道路構造物ジャーナルNET

中京圏におけるリニューアル工事が本格化

NEXCO中日本名古屋支社 大規模更新、耐震補強が進捗

中日本高速道路株式会社
名古屋支社
保全・サービス事業部長

末吉 寿明

公開日:2023.07.31

 中日本高速道路名古屋支社は延長947kmを管理している。2021年5月には名古屋第二環状自動車道西南部が開通したことによって橋梁延長が増え、259kmと延長に占める橋梁比は27.3%に達している。管理橋梁数は2,207橋、管理トンネル数は205チューブに達している。また供用中橋梁で40年以上を経過している数は940橋と全橋の約4割に達している。大規模更新も中央道、東名阪道、名神などで床版取替を主とした工事を進めており、トンネルの大規模修繕も恵那山トンネルの着手を見据えている。末吉寿明保全・サービス事業部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

延長947kmを管理 橋梁のA判定は約56,000箇所
 トンネル変状は19,000箇所で確認、野登トンネルで盤膨れが発生

 ――支社管内の橋梁・トンネルの内訳と管理状況について
 末吉 2021年5月に名二環の西南部が開通して、それを含めて延長947kmを管理しています。名二環の西南部はすべて高架橋となり、その分橋梁延長も増え、橋梁の管理延長は259kmとなっています。管理橋梁は2207橋、管理トンネルは205チューブです。
橋種別ではコンクリート橋が1,407橋(RC:601橋、PC・PRC:806橋)、鋼橋(複合構造も含む)が800橋です。供用年次別では40年以上の橋梁が940橋となり、全橋梁の約4割を占めています。さらに30年以上40年未満は174、20年以上30年未満は400、20年未満は693橋となっています。
 管内の道路では橋梁が損傷・劣化する大きな要因として、重交通による疲労と凍結防止剤散布による塩害のふたつが挙げられます。2022年度末では、橋梁でのA判定(変状が進行している判定区分)が約56,000箇所あります(下記グラフ参照、NEXCO中日本名古屋支社提要、以下注釈無きは同)。そのうち、上部工が約半分を占めています。残りは、下部工や伸縮装置周り、支承となっています。
 RC床版の変状では、コンクリートの浮き、はく離などが大部分を占めています。鋼橋についても同じで凍結防止剤を散布していますので、水回りの腐食が進行しています。

 トンネルは在来矢板工法が41チューブ、NATM工法が164チューブです。供用年次別は40年以上が18チューブ、30年以上40年未満が13、20年以上30年未満が43、20年未満が131チューブとなっています。
 トンネルの変状は19,000箇所で確認されていて、覆工部分が約7割を占めています。供用後40~50年が経過したトンネルがあるとともに、一部在来工法のトンネルもありますので、それらの覆工部分で劣化が進行しています。

 ――管内での覆工コンクリートの損傷は在来工法のトンネルでの発生でしょうか。NATMでは
 末吉 基本的には在来工法のトンネルで変状が発生しております。
 ――変状が発生しているエリアは
 末吉 中央道の多治見・飯田管内と北陸道が多く、名神でも変状が発生しています。



トンネル損傷事例
(上左:北陸道長浜トンネル覆工側壁の浮き・剥離、上右:名神今須トンネル漏水樋の破損)

(下左:名神彦根トンネル覆工側壁浮き・はく離、下右:3-2中央道土岐トンネル漏水樋端部からの漏水)

 ――管内のトンネルで開通して数年でインバート損傷があったと思いますが
 末吉 野登トンネルのインバートが設置されていない区間において、盤膨れが発生しています。膨張性のある地層ですが、それほど厚くなく、そこに水が回って、若干の盤膨れが発生しているもので、現在、縦断修正を行うことで対策を行っています。完全に変状が止まっている状態ではないので、できればいずれかのタイミングでインバート設置工を行いたいと考えています。




野登トンネルの損傷状況及び対策状況

 ――覆工コンクリートの損傷は、水みちによるものですか。あるいは、地山の圧によって軸方向に損傷が発生しているシリアスなものもありますか
 末吉 軸方向にひび割れが発生しているのではなく、覆工コンクリートの浮き・はく離が多く、主に水によるものと考えています。
 ――橋梁の損傷は部位的には床版と桁が2~3割となっていますが、下部工13%、伸縮装置17%と高くなっています。要因は水ですか
 末吉 伸縮装置は漏水やフェースプレートの破損が発生しています。下部工は伸縮装置周辺からの漏水や排水管の劣化による水みちで変状が発生しており、主にコンクリートの浮き・はく離が確認されています。

耐震補強 全対象270橋の対策が進捗
 5年耐震は13橋が対策完了、10年耐震も設計を実施中

 ――耐震補強の進捗状況についてお聞きします。管内はNEXCO中日本全社でも一番厳しい状況にあり、名古屋西耐震、名古屋東耐震のような耐震だけで工事区をつくるなど、相当力を入れて取り組んでいると過去の取材で聞きました。それが3年前ですが、。現在の状況は
 末吉 更なる耐震補強ですが、地震によって発生する損傷を限定的なものに留めるということでいわゆる耐震性能2を確保するために、全対象橋梁270橋の耐震補強と落橋防止対策を進めています。現在、この対策については順次、設計・工事が完了しています。以前、大変だと言ったのは数が多いという趣旨だったと思います。特に、名二環は国道302号と並行している部分があり、規制に時間がかかるという課題があります。工事は順調に発注を行っていて、工事を着実に進める段階になっています。


耐震補強の進捗状況(RC巻立て工)

鋼板接着工(左、中)、炭素繊維補強工(右)

 ――対象橋梁270橋のうち、工事完了が13橋という事ですが、残り257橋は何年で対策を完了させる計画ですか
 末吉 5年程度で完了させる予定です。3年前は発注もできていなかったので、どのように進めるかという状況だったと思いますが、現在は順次、設計も発注も進み、着手ができている状態です。設計業務も以前に比べれば受注状況は良くなっています。ただし、耐震だけでなく大規模更新事業等もありますので、コンサルタント会社も業務が多くなっています。
 ――設計の進捗状況は
 末吉 26%以上の地域に位置する橋梁(5年耐震)の設計はほぼ完了しています。10年耐震も契約が概ね完了しています。
一方、橋脚補強が完了している橋梁は、路面に大きな段差が生じることを防ぐ支承逸脱対策を上下線いずれかを優先して進めていきます。対象は55橋です。23橋が対策実施済みで、今年度に8橋が完了します。
 ――対象となる55橋の6割程度は完了しつつあるということですね。
 末吉 そうです。
 ――今後の耐震補強対象には長大特殊橋も含まれていますか
 末吉 更なる耐震補強に含まれています。
 ――長大特殊橋の場合は下部工や支承のみでは対策が完了しない可能性があります。トラス橋やアーチ橋は桁の補強もする必要があると思います。それは順次、進めるのでしょうか
 末吉 解析・照査の結果、必要に応じて制震ダンパーや座屈拘束ブレースの設置を行っています。
 ――ロッキングピアとロッカーピアの耐震補強については
 末吉 ロッキングピアは上下のヒンジ部をラーメン化する方式で全橋を完了しています。ロッカーピアは未対策の橋梁もありますので、今後具体的な対策を検討していく必要があると考えています。

長大・特殊橋耐震 25橋中9橋が対策済み 大規模更新とセットも
 名港トリトン 西(上り)は完了、東・中央がこれから

 ――長大橋の耐震補強について。中央道と桑名管内に多く、とくに中央道はスレンダーな橋が多く、耐震補強は大変だと感じています。それらも含めてお願いします
 末吉 長大・特殊橋の耐震補強の進捗状況は全25橋のうち、9橋は対策済みとなっています。比率では約4割となります。上部工のリニューアル工事を実施する橋梁はセットで耐震補強を進めています。例えば、深沢橋や落合川橋(対策完了)があります。

 ――特徴的な橋梁は
 末吉 名港トリトンになります。工事を進めている橋梁もあれば、設計を進めている橋梁もあります。特殊橋梁なので、制震ダンパーなどの設置やゴム支承への変更などの対策を行っています。中央道にはトラスなどもありますが、ダンパーの規模で考えると、名港トリトンとは規模が大きく異なります。


名港西大橋の主桁補強/免震支承への取替

名港西大橋のダンパー設置工

名港中央大橋:支承取替・補強前

同 鉛直支承交換のためのジャッキアップ状況(左、中)、鉛直支承撤去状況(右)

同 鉛直支承設置状況(左、中2枚)、設置完了状況(右)

同 水平支承搬入状況/取付状況/設置状況/設置完了状況

同 ダンパー横梁設置状況/同設置完了状況/ダンパー設置状況/ダンパー設置完了状況

名港東大橋の既設支承(左:ウインド支承、中:水平支承、右:鉛直支承)

名港東大橋 新設支承への取替状況

 ――伊勢道・伊勢橋はRC6径間連続充腹アーチですが、今、充腹アーチはいろいろなところで問題になっています。水が充腹アーチのなかに入り、路面が沈下する変状が発生していて、補強・補修方法が課題になっています。現在は路面を嵩上げすることで対応している。伊勢橋はどのような補強・対策を行うのですか
 末吉 伊勢橋は橋梁全体系での解析・照査の結果、橋脚補強が必要であったことから、RC巻き立て等の補強を実施しました。また、伊勢橋では路面を含めた変状報告はありません。


伊勢橋:補強前(左)、補強後(右)

 ――充腹アーチは支社管内では他にありませんか
 末吉 名古屋支社管内では伊勢橋のみです。
 ――補強が完了した名港西(上り)は取材しましたが、東・中央についてもどのような補強をするのか教えてください
 末吉 基本的にはほぼ同じ考え方で、制震ダンパー設置、ゴム支承への変更、主桁補強が主な対策になっています。主桁補強は座屈を防止する補剛材などを設置し、鋼部材を補強するものです。
 ――主塔の補強は
 末吉 主塔の補強は行っていません。補強は不要となっております。

健全度遷移 橋梁は約6%、トンネルは約4%がⅡからⅢに
 水回りで損傷が拡大、桁端防水や端部水洗いなどで対策

 ――修繕計画に基づいた進捗状況と具体的な損傷状況について
 末吉 40年以上経過している橋梁で健全性Ⅲが増えていることが大きな傾向です。上部工はコンクリート床版や桁に多く変状が発生しています。コンクリートの変状は断面修復、鋼橋は当て板での対策を進めています。健全性Ⅲについては5年以内の措置としていますので、計画的に5年以内に措置が完了している状況です。

 ――御社全体では1回目点検でⅠやⅡだったものが2回目点検でⅡやⅢに遷移する橋梁がかなりあることでしたが、支社管内は
 末吉 支社管内では、橋梁において1巡目でⅡ判定以下だったものが、2巡目ではそのうち約6%がⅢ判定に進行していました。トンネルでは、2巡目で約4%がⅡからⅢになっていました。傾向としては、全社同じような割合になっています。Ⅱに対してすべての措置ができているわけではないので、それで進行しているという傾向はあります。
 ――具体的にどのようなところで遷移しているかは把握していますか
 末吉 水回りで凍結防止剤を散布している箇所の劣化が進行して範囲が広がり、若干構造体に影響を及ぼす可能性があるということで、Ⅲに進展しているのがほとんどです。
 ――橋梁の場合、健全性の遷移を考慮して予防保全で考えていることはありますか
 末吉 早い段階での防錆処理や断面修復が基本だと思います。計画的に断面修復などは行っていますが、Ⅲ対応を優先することや、大規模修繕事業による床版防水工を行い、予防保全を早期に実施していく必要があると考えております。また、今後変状が加速度的に進展する可能性が高い40年未満の橋梁に対する予防保全を実施していくことが重要であると考えております。
 ――伸縮装置からの損傷が多いと思いますが、小さい橋梁では伸縮装置の対応は難しいと思います。新設ではコンクリートでも桁端に塗装するなどの対策をしていますが、それを既設にも採用することは考えていますか
 末吉 コンクリート橋の大規模更新事業では桁端被覆を塗装系で対応する予定です。パラペットや沓座周りが塩で損傷しているものがあり、損傷・劣化の著しい支承の取替を行いつつ、桁端防水を行うようにしています。


伸縮装置の損傷状況

伸縮装置からの漏水による損傷状況

支承の防錆処理(弥富高架橋)

 数ある補修の中から、優先度をつけて行うようにしています。そのなかでも、漏水を要因とする損傷は優先すべき補修箇所であると決めています。排水関係の補修を優先することによって、劣化を抑えることができると考えています。補修は完全に治すこともありますが、水みちをできるだけ絶っていくという地道な努力も続けています。
 ――NEXCO各社で桁端の水洗いを行っていると聞きていますが、中日本でも行っていますか
 末吉 行っています。特に凍結防止剤を散布する地域である中央道や名神、東海北陸道では洗浄による予防を行っています。


水洗い状況

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