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【オピニオン】特殊高所技術について③

点検に必要な技術とは何か? 特殊高所技術は最後の切り札

一般社団法人特殊高所技術協会
代表理事

和田 聖司

公開日:2015.07.01

橋梁定期点検業務が全体の5割
 省人化技術の発達とともに適用範囲は補修業務へ移行

6.点検→詳細調査→補修
 現在、「特殊高所技術」を用いた業務で、最も需要が多いのは、橋梁定期点検業務であり、これが、全体の約5割を占めている。 定期点検で維持管理のサイクルが終了するわけではないため、これら定期点検レベルの近接目視や打音検査は、いずれ「コンクリートのひび割れについて遠方より抽出が可能な技術」※1や「次世代社会インフラ用ロボット技術・ロボットシステム」※2などの省人化技術によって実施されるようにならなければ、少子高齢化社会の中で、増え続けていく社会インフラを維持管理していくことは困難だろう。
 点検結果の判定によって、詳細調査や補修が実施されることになるが、私は、省人化技術の発達とともに、「特殊高所技術」の適用範囲は詳細調査や、その後の補修業務へと移行していくことになると考えている。 現時点においても、特殊高所技術者の多くは、非破壊試験技術者資格を有しており、定期点検の後の詳細調査を実施することが可能だ。 ぶら下がった状態で、磁粉探傷試験や、渦流探傷試験、超音波探傷試験、浸透探傷検試験、配筋探査、コア採取などが可能であり、ひび割れ低圧注入や、断面修復、簡易的な塗装、あと施工アンカーの施工など、補修や施工についても、足場や重機を使用せずに実施することが可能だ。 もちろん、補修および施工業務においても、調査や点検と同様に、従来技術と比べて、コストの縮減、工期の短縮が可能である。
 ※1:平成25年、国土交通省がNETISテーマ設定技術募集方式(フィールド提供)によって、ひび割れを早期に発見することで予防的な対策を施すことが可能となるという観点から、技術の募集がされた。
 ※2:平成26年、国土交通省がNETISテーマ設定技術募集方式(フィールド提供)によって、近接目視及び、打音検査に替る技術ということで、技術の募集がされた。 中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を契機に、社会インフラの予防保全は、遠望目視など、遠隔技術では不十分であり、近接目視及び、打音検査を実施しなければならないという方向へと方向転換を余儀なくされた。

写真-3 コンクリート剥離箇所撤去作業状況

残念ながら……大きく的を外している改正

7.労働安全衛生規則の一部改正
 つい先日のことだが、厚生労働省は、平成27年6月18日、第91回労働政策審議会安全衛生分科会をが開催した。この中で、労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要領が提出され、全会一致で可決された。
 内容としては、今まで、「ロープアクセス」「ブランコ作業」「法面工」と呼ばれてきた作業(以下、「ロープ高所作業」と記載)における危険の防止に係る規定の新設である。
 現行の労働安全衛生法令においては、高さ2メートル以上の箇所における作業について、作業床を設置する等の措置が義務付けられており、「ロープ高所作業」が認められているのは、ある一定の条件を満たす場合の例外という見解だった。ところが、現実的には、ビルメンテナンスや、法面工事などの業界では、例外とは言えず、それがスタンダードとなっている現状がある。そして、墜落死亡災害が毎年のように発生しているにも関わらず、法的に例外である為、安全性の基準を設けることが出来なかったのだ。
 ガラスクリーニング協会と、厚生労働省はこの矛盾を解消する為に、今回の労働安全衛生規則の一部改正に動きだしたということだ。現行法において、「特殊高所技術」の位置付けについては、前回の連載をご覧いただきたい。 そして、前回の連載でも一部触れたが、この省令案要領を作成するに当たって、私自身も厚生労働省に対しては、かなり多くの助言をさせていただいた。とはいえ、様々な大人達の思惑が交錯した結果、この文章は出来上がっており、「危険の防止」の為の最善であったのか?と聞かれると、「残念ながら大きく的を外している」と言わざるを得ないだろう。
 今回の法令の要は、「ロープを2本使いなさい」ということと、「特別教育の実施」を必須としたことだった。 ロープで作業を行っている者に対して、多くの人が感じる、「ロープが切れたら・・・」という素人的な発想から、対策の検討が行われており、ロープは1本より2本のほうが安全であるという安易な結論に至っている。
 そもそも、現実的には、検討会に事故例として記載されていた27件の墜落死亡災害事例(平成19年~平成24年)を見ても、ロープが切れたことに起因するものは2件だけだった。 この2件のうち、1件は現場に放置されていた誰の物かもわからないロープを使用して作業を行っており、そのロープが切断したという、通常あり得ないようなものだった。事故原因としては、明らかに使用する機材の管理の問題あり、根本的には、教育の問題でもあるだろう。 もう1件は使用していたロープが2本とも切断しており、ロープの保護が徹底されていなかったという「特殊高所技術」では起こりえない初歩的な原因に起因していた。これも明らかに教育の問題であろう。27件の墜落死亡災害事例を技術的に検証すると、対策案が「ロープを2本にすること」となる事例は1件もなかった。 全くといって良いぐらい技術的な検証が行われていないのだ。
 今回の省令案要領の中で、私の助言によって変えることが出来たのは、当協会に加盟する企業と、「ロープ高所作業」とは全く別の次元で、高い安全性を維持していただいている特殊高所技術者の皆様を守る為の一文を追加していただいた。という部分だけだった。 これについては、力不足を痛感している。 今後のロープ等を使用する工法にとって、大きな課題を残すこととなったのは間違いない。 この法令は平成28年1月1日より施行されることになっている。

8.未来のために
 一般社団法人特殊高所技術協会は、昨年の6月に設立された。 協会の設立目的は、以下のようなものだ。「老朽化した既存の社会インフラ及び、今後複雑化する社会インフラの維持管理について、コストの縮減、工期の短縮、安全性の向上が可能となる特殊高所技術を広く普及させることにより、社会インフラの長寿命化に貢献し、よって産業の各分野における特殊高所技術を利用した生産性・経済性の向上、及び高所作業による労働災害の予防と減少に寄与することを目的とする。」  私自身も、協会活動を通じて、安心、安全な社会が継続されるお手伝いが出来れば嬉しいし、それが当協会に加盟する特殊高所技術者の責務でもあると思っている。
 未来の子供達の為に私達は何を残してあげることが出来るのか?それを今から真剣に考える必要があると私は思う。 

 3回にわたって、連載させていただきましたが、このような連載は初めてであったため、お見苦しい点も多々あったかと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

【関連記事】
連載第1回 特殊高所技術――足場や重機を使わず「人の目」に拘り点検
連載第2回 3つの要素からなる特殊高所技術の「安全」

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