道路構造物ジャーナルNET

中京圏におけるリニューアル工事が本格化

NEXCO中日本名古屋支社 大規模更新、耐震補強が進捗

中日本高速道路株式会社
名古屋支社
保全・サービス事業部長

末吉 寿明

公開日:2023.07.31

ASRは深刻な損傷無し、塩害は凍結防止剤による腐食
 新しい対策方法として亜硝酸リチウムゲル塗布工法を検討

 ――塩害、ASRについて聞きます。ASRは即効性と遅効性のふたつに分かれていますが、それも含めて塩害、ASRへの対応をお願いします
 末吉 ASRは管内で深刻な状態なものは多くありません。中央道および東名の一部の橋梁でASRの影響が出ていますが、現段階でひび割れが進行しているような顕著なものはないので、経過観察としています。
 ――ASRの骨材は特定していますか
 末吉 反応性骨材であることは確認しています。ひび割れが進行しているわけではありません。
 ――収束しているということですか、それとも進行が遅いので大丈夫だと認識しているのですか
 末吉 進行が遅いので、経過観察をしているということになります。
 ――塩害は
 末吉 主に凍結防止剤による腐食です。


塩害による損傷状況
(上段左:中央道松川第2高架橋の主版下面のはく離(A1判定)、上段中、右:東名阪木曽川橋のCo壁高欄の鉄筋露出(A1判定))
(下段左:中央道前沢川橋の床版張出部のはく離(A1判定)、中:中央道松川第1高架橋の塩害による橋脚のはく離(A1判定)、右:同橋主版下面のはく離(A1判定))

 新しい補修手法として、コンクリート断面修復の際に亜硝酸リチウムゲルを塗布する工法(エンジ名古屋・金沢工業大学・ショーボンド建設の共同開発)を検討しています。予防保全的に表面に塗布して、その浸透によりコンクリート内部の塩分濃度を低下させられないかを試行的に行っているものです。塩害で鉄筋まで腐食していると断面修復をせざるを得ませんが、断面修復に至る前の予防保全的に行いたいと考えているものです。中央道の2橋(泉橋、半原川橋)の橋台に塗布し、1年程度検証を実施します。検証内容としては、自然電位測定による方法(チタンワイヤセンサ)と浸透量調査、施工性などです。


亜硝酸リチウムゲルの荷姿、ゲルの外観、塗布状況

中央道の2橋(泉橋、半原川橋)の橋台に塗布し、1年程度検証を実施する

 ――伸縮装置からの漏水対策では止水材の交換や樋の設置、破損ジョイントの交換などがあります。東名などで支間長が短く、ジョイントがたくさんある橋があります。今の技術でそういう箇所はつなげられませんか
 末吉 北陸などでは連結ジョイントを行っていますが、名古屋支社管内では行っていません。
 ――それは構造的に行えないのか、交通量が多くて工事ができないのか、どちらですか
 末吉 単径間が数連あるような場合は、北陸道で行っているRC連結ジョイントはそのまま適用できません。移動量が大きいため、RC連結ジョイントは、単純桁で20m強の片方のフィックスムーブとかの単純なものでほぼ桁の伸縮がないものに適用できるものです。支社管内の東名でジョイントをなくす設計を検討している橋梁はありますが、連続している単純桁の連続化は現在のところ、事業として取り組んでいません。
 ――管内で延長床版を採用する考えはありますか
 末吉 現在はありません。

半断面施工を積極的に採用、弥富高架橋1.6kmの床版取替が12月にも完了
 効率的な現場施工がポイント

 ――支社管内の大規模更新・修繕について具体的に教えてください。また、発注の工夫や施工上の対策、新技術・新工法の活用などについてもお願いします
 末吉 東名、名神が東名阪を含めて50年経過していることが管内の大きな特徴です。中央道、北陸道も40年です。名神、東名阪、中央道、北陸道と40年経過している橋梁が老朽化しており、大規模更新事業を全力で進めています。




床版の損傷状況例(下から2段目右と最下段3枚は井手迫瑞樹撮影)

 施工面の工夫では半断面施工があります。名神や中央道の一部では交通量が多いため、対面通行規制が困難な箇所があります。迂回路がある場合はいいですが、仮にあったとしてもすべて転換するわけではないので、できるだけ車線断面を確保するということで、半断面施工を積極的に採用しているのが、東名阪や中央道です。名神は半断面でも大規模な渋滞が発生するため、中分側が拡幅できるのであれば中分側を有効活用して、全体で4車断面を確保しながら工事を進めているのが特徴です。東名阪道弥富高架橋や中央道深沢橋、名神長良川橋などが該当します。
 東名阪・弥富高架橋では下り側を施工しています。名二環が2021年5月に開通していますので名二環を迂回路として使いながら、半断面施工をしているという特徴があります。弥富高架橋は全体で1.9km、更新延長は1.6kmです。それを連続で施工して、かつ2年間交通混雑期も含め規制ができるのは名二環が開通したからできることです。現在は、走行車線側を完了し追越側を施工しており、今年12月までには下り線1.6kmの床版取替を完了させる予定です。


弥富高架橋(井手迫瑞樹撮影)



弥富高架橋の揚重設備(井手迫瑞樹撮影)

弥富高架橋の床版運搬用軌条設備

 ――本線内のレールもすごいですが、本線をまたぐ揚重機をつくったことが最初、理解できませんでした
 末吉 施工ヤードとして活用できる側道用地があったというのは環境的に恵まれていました。


揚重機は夜間に架設した

 ――他でもこうした手法を活用していくのですか
 末吉 外から資機材を搬入するのは有効な手段だと考えています。車線規制している本線で車を出し入れするのは非効率なので、本線外からの資機材搬入はできる箇所であれば、積極的に採用していきたいと考えています。
 本線への搬入では弥富でも桁の下を抜いて上げる方法もあるので、方法は複数あるかと思います。
 ――例えば東名阪の佐屋、津島の両高架橋も同じ方針で行いますか
 末吉 まだ決まっていません。
 ――ただ、このようなやり方は増えていくでしょうね
 末吉 そうですね。ほとんどの部材を工場で製作し、現地では最小限の組み立てだけになるよう工夫しています。今後の建設現場は、品質の確保・事故の防止・社会的影響の最小化等を踏まえ、効率的な現場施工を検討していく必要があると考えています。

深沢橋 規制延長は約4.5kmに達する
 社会的影響を最小化、路面誘導灯などを使用

 ――代表的な事例を引き続いて聞いていきます。深沢橋について教えてください
 末吉 昨年度に下り線を完了し、今年度に上り線を施工します。特徴は半断面施工で、下り線を2車線確保していることです。土日に渋滞が多く発生し、下り線が渋滞するため、2車線確保する必要がありました。上り線は2車線確保しなくても渋滞が発生しないということもありました。特殊な車線運用を行いながら、渋滞を回避する形で半断面施工を採用して工事を進めていることが特徴です。


深沢橋は合成版桁部やトラス桁のため、床版取替前に補強を必要とした個所もあった

既設床版撤去状況

新設床版の架設状況

 ――この規制は下り線がグレートセパレートになる極めて非日常的な規制です。そのため、相当遠くから規制しないと運転手が非常に混乱すると思います。最近のリニューアル工事は単に床版を取り換える、桁を補強するということに加え、事故が起きない規制計画をうまくつくることが重視されていますね
 末吉 リニューアル工事のポイントはふたつあります。ひとつは技術的にいかに早く施工するかです。もうひとつが、交通規制に伴うお客さまへの影響の最小化です。リニューアル工事の必要性は理解していただいても、渋滞が発生すれば事故も起き、人命に影響しますので、社会的影響を最小化することが大きな軸となります。新たな技術を使って、断面の縮小を抑えながら渋滞を発生させない規制方法を考えることが重要になっています。
 ――これまでのひし形規制ではなくて、規制延長が長くなってもいいから、とにかく事故を起こさないことを重視する方向に動いていると感じています。深沢橋の規制延長4.5kmは長いほうですか
 末吉 長いです。ただ、飯田管内の大沢川橋の床版取替工事(今年春・秋施工)では恵那山トンネルを含む約17kmの規制延長というのがあります。
 ――安全対策で路面誘導灯なども使用していますか
 末吉 使用しています。その他、仮設LED板による注意喚起や、高輝度保安灯の設置、規制テーパー部でのバルーンライト・i光太郎・花子の設置、車線分離標の幅広カバーの装着等規制の視認性向上を図っております。大規模更新事業は取替技術の追求と規制方法の追求が2大テーマになっています。



様々な安全対策

 ――人命を守るという点では仮設防護柵もあります。それを薄くしてフロリダ型と同じ強度をもらせることに力を注いでいますね。数センチ単位で規制幅を減らすことによって安全性を高めることにメーカー各社が競っています。深沢橋などでそういう取り組みを行っていれば教えてほしいです
 末吉 深沢橋については、半断面施工にて床版取替を実施しており、床版取替をしている車線と供用車線の間にコンクリート製のフロリダ製壁高欄を設置できるスペースがない状況です。そこで、1期(先行)施工の時は、既設床版に貫通用アンカー等を設けベースプレートタイプの仮設鋼製防護柵(SB種)※(支柱の幅150mm、ボックスビームの幅150mmの計300mm)を設置することで、半断面施工に必要な幅員を確保しています。2期施工時は、1期施工の新設のプレキャスト床版の内部にアンカープレートを埋込むなど、ベースプレートタイプの防護柵を固定できるような細工を予めしておき、鋼製防護柵を設置することで1期施工同様、必要な幅員を確保しています。



深沢橋の安全対策

名神長良川橋 中分側に桁を設置することで床版取替中も4車線を運用
 木曽川橋でも同様の手法を施工予定

 ――名神長良川橋について教えてください
 末吉 中分側に桁を設置することで6車線断面として、常時4車線を確保し交通運用していきます。


中分側に桁を増設

床版取替機/運搬機/プレキャストPC床版

 ――入れた桁は残置ですか
 末吉 残置する予定です。
 ――事実上、6車運用するということですか
 末吉 4車のまま運用して、幅員が少しあまる形となります。
 ――契約中のなかで特徴ある工事は
 末吉 木曽川は長良川橋とほぼ一緒の施工内容となりそうです。


木曽川橋

木曽川橋床版下面損傷状況

 ――契約中工事のなかには合成桁も多いですか
 末吉 多くなっています。本格的に技術的に施工が難しい箇所にも着手しております。



既設の合成桁は馬蹄形ジベルの撤去に苦労するケースがある(井手迫瑞樹撮影)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム