道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑭ 「災害復旧と仮橋の位置」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2016.06.01

2.道路災害箇所の望ましい仮橋設置位置

 前回私が設計した緊急避難の仮橋の話をしたが、今回は、自然災害、それも火山噴火に伴って発生した泥流によって流失した道路を復旧した経験を基に、斜面崩壊した多く箇所で採用される仮橋設置の位置決定が、その後の復旧に大きな影響となることについて解説することとする。

2.1 被災直後に行った判断ミスで最適な復旧が困難となった事例  前回お話しした時は、市街地での災害復旧で緊急回避構造物を自らの手で設計した話をした。今回の話は、同時期に起こった道路災において、珍しく2か所に橋梁を復旧構造として採用した事例の一つを紹介する。一つは、私のその後の災害復旧業務の基礎ともなった今回紹介する仮橋設置、本橋の位置決定であり、もう一つは市が管理している木橋の流失を簡易鋼橋によって災害復旧した橋梁災である。いずれの災害復旧経験もその後の自分に大きな知識を得る経験となったと共に技術者として必要な判断力と決断力を養った貴重な業務であった。  第一の話題は、沢を流れる土砂によって道ごと流失した箇所の災害復旧である。  当時の私は、前回も述べたが、そもそも災害復旧とはどのような事かも全く分からない素人であった。東京都の西多摩にある奥多摩有料道路(当時は未だ有料道路として料金を取っていた現在の奥多摩周遊道路)が台風に伴う豪雨によってあちこちで道路が流失、どのように復旧するかを短期間で判断し、如何に好ましい災害復旧査定を行うかが業務の到達点であった。ここで、有料道路の復旧に災害復旧事業が適用できるのか疑問をお持ちの専門家がいると思われるので説明すると、当時の奥多摩有料道路は、夜間は一般道路として開放し、奥多摩湖畔住民の生活道路として使用している実績があるから国の災害復旧補助の適用が可能となったのである。  当然大きな被災箇所は、災害復旧を得意とする先輩諸氏が行い、私には、被災範囲も比較的中規模である道上斜面の崩壊による道路被災の復旧が当てられた。災害現場を見て感じたことは、まずは、道路がどの程度の期間で復旧できるか(崩落した道路を従前と同様な盛土構造によって短時間で機能回復)であった。災害復旧のベテラン曰く、「災害復旧は、原形復旧が原則。原則を逸脱すると災害査定時に苦労するぞ」との言葉が印象深い。しかし、被災状況から考えると道上の斜面を切り取り、法枠やグランドアンカー等の斜面対策で復旧するには被害斜面の形状が悪く、復旧するのにかなりの高さまで切土が必要となることから、斜面対策で復旧することは困難な状況と判断した。そこで、住民の生活道路としての機能確保のための仮橋設置を応急復旧対策として第一に行うことになった。  当時の私は、本復旧道路の線形などは全く頭になく、豪雨による土砂崩壊による仮橋流失を避けた位置に当然のごとく仮橋位置を選定、業者に指示した。これが大きな失敗で、後に大きな禍根を残すことになった。それは何故かである。道路の線形を考えることを得意とする方はお分かりと思うが、図-2に示すように仮橋を航空写真(被災箇所を復旧した地点)の赤線の箇所に決定し、指示したことである。原形復旧ばかりが頭の中を占め、災害復旧事業の適用には原形復旧だけでなく、原形復旧不適当や原形復旧困難と言う選択があることを理解しないまま仮橋設置箇所の選定を行ってしまったことである。この仮橋選定時の位置決定判断が、その後大きな損失となることを思い知ったのは事実である。

図-2 斜面崩壊箇所の復旧(航空写真)

 災害復旧を行うには、被災した箇所において『公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法』の摘要ができることと、災害復旧被災原因を明らかすることが第一である。次に、再度同様な被災を受けることが無いように復旧することが重要で、施設がどのような構造物でどこに設置するかを決定した後に、災害査定に必要な関連資料を創ることになる。災害査定資料を作成する段階で、自分が大きな失敗をしたことに気付いた。仮橋を架設した箇所が被災箇所の前後道路のつながりから最も好ましい位置(災害復旧事業適用の最適線形)で、仮橋の位置に本復旧の橋梁位置を選択することが最適であることは明らかである。しかし、慌てて仮橋位置を誤った箇所を選択し、設置したために、被災した道路(急峻な斜面に無理やり造った道路であるので線形が好ましくない箇所が多い)から僅かしか離れることしか出来ない事態となったことである。国への事前説明、被災地での災害査定、最後の朱入れ作業が進むごとに「失敗した。もう少し、種々な事を幅広く見られる余裕が自分には不足している。」と何度も後悔を繰り返す内に災害査定も終わり、詳細設計、工事の発注そして会計検査を経て、現在の写真-1に示す『市道橋』が完成、供用開始した訳である。

写真-1 斜面崩壊箇所・災害復旧で復旧した市道橋

 当時の先輩方は、「髙木君、良かったね。道路を橋で復旧することは今まで無かったし、大きな足跡を残せたね」と言って褒めてはくれたが、自分の中では「失敗した。チャンスを物にできなかった。」後悔の念が一杯であった。余談ではあるが、災害査定、朱入れ作業を経て災害復旧事業費が確定した後に、建設省(現国土交通省)の査定官と大蔵省(現財務省)の立会官(りっかいかんと呼ぶ、知らないでたちあいかんと呼ぶと激怒されるから要注意である)に仮橋設置位置と復旧について聞いたところ、「髙木さんが言うとおりですが、だからと言って図の青色線の地点まで本橋を離すことはまあ限り無く無理です。災害復旧として妥当なのは、仮橋が設置してある箇所でしょう。まあ、黄色線も可能な場合もありますが、これにはかなりの説明作業が伴うでしょう」とのことであった。災害査定のプロになるにはかなりの経験と関連する知識が必要と感じた瞬間であった。  次に、その経験を活かした三宅島での災害復旧における仮橋設置位置決定と道路線形改良事業について述べることとする。

2.2 火山噴火による被災と災害復旧  紹介するのは、2002年(平成12年)6月26日に、三宅島・雄山付近の火山活動(左写真-2) が活発化したことから三宅島緊急火山情報が気象庁より発表され、同年9月2日に全島民避難した後に行った災害復旧事業の話である。  三宅島は、東京から南南西約180kmの海上に浮かぶ直径約8㎞のほぼ円形をした伊豆諸島のなかでは3番目に大きい島である。三宅島は、海底部分も含めると直径20~25km程度のやや南北に伸びた円錐形の玄武岩質海底火山が成長し、山頂部が海上に出た島であり、海岸には急な崖が少ないこと、波の浸食をあまり受けていない若い火山島である。現在の三宅島の骨格を形成したのは、約3,000年前のことと予測され、標高1,000m級の成層火山が、割れ目噴火で溶岩を大量に噴出し、直後に雄山の山頂部で大規模の陥没が発生し、直径3.5kmの外輪山(桑木平カルデラ)が形成されたようである。三宅島は、2002年の噴火及びその後に発生した火山泥流によって島の多くの道路が被災したが、私の記憶に残る異様な作業環境、二度と経験することのない有毒火山ガスとの戦いであった。  さて、仮橋設置の話に戻すことにしよう。図-3にも示すように三宅島を周回する東京都が管理する道路としては、三宅環状線(第212号)のほか2路線があり、島のメインとなるのは海岸沿いの延長約32.88kmの周回道路である。周回道路の被災箇所は,軽微な箇所を含めると20数箇所にも及んだが、火山の噴火によって被災したのは、数箇所であり、ほとんどは、泥流による被災であった。雄山の噴火によって、三宅島の山頂付近には1mを越える火山灰が積もったことから、雨が降るたびに火山灰と水が混じり合って流下、堆積したスコリアを巻き込み、大量の土石流となって山麓へと移動した。移動する土石流は、渓流の底や側面を大規模にガリ侵食し、斜度が10°を下回ると堆積し始め、最終的に海へ流下するか、斜度が2°を下回る平地においで、扇状的に広がり堆積した。

図-3 三宅島道路災害復旧箇所図

 今回仮橋に関する話題提供は、三宅島の南端に位置する立根である。

写真-3 立根泥流による被災状況(当初)/写真-4 立根泥流による被災状況(道路流失) 写真-5 立根泥流による被災状況

 立根は、被災状況が噴火当時は、写真-3にも示すように道路上に一部スコリアの泥流跡はあるものの被災はほとんどなかった。しかし、日を重ねるごとに道路は道上から流れ出る土石流によって抉り取られ、最終的には道路が流出し、写真-4でも明らかなように擁壁の基礎もあらわになる状況となった。ここで、道路災害の復旧ポイントである仮橋の設置位置である。先の事例で紹介した奥多摩の沢に位置する道路と異なって図-4で分かるように前後道路の中心線から見通すと線形上からは理想的な位置となるのは土石流が流れでる位置から10m程度離れた位置が望ましい。

図-4 三宅島・立根災害復旧位置図

 奥多摩で仮橋の設置位置を勉強している私は、道路から20m程度離れた位置に仮橋を設置し、本橋をその内側とする案で災害復旧イメージを創り、縦横断線形及び構造形式の選定作業を行った。当然、雄山から流れ出る土石流の流量を算定したが、明らかとなったのは理想的な橋梁設置位置に土石流の落下位置が重なる可能性が高いことであった。そこで、原形復旧困難であるとの資料の他に、土石流を回避する海側に大きく線形を振った案とジャンプするように落下する土石流を抑える副ダムを計画した退避案を作成、それによって土石流を副ダムで抑え、望ましいい線形位置に本橋を設置する考えで災害復旧案を作成した。

写真-6 立根・仮橋設置状況 / 写真-7 立根・副ダム築造状況

 当然、その後行われた国の災害査定で立会官の抵抗はあったものの、本案が認められたのは言うまでもない。ここでも発揮するのは、技術者の想像力と決断力である。今回の熊本地震では、同様な事例があるかは詳細が分からないので不明である。しかし、斜面崩壊や地震動による橋梁の損傷はかなりの数におよぶとの情報は種々な方面から入ってくる。災害復旧に関係する技術者の多くに期待するのは、原形復旧原則論による災害復旧案の選択、判断だけでなく、災害復旧事業の適用限界や関連事業獲得にチャレンジする勇気を持って作業を行ったもらいたいことにある。

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