道路構造物ジャーナルNET

⑤橋梁保全対策室を新設

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市 
建設技術管理監 

植野 芳彦 氏

公開日:2016.04.15

 民間と行政の双方を経験し、何が見えるか?書いてほしいとの話があった。執筆を引き受けたのは良いが全く書く内容に困った。しかし、これから大きく変化する、社会情勢の中で特に、何が今問題なのか?我々は何をするべきなのかを考える一助になればと思い書くことにする。技術的内容よりも、一般論に近いものとなる。書くに当たっては、批判も罵声も大いに結構である。さまざまな考えの方が居て当然であり、私の考えが間違っているかもしれない。大いに批判していただきたい。今回は、前年度を振り返って、今後を考える。

1.新組織発足

 これまで、橋梁の維持管理に関し、実際に見てきた結果を考慮し、新組織を発足させる。「橋梁保全対策室」(右写真)である。この部署には、室長に課長クラスを配置し、「計画係」4名と「保全係」4名の2つの係りで、室長以下9人を配置する。(私は建設部全体を見ることになっているので戦力にはカウントしない)「保全係」は、従来同様、点検や補修工事の実際の発注等を行う。「計画係」は維持管理・保全のための計画を中心に行うこととなる。
 2年間、富山市の維持管理の実態を見てきた。自治体の実態と課題も見えてきたので、新たな対応策を考えたわけである。皆さん「橋梁マネジメント・サイクルを回す」と、おっしゃるがどういうことを言っているのか?わからない。マネジメント・サイクル?橋梁の維持管理は品質は確かに必要だがISOをやるわけではない。個々の橋梁に関しては、当てはまるかもしれないが、大局的に考えると違うのではないか?でも、皆さんそう言っている。
 維持管理に必要なのは、マネジメント・サイクルではなくて、「マネジメント的発想」だと考える。そして、個々の橋梁に関してはマネジメント・サイクルを考えるべきであるが、そもそもこれも怪しい。
 マネジメント的発想とは、自分たちの管理していく橋梁に関して、与えられた財源、人員、装備で対処していくために、如何にしていくかと言うことを考えることである。我々日本人は、昔から財源と装備を軽んじてきた。これらに関しては元々裕福ではないので、何とかしろ。どうすればよいのか?結局、人でカバーということになり、それも思うようにいないので、精神力で・・・と言うことになりかねない。負けの思考である。できるだけ財源を確保し、装備を整え、人を配置するこれが理想である。しかし、なかなか、満足のいく物は確保されないので、与えられたもので対処していかなければならない。
 そのためには、これまで以上に、上流からしっかり固めていかなければならないと考えるので「計画係」で、しっかり方針などを考えていくことが重要である。役所では、特に自治体では、これまでの慣習に流され、事が起きてから対処すると言う風潮が強い。しかし、それでは不十分である。というか、今後の厳しい財政状況を乗り越えていけないであろう。
 よく、皆さん「マネジメントが重要だ」と言う。確かに、私も重要だと思う。では「マネジメント」とは何なのか?これの本質を理解している者は少ない。また、マネジメントの経験を持つ者も少ない。
 昨年度から、「(仮称)富山市橋梁マネジメントシステム」の検討を行っている。(これに関しては後で述べる)マネジメントの重要性はまず、考えることである。現在「考える職員」を育成していくことに注力している。指示待ち、言われたがままではマネジメントはできない。限られた期間に、マネジメント思考を定着するには、考える癖をつけることが一番だと考えている。そういう、個人と組織を作りたいと考えている。はたして、これが理解されるかどうか?比較的、若い職員は柔軟で、対応できるが、ある程度の年齢で、これまでそういう経験の無い者は、なかなか難しいのではないだろうか?

2.コスト縮減

 3月の議会で、「NETIS登録技術などの新技術を積極的に活用しコスト縮減ができないか?」という質問が出された。「新技術を導入すればコスト縮減になる。」と言うのは間違った議論で理想論である。私も、これまで本省、国総研とコスト縮減の検討をかなりやってきた。結論はコスト縮減に必要なのは、標準化、自動化等であり、新技術導入は別物だということ。新技術導入でコストが下がるのは、たとえばPPP/PFIなどにおいて、SPC(特別目的会社)が自前の技術を活用しコストを下げるといった特別の事例となる。通常は、コストは上がる。しかし、それ以上に安全性の確保や品質の確保が担保される場合に採用すべきである。 
 元々、コスト縮減の議論は、平成7年に巻き起こった「建設コストの内外価格差」の問題から始まっている。「日本の建設コストはアメリカと比べ3割高い」と言うことからだった。そもそもこれも論点がずれていて、本当は「日本の物価は・・・」だったのだが、新聞の論調がそうなってしまったからで、物価指数や為替レートを評価していくと、さほどの差が無い。さらに耐震設計や地形の違いなどを考慮すると、其の国特有の問題が出てきて、比較が困難な状況になる。
 そもそも、公共事業においては、現行の日本のシステムにおける、各種基準の遵守、積算体系の遵守という、大命題を遵守していくと、それぞれの目的と結果の議論がずれていることが明確になる。
 つまり、
 コスト縮減 ⇒効率化、標準化、自動化、省力化
 新技術採用 ⇒企業努力の評価、評価制度の確立
 となり、これにともない、基準類の簡素化、積算体系の見直しが必要になり、これには膨大な労力と費用がかかることから、なかなか実行されない現実がある。
 たとえば、平成8年度に「鋼橋積算体系改定」を行ったが、これには2年(事前検討を入れるともっと)懸かった。結果、鋼橋の値段は10~15%削減したが、これには結局、
 ①設計思想の改革 ⇒数百ケースにのぼる試設計による分析。その結果を鋼橋設計ガイドライン、設計マニュアルの作成。材料最小から工数最小の思想転換へ、省力化構造により、自動化、ロボット化が可能な構造への転換
 ②積算体系の改定 ⇒材料積み上げ式から、人工を含めた積み上げ式に変更。実態調査や試積算、モデル工事を行った。
 わが国の公共物の設計・施工においては、世界的に見て非常に厳格な「基準体系」と「積算体系」を守らなければならないと言う、大きな縛りがあり、特に新技術導入に当たっては、それらがネックになる。つまり、新技術採用に持っていくには、法律、基準の緩和と積算体系の見直しが必要となる。これをやるには、一自治体では不可能であり会計検査時に指摘される結果になる。そのような時にNETISでは不十分であり、NETIS技術がなかなか採用されない大きな理由となっている。だから、自治体としてやるべきは、本来、新技術の採用ではなく、標準化や効率化なのだ。

3.新技術

 新規技術の公共事業適用に関しては、非常に難しい課題である。前回も書いたが、発注者は、先例のあることを守りたがり、冒険を犯そうという者は、ほとんど居ない(特に自治体は)。逆に先例さえあれば、さほど有効でなくても、いつまでも適用し続ける。ここで問題なのが、コンサルの提案を鵜呑みにして、安易に採用してしまうことである。キチント考え、担保も確保することが必要なのだが、安易に採用し、後で泣きを見ることもある。
 とはいうものの、実は私は新技術が好きである。其れを開発する努力には報いたいと常々考えている(例:上図)。開発された方は富山にどんどん持ってきて欲しい。フィールドは提供する。新規技術に挑戦する創意工夫と努力は、かつて、開発する側も評価する側もやってきた身としては応援したいと考えている。そして、コンサルはもっと、このへんも勉強して欲しい。もっというと、しっかり、時間と労力とお金をかけるべきである。しかし、これも、酷な話ではある。資本規模が小さいコンサルタントには、なかなか無理な話である。したがって、どうしても絵に描いた餅的な話にならざるを得ないのは、自分の経験からもよくわかる。発注者側で制御していくしかないであろう。

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