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⑤橋梁保全対策室を新設

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市 
建設技術管理監 

植野 芳彦

公開日:2016.04.15

4.標準化

 標準化は新技術や景観設計からすると、対極の位置にあると思われる肩が多い。私は、これまでの仕事人生の中で、多くの時間を「標準化」に掛けてきた。標準化というと、皆さん馬鹿にするところがある。特にコンサルの皆さんはそういう意見が多い。しかし、これは標準化の本質を知らないからである。標準設計を作成するためには、膨大な試設計(工種によっては数万ケース)を行い検討していくわけであるが、まずそれを理解できていない。確かに、本州四国連絡橋などの高級な橋においては標準化はなじまないが、其の中でも付属物やディテールに関しては標準化されている。諸外国においても、一般的な橋は究極の標準化がなされている。
 維持管理において考えると、中小橋りょうにおいては、かつてもっと徹底的に標準化を行っていただいていれば、保全のためのコストが今後節減できただろうにと思う。点検や補修の標準化、ロボット化ももっと楽だったはずである。


維持管理の時代こそ標準設計が必要(写真はイメージです)

 標準設計は示方書を補完する目的もあったが、おそらく、それを理解できている方は少ないと思う。各社の設計のソフトも標準設計を参考にしていた。そのために「標準設計の手引き」というものも作った。失礼だが、地方のコンサルではこれらが無ければ、橋の設計は理解できないであろうし、役所も同様である。しかし、ある時点で否定された。これは、国策としても大きな間違いであったのではないかと、今でも考えている。
 維持管理の時代こそ標準設計が必要であったのだ。
 日本人特に技術者は、妙な職人気質が残っていて、標準化を嫌う傾向が強い。「自分だけの物、技」と言うことにこだわるのだろう。しかし、国家規模で考えれば、標準化は重要な思考である。標準化による省力化、効率化は計り知れなく、コスト縮減にもなる。合理的な思考であり、これをないがしろにする物は戦いに負ける。維持管理の戦いに勝っていくためには、必要な思考法なのだが、先人はやってくれなかった。できなかった。だから、今後は考えていかねばならない。戦略無き戦いを、やるとどうなるかは、さまざまな失敗例が示してくれている。いわば、標準化は戦略とまでは言わないが、形作る戦術の一つなのである。

5.点検評価の平準化

 最近、ある会合で先生方から、「点検の評価にばらつきがあり、適正な判断ができない」と言うようなご意見があった。そして、各コンサル等の評価結果が同じようになるように、教育等の必要が有るとのことであった。これは、意外に困難な問題だと考えている。当市でも、点検業者間の評価の平準化を図るために、複数業社合同の打合せを実施したり、お互いにその評価を議論させたりして入るが、根本の問題がある。
 近年、地方においては、建設関連事業が減少しており、新規案件がほとんど無い。このような状況から、当面、維持管理、点検で食っていこうと考えるコンサルがほとんどである。これまで、あまり、橋を設計したことも無く、しかも製作・施工したことも無いコンサルタントに、点検をやらせ評価をさせようとしても、そもそも、圧倒的に其れまで見てきた量も経験も少ない。そのようなところに点検をやらせ、キチントした評価をさせようと言うのが無理である。とはいえ、点検には膨大な人員が必要である。点検は点検で事実を見てもらうようにすればよいのではないだろうか。その後は、わかる方が評価する必要が有る。前にも言ったように、
 わかったふり、やったふりは点検では禁物である。

6.非破壊検査

 鉄筋探査や空洞調査等、非破壊検査技術を点検後の「詳細調査」の手法として活用する機会が増えてきた。
 まず、コンサルさんはこの辺のお勉強が足りない。平気で違うことを言う。非破壊検査会社にも籍を置いたことのある、私にはわかってしまう。なんで、そう言うのか? わからないと言えばよい。(調べてから来い)
 今後はますます、非破壊検査手法を活用する機会は増えるだろう。これまで、非破壊検査会社はインフラの維持管理部門にあまり興味が無かったようである。しかし、先進的なところは数年前から、大手も最近興味を持ち出している。コンサルにやってもらうか?非破壊検査会社にやってもらうか?今後検討する必要が有る。
 「わかっている」と言うのは、細かいことを覚えているのとは違う。利用方法やどういうことに活用できるか考えられることも重要である。

7.役に立たない点検と補修

 これまで見てきて、どうも、「点検」の意味がわかっていないようだ。点検の目的をしっかり理解して点検をしないと、ただやればよいという状況になる。いわゆる手抜き状態である。一般的に「資格」を重視しているが、確かに無いよりは有ったほうが良い。しかし、いわゆるペーパードライバー的有資格者、意識の無い資格者(資格を持っていれば良い)が点検を行うと問題が起こる。わが国においては、現在やたら資格の数が多い。これは、わが国はどうも「資格」というものにこだわり、実体をないがしろにする悪習があるからである。官も民も勘違いしてもらっては困る。
 「点検」とは、現状で何が問題か確かめるために行う物である。其の事象が、緊急に手を打たなければならないのか?しばらくは観察が必要なのか?放置しても問題ないのか?さらに、原因は何なのか?詳細調査の必要が有るのか?しなくてもよいのか?を見極めたいから実施するのである。どうも、目的も考えずにやっているとしか思えない。「点検」は維持管理の第一歩であり、そこで終わるのではない。その後が重要なのだ。
 点検後の点検、補修後の点検にも重点を置くべきである。


点検後の点検、補修後の点検にも重点を置くべきである

 また、本来は、役所でやるべきなのだが、諸般の事情で委託をしている。委託先に、完璧を求めても無理である、と言うことも念頭において実施すべきである。委託先が、どれだけ橋を理解しているのか?「見ました」「マニュアルどおりやりました」と言うのが言い訳にならないようにお願いしたい。
 さらに、補修はやったものの、何のためにやったのか?理解に苦しむ物がある。担当者も理解していない。「業者から提案があったから」という。明確な補修計画に基づき実施すべきである。何のためにどういう補修を実施したのかくらいは、残すべきであり、ただ、何かして置けばよいと言うのは最悪である。後の、補修補強の際に、邪魔になってしまう物が付けられていたりする。耐震補強などはその良い例である。よくよく、先々を考えて、維持管理の視点で検討する必要がある。いずれにしても、官も民も維持管理に関する勉強が必要である。付け焼刃的な対応はもってのほか。生兵法は大怪我の元であることを肝に銘ずるべきである。官も民も、維持管理の本質を考えるべきである。(次回は5月16日に掲載予定です)

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①魅力ある提案が欲しい

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