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1号線から4号線の全25kmを管理 高低差は最大で200m程度あり、凍結防止剤散布地域も

広島高速道路公社 床版の取替や高性能防水を本格化

広島高速道路公社
保全管理部長

米田 泰治

公開日:2023.10.30

鮎信橋など3橋で床版取替

 ――確認した損傷に対する修繕の状況は
 米田 先ず、1号線橋梁の措置状況について説明します。

 Ⅲ判定とした橋梁のコンクリート床版の損傷はかなり進行していたことから、既設のRC床版をより耐久性の高いプレキャストのPC床版へ取り替える措置が必要であると判断しました。このため、先行作業として、施行にあたり必要となる対面通行規制に向けた準備工事を実施した後、昨年度から当公社で初となる床版取替工事に着手しました。先ずは今年度、上り線の鮎信橋1橋(取替面積:800㎡)を、続いて来年度には同じ上り線の法道寺大橋(同917㎡)、須賀谷上橋(同707㎡)の2橋の床版取替工事を実施します。(施工者:極東興和株式会社広島支店)


床版取替え予定の橋梁(3橋) 左から鮎信橋(上り線)、法道寺大橋(上り線)、須賀谷上橋(上り線)

撤去した床版(鮎信橋上り線)(井手迫瑞樹撮影)

新設プレキャスト床版とその架設状況(同)(井手迫瑞樹撮影)

 なお、床版取替工事に伴う交通規制については、上り線側の必要区間を全面通行止めとし、下り線側で昼夜連続の対面通行を行っています。

 1号線橋梁のⅢ判定全5橋のうち、残る法道寺大橋(下り線)と長伝寺大橋(上り線)のコンクリート床版にも漏水や遊離石灰などの損傷が認められています。両橋に対しては、先行的な措置として、路面から床版内部への水浸入防止と床版劣化の進行抑制を目的とした床版上面の部分断面修復工と高性能床版防水工を施工済みです。今後の予定は、恒久的措置として2025年度以降に床版取替を計画しています。
 なお、1号線橋梁のコンクリート床版に対しては、Ⅱ判定の橋梁についても、予防措置として舗装修繕工事に併せた高性能床版防水を推進しています。


1号線鮎信大橋(上り)で行った部分断面修復・高性能床版防水

 ――1号線のその他の橋梁ついても、今後、床版取替を進める予定ですか
 米田 お客様へ安全・安心で持続的な道路サービスを長期にわたって提供するため、今後の定期点検の結果によっては、大規模修繕等による床版取替えを選択することもあります。

 ――高性能床版防水の推進状況についても詳しく教えてください
 米田 供用開始から最も経過年数が長い1号線の馬木から間所の間に存する全25橋のうち、建設時の床版防水が全面施工のものは10橋でした。残り15橋については、未施工若しくは支点を中心に約20mの範囲の部分施工であり、これら床版に散見された損傷については既に説明した通りです。先程申し上げた、予防措置としての高性能床版防水は2016年度から開始し、22年度末時点で全25橋中の20橋が施工済みとなりました。公社全体でみると、96%(115/120橋)の橋梁が全面床版防水設置済みという状況です。
現時点で全面防水未了となっている5橋中、3橋は施工中の床版取替工事で対応し、その他2橋は今後の舗装修繕工事に併せて施行する予定です。
なお、床版防水に際しては、コンクリート床版上面に生じた損傷部に対する部分断面修復措置を確実に実施しています。
また、採用している床版防水の種別ですが、床版取替工事については、新設床版の耐久性能を確実に確保するため、ネクスコグレードⅡに適合する高性能型アスファルトウレタン塗膜系床版防水を採用しています。一方、舗装修繕に併せて施行する既設床版の防水については、ひび割れへの防水材浸透により床版自体に防水機能を与えることが可能な高浸透型複合防水を採用しています。

 ――床版上面の部分断面修復におけるハツリは、どのように行っていますか
 米田 ベビーチッパーを用い、できる限りマイクロクラックが生じないよう配慮しています。

 ――劣化した伸縮装置についてはどのように措置していますか
 米田 劣化した伸縮装置については、基本的に舗装修繕工事に併せて、長期の耐久性や止水性等を考慮した製品に交換しています。なお、桁端部からの漏水を確実に遮断するため二重止水構造としています。


劣化した伸縮装置の措置(部材更新) 左が花見岩下橋上り線、右が花見岩上橋上り線の施工状況

 ――高速3号線の橋梁に対する修繕状況は
 米田 3号線については、一巡目橋梁点検でⅢ判定とした3橋のうち、G6橋(RC床版鈑桁橋)とG14橋(PC中空床版橋)は、コンクリート床版端部水切り部周辺の剥離箇所に対し、断面修復及び剥落防止を実施しました。両橋ともに高架下が工場用地や駐車場として使用されているため、第三者被害防止の観点からⅢ判定以外の橋梁も含め広範囲に対策を施しました。残る1橋のG9橋(鋼床版箱桁橋)は、伸縮装置部材に損傷が生じていたものであり、止水材等の損傷部材を更新しました。


3号線の橋梁修繕状況G6橋(床版端部の剥落防止)

 二巡目点検で新たにⅢ判定とした3橋梁のうち、G10橋(RC床版鋼箱桁橋)とG11橋(RC床版鋼鈑桁橋)については、コンクリート床版損傷部の断面修復および剥落防止を実施しました。また、建設時の床版防水層に機能低下が生じていたため、高性能床版防水工による床版防水を実施しました。残る1橋の宇品出橋(PC中空床版橋)については、PC床版端部の剥離や鉄筋露出箇所の断面修復および剥落防止を実施しました。


G11橋の部分断面修復・高性能床版防水施工状況

 なお、高速3号線Ⅰ期区間の一部鋼製橋脚に、著しい塗装劣化が発生しているため、ポリウレタン樹脂塗装からふっ素樹脂塗装系への塗装塗替えに着手しています。

 ――建設時から全面的に床版防水をしている区間で漏水が出るのは
 米田 主には舗装の劣化に伴う既設防水層の損傷によるものと考えています。その他の要因として、建設時は地覆立ち上がり部の防水層が未設置であったことから、地覆下から床版端部側への浸水も考えられます。このため、再施工となる床版防水においては、防水層を地覆の下端まで立ち上げ、地覆下からの浸水が生じないようにしています。

 ――近年の橋梁補修の施工実績と今年度から来年度にかけての予定は
 米田 先ず、大規模修繕等に関する実績と予定から説明します。
 2020年度は、3号線Ⅰ期区間の1橋での床版補修・防水(施工面積:3,130㎡)です。21年度は、1号線の上り線8橋(延べ施工面積:3,520㎡)と3号線Ⅰ期区間の1橋(施工面積:2,320㎡)での床版補修・防水です。また、1号線では2橋の伸縮装置取替えも実施しました。22年度は、1号線の下り線4橋(延べ施工面積:2,360㎡)と3号線Ⅰ期区間の1橋(施工面積:4,580㎡)での床版補修・防水を実施しました。また、1号線で2橋の伸縮装置取替えを行っています。

 今年度から来年度にかけての予定ですが、前述したとおり、1号線3橋での床版取替を進めます。当該3橋では、床版取替に併せて旧塗装系から重防食塗装系(ふっ素樹脂塗料)への塗替え(延べ面積:7,670㎡)も実施します。(施工者:極東興和株式会社広島支店)また、塗替え塗装に関しては、前述した3号線Ⅰ期区間の鋼製橋脚1基での施工(面積:430㎡、施工者:福徳技研株式会社)を実施します。なお塗替え塗装における既存塗膜の除去については、関係法令に基づき、適切に実施します。

 その他の保全業務として、第三者被害の防止を推進しています。具体的な内容としては、工場用地等の上空を通過している3号線Ⅰ期区間の高架橋に対してコンクリート片剥落防止用ネットを設置しています。2021年に2橋(JKネット(ナイロン製)、延べ施工面積:4,660㎡)、22~23年度にかけて3橋(同ネット、延べ施工面積:13,240㎡)の施工を行っています。(施工者:株式会社伏光組)


コンクリート片剥落防止工施工例(3号線G7橋およびG10橋)

惣野谷橋 PC桁端部の剥離、シース沿いの漏水などの損傷が見られる
 上縁定着部の損傷も

 ――これまで、鈑桁RC床版の補修や取替を中心にお話いただきましたが、PC橋について損傷はありませんか
 米田 2011年度に実施した橋梁定期点検で、高速1号線の複数PC橋(ポステン単純T桁橋)について、桁端部、間詰め部及び端横桁部へ、ひび割れ、うき、漏水等の損傷が確認されました。また、局部的な損傷ですが、惣野谷(そうのたに)橋(上り線、65m、2径間単純T桁橋)の主桁の一部にシース沿いの漏水跡が確認されました。


PC橋の損傷状況(左が石原田下橋(下り)桁間詰め部の漏水、右が惣野谷橋(上り線)主桁 シース沿いの漏水)

 ――惣野谷橋は、時代的に上縁定着の橋梁ですね
 米田 そうです。当該橋梁は上縁定着のPC鋼材があり、かつ建設時、床版防水が未施工でした。定期点検後に実施した詳細調査により、当該漏水跡は、舗装面から床版上面に浸水した雨水が更にPC鋼材の上縁定着部からシース外周に浸水し生じたものであり、その水によってシースや内部のPC鋼材を腐食させていることが判明しました。

 これらPC橋上部工に発生している損傷への対応としては、予防保全を基本に、橋面防水層設置による補修が最適であると考えています。各橋の損傷程度から対策工の優先順位を整理し、計画的な補修を進めています。具体的には、舗装修繕に併せて、高性能床版防水工を実施しています。なお、補修後は漏水跡が薄くなり、かつ顕著な損傷進行が抑制され、対策の効果が確認されています。

 ――高速1号線の橋梁の写真を見るとPC橋端横桁等の上部工の他、橋台や橋脚の下部工においてもASRによる劣化の疑いがあるひび割れが出ていますね。私がASRを取材したのが国道2号の海田高架橋ですが、ASR膨張により被りコンクリートが剥落し、スターラップ筋が破断していました。こうした損傷はおしなべて伸縮装置からの凍結防止剤入りの漏水がコンクリート中の反応性骨材と反応し、損傷を招いています。広島高速道路公社でもそうした箇所で損傷が生じていませんか
 米田 1号線の橋梁に見られる、ASR反応と特定している2方向ひび割れについては、顕著な進行が認められないため、現時点では経過観察措置としています。ただし、伸縮装置からの漏水は内部鉄筋の腐食を助長するため、前述したように、順次、二重止水構造の伸縮装置への交換を進めています。


ASRによる損傷事例(左が畳谷橋(上り)橋台竪壁 、右が花見岩下橋(上り)PC 桁端部 横桁)

 ――支承の取替やノージョイント化の予定はありますか。
 米田 現時点で、共に計画はありません。

トンネル定期点検で新技術を試行

 ――新技術やコスト縮減策のなどの活用について
 米田 2022年度から実施しているトンネル定期点検について、通行規制の緩和や、より効率的な点検実施につなげるため、高解像度のラインセンサカメラを搭載した車両でトンネル覆工コンクリート表面の画像撮影を行い、ひび割れ展開図、データシートなどを作成して変状の程度を定量的に机上判定する技術を試行しています。
 引き続き、定期点検においては、損傷個所の判定などの新たな方法は、他団体での実績を踏まえて試験導入し、点検結果の精度を検証しながら高度化を進めたいと考えています。

真砂土分布地域は特に警戒
 豪雨時 まずは利用者の安全・安心を最優先し早めの通行止め

 ――広島で発生した平成30年7月豪雨では、広島高速道路も被災したと聞いていますが、昨今の温暖化に伴う気象変化により生じている水害や土砂災害による道路への影響をどう防いでいきますか
 米田 広島には「真砂土」が広く分布し、水が入ると脆く崩れやすいため、雨の影響を受けやすいという地域特性があります。当公社では1号線と4号線に法面やトンネル坑口付近といった土工区間を有しており、公社の管理区域内に災害が発生する頻度は高くないものの、平成30年7月豪雨では、区域外で発生した土砂災害によって道路へ土砂が流入したために1号線が不通となりました。このため、当該災害における復旧工事に併せて、区域外から道路内への土砂流入を防止するため、土砂捕捉設備を設置しました。


平成30年7月豪雨時の被災状況(1号線)

 当公社での豪雨への対応としては、第一に道路を利用されている方の安全・安心を確保するため、公社が設定した規制基準(雨量)に基づき、通行止めを実施しています。また、災害による通行止めが発生した場合においては、道路維持工事の契約業者等との連携により、速やかに復旧作業を開始できる体制を組んでいます。

 ――ありがとうございました

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