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含浸材でも異なる

シラン系およびけい酸塩系表面含浸材の適切な使い方

独立行政法人土木研究所
寒地土木研究所 
耐寒材料チーム 研究員  

遠藤 裕丈

公開日:2014.10.16

吸水を抑制すれば鉄筋も腐食しにくい
シラン系の性能は製品によって異なる

 また、炭酸化の進行抑制効果は環境によって異なり、湿度がさほど高くない環境(環境Aと記す)では効果が得られやすいですが、沿岸など湿度が高い環境(環境Bと記す)では炭酸化深さがやや大きくなる場合があります。炭酸化は、中程度の湿度(約40~60%)の時に最も促進されると言われています。シラン系を塗布すると表層の湿度は下がりますが、中程度の湿度から低湿度に低下して炭酸化が抑制される環境Aに対し、環境Bは高湿度から中程度の湿度に低下することが炭酸化促進の要因とされています。なお、炭酸化深さがやや大きくても、吸水が抑制されていれば鉄筋腐食の抑制効果は継続されることになります[3]。
 これらの効果は、表層が健全な新設部材および打換え部材で期待されます。ひび割れが多く発生している既設部材では、効果を期待するのが難しいです[4]。ひび割れがなくても、既に水や塩分が過剰に供給されている場合も同様です。既設部材への適用を検討する場合は劣化の状態を前もって確認し、ひび割れなど劣化部の補修を済ませておく必要があります。
 なお、シラン系の含浸深さや改質の程度(例えば、含浸域での吸水抑制機能)は製品によって異なりますので、製品の選定にあたっては注意が必要です。例えば北海道開発局の道路設計要領[5]では水セメント比55%のコンクリートで6mm以上含浸し、塩水浸漬試験(63日間)における塩化物イオン浸透深さが3mm以下にとどまる製品を使用するよう定めています。また、コンクリートの品質によっても異なります。表面含浸材は空隙を介して含浸するため、空隙が少ないコンクリート(例えば、低水セメント比)では含浸深さが小さくなる傾向にあります。さらにコンクリートの含水率が高い場合、表面含浸材と水分との縮合反応が早期に発生し、十分含浸しないことがあります。設計、施工の際は留意が必要です。

けい酸塩系は反応型と固化型に大別
撥水性を発揮する複合型の製品も

 けい酸塩系の主成分はけい酸塩アルカリ金属塩です。表面に塗布し、含浸させると空隙内で無機の固化物が生成され、空隙の充填が図られます(ただし、含浸域の全ての空隙が必ず充填されるとは限りません)。けい酸塩系は、改質機構によって反応型と固化型に分類されます。反応型は、コンクリート中の水酸化カルシウムと反応し、C-S-Hゲルが生成されることで充填が図られます。未反応の成分はそのまま残存し、乾燥によって析出しますが、水が供給されると析出物が溶解し、再び反応が起きます。そのため、経年して内部に新たに発生した微細ひび割れの充填効果が期待されます。固化型は、含浸の初期段階は反応型と同様にC-S-Hゲルが生成されますが、残りの成分は乾燥によって難溶性の固化物に変化することで空隙の充填が図られます。反応型の特徴は空隙の充填挙動が長く継続されることにありますが、実務において反応型と固化型を使い分けている事例は少ないのが現状です。空隙を充填する固化物は親水性ですので、シラン系のような撥水機能は発現しませんが、中には撥水性を発揮する成分を混合させた複合型のけい酸塩系もあります[6]。
 図-2は筆者が北海道の日本海沿岸で行った暴露実験の一例で、新設をイメージして作製したコンクリートに表面含浸材を塗布し、暴露2年目の塩化物イオン浸透量を調べたものです。シラン系は速効性が高く、吸水抑制機能を有しているため、無塗布に比べると浸透は大きく抑制されています。一方、けい酸塩系は、無塗布とさほど変わらない分布となっています。先にお話したように空隙を充填する固化物が親水性であることや、空隙の充填が十分進行していない可能性があることが要因と考えられます。

 


    図-2 塩化物イオン量の測定結果の一例

 

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