道路構造物ジャーナルNET

土木研究所集中連載①

道路橋桁端部の腐食対策に向けて -既設コンクリート道路橋の桁端部用排水装置の開発-

国立研究開発法人土木研究所
構造物メンテナンス研究センター(CAESAR) 
主任研究員

田中 良樹

公開日:2016.06.16

4.試作と実橋での試験施工

4.1実橋での排水装置の試験的な設置
 共同研究では、各社それぞれ得意な材料を用いて、写真-3に示す排水装置を検討、試作を行うとともに、コンクリート橋の狭くかつ発泡スチロールで覆われた遊間への効率的な設置方法についてもさまざまな工夫を重ねている。これまで、写真-4~7のとおり、実際の道路橋において試験的な設置を行い、効果確認のための経過観察と装置の修正を適宜加えるなど、実用化に向けた検討を続けている。


写真-3 桁端部用排水装置(2社それぞれの試作)、左がポリエチレン製、右がゴム製

写真-4 ゴム製排水装置の施工状況
真空引きで幅を狭くしたゴム製排水装置を遊間に引き込んだところ


写真-5 100mm遊間用のゴム製排水装置の設置状況
遊間が大きいほど、排水装置の断面が大きいため、設置時のみ、鋼製治具で支えて、樋の高さ、角度を調整した


写真-6(左写真) ポリエチレン製排水装置の施工状況
ポリエチレン製排水装置を遊間に引き込んで、幅を狭くする治具を取り外したところ
写真-7(右写真) ポリエチレン製排水装置の止水材塗布状況

4.2 排水装置の効果確認
 狭い遊間においても、施工時の品質管理、検査、部分補修が適切に行えることが望まれる。間接的には、排水装置設置後の漏水状況の確認や漏水のあった箇所の塩分調査によってある程度の検査が可能な場合がある。ただし、漏水状況の確認の際、前述の橋台背面からの漏水など、他の経路からの水と区別する必要がある。
 写真-8~9に、ポリエチレン製排水装置及びゴム製排水装置の効果確認の例として、設置前後の漏水状況の変化を示す。これらの事例では、排水装置の設置によって、降雨後の漏水が顕著に減少していた。これらの試験施工の現場を含め、引き続きモニタリングを実施することとしている。


写真-8 ポリエチレン製排水装置設置後の経過観察
いずれも撮影の前日午後から明け方にかけて雨


写真-9 ゴム製排水装置設置後の経過観察
排水装置設置から約1年後、観察前の夜に雨(写真-1が右岸側の排水装置設置前の状況)

4.3 開発の現状
 現在、ポリエチレン製排水装置、ゴム製排水装置ともに、製品としての基本構成を整備するとともに、適用の範囲、施工手順、及び材料選定や施工における留意点をとりまとめた施工要領書の作成など、製品化に向けた作業を鋭意進めている。

5.おわりに
 本文では、桁端部の腐食環境改善が喫緊の課題であり、その改善のための一つの具体策として、コンクリート道路橋の狭い遊間に設置可能な桁端部用排水装置について述べた。他機関においても、コンクリート道路橋の腐食環境改善に関するさまざまな取り組みが報告されている5)。これらの事例も踏まえつつ、桁端部の遊間の現状把握、課題の抽出、関係機関との意見交換を行いながら、腐食環境改善の具体策を提案、普及していくことが重要と考えている。
 凍結防止剤の使用量が相対的に多い路線では、コンクリート橋桁端部の塩害が既に顕在化している。しかし、この課題は、凍結防止剤を使用している管理者(沖縄県を除く国内の大半の道路管理者)にとって共通するものであり、道路橋桁端部の塩害に対する予防保全に早期に取り組む必要がある。

謝 辞
試験施工にご協力いただいている道路管理者の方々をはじめ、調査にご協力いただいた関係各位に深く感謝いたします。

参考文献
1) 村越潤、田中良樹、藤田育男、坂根泰、田中健司、植田健介:既設コンクリート道路橋桁端部の腐食環境改善への取り組み、土木技術資料、55-11、pp.29-34、2013.11.
2) 西川和廣、河野広隆ら:コンクリート橋のライフサイクルコストに関する調査研究―コンクリート橋の損傷状況と維持管理費の実態調査―、土木研究所資料第3811号、2001.3.
3) 例えば、長谷俊彦、野島昭二、竃本武弘:これからの維持管理について-高速道路のPC橋における保全技術-、プレストレストコンクリート、51-2、pp.93~99、2009.
4) 田中良樹、村越潤、石田雅博、吉田英二:道路橋桁端部の腐食環境調査~橋台、橋脚の調査事例~、土木技術資料、57-6、pp.36-41、2015.6.
5) 鈴木裕二、東田典雅、清水尚志:既設橋の桁端漏水対策、橋梁と基礎、pp. 17~21、2012.11.

【土木研究所集中連載】
③既設橋の液状化被害を防ぐための橋梁基礎の耐震性能評価方法と耐震対策技術の開発
②高出力X線によるコンクリート内部の可視化技術の開発

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