道路構造物ジャーナルNET

-分かってますか?何が問題なのか- ⑫「モニタリングの現状と課題―持続力と議論が必要―」

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2016.04.01

海外に伝わっていない日本の技術
 オープンな議論で「井の中の蛙」化を避けよ

4.モニタリングシステムの現状と課題
 国内では、先にも示したように人が主として行っている構造物の点検業務をセンサやゲージ等を使って行う、モニタリングの研究が進んでいる。確かに、人が全てを行うには、膨大な技術者が必要であり、現状及び将来を考えると早期に人の補助を担う機器開発は責務である。しかし、これまで何度も示したように日本は、国内での独自の研究に固執しているのではないであろうか?今回は日本にも来たことのある私の知っているミネソタ大学のキャシー教授(大阪FIB会議で基調講演)が関与しているI-35WSaint Anthony Falls Bridgeのモニタリングシステムである。だからこそ肝いりで設置したモニタリングシステムの現状をMinnesota DOTBridge Officeの技術者による発言を基に現状がどのようになっているのかを聞いて、概要をここに示したものである。
 2つの事例を現状の状態や計測結果等を対比して言えることは、鋼橋とコンクリート橋とモニタリングする内容は異なるが同様な取り組みをして同じような課題を抱えているような気がする。一時期注目されたアコースティックエミッションも同様であった。モニタリングシステムを導入する最大の目的は何かを正しく捉えること、計測目的に適するゲージを含む計測機器が何かを種々な事例から選定すること、モニタリング装置を含む導入費用と稼働後のメンテナンス費用や装置の耐久性がどの程度なのかを算出すること、設置したモニタリングシステムについて長期間稼働状況を含めて管理する体制を確保することなど課題は多々ある。国内の多くの技術者や研究者は海外の多くのコンファレンスに参加をするが、果たして今日本が取り組んでいるモニタリングを含む課題をオープンにして議論しているのであろうか?
 中央道・笹子トンネルの事故について述べた時、ボストンのビッグディグで起こった天井板落下事故について、情報活用と情報交換に欠ける国内の技術者を問題視したが、モニタリング等についても同様ではないのか?
 Minnesota DOTBridge Officeの私の知り合いの技術者に東京ゲートブリッジのモニタリングについて説明したところ、「We no longer build many truss bridges because it is a fracture critical structure. The 35w bridge collapse has altered our perspective on truss bridges. They have higher inspection and maintenance funding requirement.」と東京ゲートブリッジの写真を見てまず発言した。国内の最新技術と材料を使って設計、施工した鋼トラス・ボックス構造の道路橋である東京ゲートブリッジと自負している関連情報が米国には届いてないのである。考え方によっては、崩落した旧I-35WSaint Anthony Falls Bridgeも鋼トラス橋であったから彼の発言なのかもしれないが。なぜ東京ゲートブリッジが鋼トラスであるのか、その特徴と採用理由、国内の橋梁設計、施工について説明することが私の義務とも感じた。アメリカが強調するリダンダンシーについてどのような考え方を持っているのか、米国で問題としたリダンダンシーに欠ける構造と考えている2主桁橋を含む省主桁橋梁等の安全性評価について、海外の技術者と本音で話す機会を設け、技術論を戦わせる必要があるのではと思った。日本の技術者が「井の中の蛙」状態とならないように望むものである。

重要施策の継続性と有益性
 失敗であっても議論は必要ではないか

 最後に、文頭で示した“社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委員会”であるが、2015年(平成26年度)当初に委員会を開催し、既設橋へのモニタリングシステム導入選定まで行ったが、その後音沙汰はない。モニタリングの何例かを既設橋で実行性を確認することが重要で、例え失敗であっても委員会を開催し、内容を明らかにして議論すべきと考えるが? 日本の持てる優れた技術を海外へも良いが、国の進める重要な施策の継続性と有益性はどうなっているのか本質を問いたい。

これでよいのか専門技術者シリーズ
⑪「想像力と博打根性」
⑩「橋梁形式選定についての私見と担当技術者への願い」
⑨「私見 勝鬨橋再跳開の可能性とその効果」
⑧点検はこれからが勝負
⑦PC桁の欠け落ち損傷
⑥溶接構造の品質保証について
⑤橋と景観
④独創のコツ、なぜ研修制度は機能しないのか
③「道路メンテナンス会議」は本当に機能し始めたのか
②「道路橋の変状と架け替え」について大きな疑問
-分かってますか?何が問題なのか-①

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