道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑭ 「災害復旧と仮橋の位置」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2016.06.01

3.自然災害と技術者

 地震、台風、集中豪雨、火山噴火など自然災害は、何時発生するか分からない。しかし、何時起こってもそれに対応できるように日ごろからの備えが大切である。多くの研究者が自然災害を含めてリスクマネジメントの有効性を説いている。私もリスクマネジメントは必要であると思ってはいるが、それよりも自然災害による復旧活動に関連する技術者に重要なことは、日ごろからの備えである。一度災害が発生すると、全てが待ったなしである。先に示した災害復旧における仮橋設置位置の選択判断ポイントも当然であるが、幅広い知識とそれらを日々学ぼうとする前向きな意欲が無ければ災害時に機能する技術者になる事は出来ない。自分も兵庫県南部地震で得た経験は、より高いレベルの技術者を目指すステップであったし、前回、今回で述べた被災時の自己体験は技術者として必要不可欠な判断力と決断力を磨くステップとなっている。兵庫県南部地震、東日本大震災、熊本地震と巨大地震が何度も襲う国内の技術者はこらから発災が予測されている巨大地震に適切に対応できているのであろうか?住民や利用者に安全・安心を提供するとの発言は当然であるが、種々な被災で得た教訓をその後に生かせず、川島先生が警告した「技術の進歩を阻害するガン」状態となっているのではないだろうか?

 2004年(平成16年)新潟中越地震発災後に、東京都を含め、関東地方、東北各県から新潟県において支援活動を行い、悲惨な状況となった『新潟県の山村・山古志村』を含め種々な災害復旧事業を行った。私もその時に地方自治体支援活動として災害復旧事業を現地派遣で援助した。当時、長岡市の施設で新潟県や市町村の多くの職員と夜まで議論し、一つの技術者の輪が出来たと思っている。そこで得た経験やつながりがその後の多くの自然災害発災時に機能し、他の地方自治体でも困っていれば助けようとの強い思いが多くの行政技術者に育っているのは事実である。今回の熊本地震も同様である。社会基盤施設を建設し、維持管理を行っているのは誰であるのかをもう一度深く考える時が今ではないのか?問題が起こったら学識経験者を中心とした委員会で議論すれば、学識経験者に任せれば、・・・確かに意見を聞くことは必要とは思うが、『いざ鎌倉』状態の時に種々な行政の立場を理解し、判断できる総合力を持った学識経験者がこの世の中にどれほどいるのか考えるべきと思うが。

 最後に、今回紹介した三宅島の火山噴火、全島民避難、火山有毒ガスの中での復旧活動時に大きな復興への礎となったのは、先に示した立根の仮橋設置工事であった。東京・竹芝ふ頭から積み込まれた仮橋用の鋼材を海上で組み立て、トラッククレーンによる組み立て作業を有毒ガスが流れでる風向きを計測しながら行ったことは、多くの島民や作業を行っている作業員に光を灯したことになった。そのためか、復旧が終わった今日も周回道路の外側にその記念として写真-8でお分かりのように仮橋が残されている。これは関係者として喜びでもあり、災害復旧時に機能する技術者として日々励むその後の強い力となっていると感じているのは私だけであろうか。

写真-8 記念となった仮橋と災害復旧橋梁(立根)

 自然災害が起こるたびに被災地から人が離れ大都市に移り住み、多くの人々が故郷に戻らない現実を再度考え、我々技術者が一体となって有効な手段を講じない限り過疎は果てしなく広がる。それには、技術者の多くが自ら考え、他に頼らない機能する有能な技術者となり、地方自治体の技術職員の強力な輪を築くことが重要であると考えるが如何であろうか?地元の名士・地方自治体職員との評価が住民から自然にあがり、定着し、愛する地元を守る貴重な人びととの評判を是非聞きたいものである。

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