道路橋の変状と架け替え」について大きな疑問
-分かってますか?何が問題なのか-①

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