道路構造物ジャーナルNET

橋梁1,968橋とトンネル139本を管理

山梨県 整備中の新山梨環状道路(東部区間2期)の橋梁比率は83%

山梨県
県土整備部長

飯野 照久

公開日:2022.11.28

供用後50年以上経過している橋梁は全体の35%
 トンネルでは29%で、2040年度末には59%に達する

 ――保全事業について。管理橋梁の内訳は
 飯野 1,968橋(2020年3月時点)を管理していて、鋼橋が699橋、PC橋が452橋、RC橋が637橋、その他が180橋です。供用年次別では50年以上経過している橋梁が全体の35%を占め、2030年度末には54%となります。そのため、計画的に対策をしていくことが重要となっています。
 延長別では、15m未満が961橋と全体の49%を占めており、15m以上は1,007橋(約51%)です。管理橋梁で最長のものは、県道甲斐早川線の信玄橋で橋長516mです。路線別は、一般国道474橋、主要地方道775橋、一般県道719橋となります。
 ――トンネルについても
 飯野 管理トンネルは139本(2021年3月時点)です。工種別は、NATM工法68本、矢板工法68本、現場打ちボックスカルバート2本、開削工法1本となります。供用年次別では、50年以上経過しているトンネルが全体の29%となっており、これが2030年度末には42%、2040年度末には59%に達します。
 延長別では200m未満が71本、200m以上~500m未満が53本、500m以上が15本で、最長のトンネルは、本県と埼玉県に跨る国道140号の雁坂トンネルで延長6,625m(山梨県側3,444m)です。路線別は、一般国道51本、主要地方道63本、一般県道25本となります。


建設年度別橋梁数(左)/供用年別トンネル数(右)

橋梁 Ⅲ判定が110橋、Ⅱ判定が1,160橋
 トンネル Ⅲ判定が45本、Ⅱ判定が79本

 ――橋梁とトンネルの定期点検結果を教えてください
 飯野 直近5年間(2016年~2020年)の点検結果で、橋梁ではⅠ判定が618橋、Ⅱ判定が1,160橋、Ⅲ判定が110橋、トンネルでは、Ⅰが12本、Ⅱが79本、Ⅲが45本です。いずれもⅣ判定はありません。
 ――点検を進めてみての橋梁とトンネルの劣化状況について教えてください
 飯野 橋梁は主構、伸縮装置、支承、下部工、塗装など、全般的に損傷が確認されています。山間部の寒冷地で凍結防止剤を大量に散布せざるを得ない箇所では、塩害・凍害が発生していますし、ASRも確認されています。大型車両の通行が多い一般県道では一部疲労対策が必要な橋梁もあります。Ⅲ判定は、山間部の橋梁に多くなっています。
 トンネルは、覆工コンクリートをはじめとした材質劣化による変状が多く見られています。浮き、はく離、はく落、ひび割れなどがあり、浮き、はく離、はく落が全体の約7割を占めています。背面空洞が調査により確認されているトンネルもありますが、数はそれほど多くありません。


損傷事例。(主)北杜富士見線 東沢橋(左)/国道358号 右左口トンネル(右)

2016年~2020年点検でⅢ判定の橋梁は2021年度末までにすべて着手済み
 橋梁の対策進捗率は全国で7番目

 ――定期点検結果にもとづいた対策の進捗状況は
 飯野 直近5年間(2016年~2020年)の定期点検でⅢ判定となった110橋のうち、2020年度末時点で76橋が着手済み(設計を含む)、49橋で対策が完了しました。さらに、2021年度末にはⅢ判定の110橋すべてで着手済みとなっています。
 トンネルは、Ⅲ判定45本のうち、着手済みが44本、対策完了が37本となっています。
 ――対策の進捗状況が全国平均よりも高くなっていますね
 飯野 橋梁では全国で7番目に高い進捗率になっています。橋梁長寿命化計画に則り、かなり早い時期から計画的に取り組んできた結果だと考えています。
 Ⅲ判定の橋梁については、定期点検において発見された対策区分C2(橋梁構造の安全性の観点から速やかに補修等を行う必要がある)以上の損傷に関して、速やかに補修計画を立て次回点検までに補修することを基本としています。特に対策区分E1(梁構造の安全性の観点から緊急対応の必要がある)、E2(その他、緊急対応の必要がある)の損傷は緊急的に対策を講じることとしています。
 また、Ⅱ判定の橋梁についても予防保全の観点から速やかに対策を講ずることが望ましい橋梁であり、計画的な補修を行うことにしています。
 トンネルについても同様で、対策は順調に進んでいます。
 ――具体的な対策事例は
 飯野 県道北杜富士見線の東沢橋(橋長90m、中央径間:上路アーチ橋/側径間:単純非合成鈑桁橋)では、床版上面の土砂化、床版下面のひび割れ・遊離石灰などの損傷が確認されたため、床版防水工や床版打換工、ひび割れ注入工などによる床版補修を行い、伸縮装置の交換も実施しました。


東沢橋での床版補修

 ――経年劣化や疲労などによる上部工補修・補強の2021年度の実績は。また、床版防水の施工状況は
 飯野 23橋で実施しています。主に経年劣化(防食機能劣化)による塗装塗替えになります。その他、ひび割れ補修、断面修復などを行っています。
 鋼床版の橋梁は48橋(歩道橋を除く)あり、直近5年間の定期点検では、そのうちの8橋の床版にボルトのゆるみ・脱落、防食機能の劣化などが確認されていますが、疲労き裂損傷は確認されていません。
 床版防水は舗装の補修時に新たに施工しています。施工状況については、古い橋梁で把握が難しく、全体的な把握はできていません。舗装や床版下面の損傷状況を見ながら、舗装補修時には基本的には床版防水を塗布系で施工して、防水機能を強化する方針で進めています。

鶏冠山大橋の防護柵で塩害による損傷が発生
 耐震補強 緊急輸送道路上の対象橋梁は520橋で51%が完了

 ――塩害とASRによる損傷事例対策についてお願いします
 飯野 塩害では、国道140号の鶏冠山大橋で防護柵に損傷が発生していましたが、補修工事は完了しました。損傷は防護柵のみで地覆などでは確認されていません。


鶏冠山大橋。塩害による防護柵の損傷と補修工事後

 ASRについては、県道川窪猪狩線の高町沢橋で確認されています。A1橋台で広範囲にわたり亀甲状のひび割れが発生し、エフロレッセンスの滲出が見られます。骨材由来とともに壁式橋台で部材厚が非常に薄いためと考えています。補修工事を今年度に亜硝酸リチウム内部圧入工法を採用して施工する予定です。


高町沢橋。A1橋台の状況

 ――耐震補強の進捗状況と施工中もしくは施工予定の長大・特殊橋の耐震補強事例がありましたら教えてください
 飯野 跨線橋、跨道橋を含め緊急輸送道路上の橋梁で、耐震化が必要な橋梁は520橋です。そのうち、2021度末時点で263橋(51%)の耐震化が完了しており、2027年度までに100%を目指しています。
 具体的な事例としては、国道140号の西沢大橋(橋長360m、5径間連続V脚ラーメン橋)で耐震補強工事を進めています。当て板や水平補剛材の追加、粘性ダンパーの設置、コンクリート巻き立てなどを実施します。工期、工種を分けて施工していて、現在は上部工の耐震補強を進めています。


西沢大橋での耐震補強工。左から1枚目と3枚目が施工前、2枚目と4枚目が施工後

耐震補強全体一般図

 ――支承および伸縮装置の取替えについて2022年度の施工(予定)箇所数は
 飯野 支承と伸縮装置の両方を取替える橋梁が7橋、支承取替えが2橋、伸縮装置取替えが19橋となります。
 ――2022年度の鋼橋の塗替え実績・予定を教えてください。また、塗替え時に金属溶射などの新しい重防食の採用事例はありますか
 飯野 3,550㎡を予定しています。そのうち、峡南地方の富士川に架かる飯富橋の施工面積が最大で1,246㎡です。金属溶射などの採用はありません。


(主)北杜富士見線 東沢橋の塗装塗替え。左が施工前、中央と右が施工後

 ――PCBや鉛など有害物を含む既設塗膜の処理については
 飯野 塗膜処理は1種ケレンにより行い、PCBなどを含有する既設塗膜の処理方法としては「研削材再利用式ブラスト工法」を有効な技術として考えています。有害物質については法令に則り、廃棄物を確実かつ適切に処理しています。
 ――耐候性鋼材を採用した橋梁の健全度について
 飯野 採用橋は155橋で、Ⅱ判定が40橋、Ⅰ判定が115橋となっており、Ⅲ・Ⅳ判定はありません。部材についても損傷は見られていません。

のり面対策箇所は122箇所 41箇所の対策が完了

 ――全国的に異常気象による土砂災害が相次いでいるなかで、のり面などの防災対策でどのような取組みを行っていますか
 飯野 急峻な地形に囲まれているため、県外につながる道路が限られています。そのなかには雨量規制区間もあるので、大雨時には通行止めをせざるを得ません。また、県境に近いほど要対策箇所が増えています。緊急輸送道路や雨量規制区間などを中心に122箇所を優先的なのり面対策箇所として抽出し、2021年度までに41箇所の対策が完了しています。
 全国で国土強靱化が進められていますが、本県の長崎幸太郎知事も県土強靱化のなかで交通インフラの強靱化を緊急のものとして考えており、災害に強い道路ネットワークを構築するという大方針のもと、要対策箇所の整備を優先的に進めています。
 具体的な事例としては、国道358号の甲府市古関町地区でのり面のモルタル吹付と鉄筋挿入工を実施しています。


国道358号 甲府市古関町地区でののり面対策(施工前と施工後)

 ――新技術・新材料の採用がありましたら教えてください
 飯野 国道358号の精進湖隧道で、NSメッシュ工法を採用しました。導水シートとFRP形状保持帯をアンカーで固定する漏水対策(導水桶)工法で、斫りが不要でコンクリート剥落防止にもなります。目地劣化部の剥離対策で予防保全的に施工しましたが、現在、漏水が確認されていることから本工法を採用して対策工を進めています。


NSメッシュ工法の採用事例

中小建設会社のICT活用拡大を講習会などの開催により目指す

 ――最後に、ICT活用の取組みについて
 飯野 ICT活用は生産性向上のために必須となっていますが、正直、県内中小企業の取組みは進んでいないのが現状です。中小の会社は受注規模も小さく、ICT活用による生産性向上さらには採算性向上がイメージできないという課題があります。その状況のなかで、i-Construction推進連携会議が中心になって、測量・設計、施工会社などの意見も聞きながら、ICTの施工機械を使えるモデル現場をつくり講習会を開催するなどの支援を行っています。そこでICTの有効性や効率性など価値を見出してもらうことで、ICT施工技術の普及拡大を目指していきます。


ICT講習会(左:ICT体験フィールド/右:道路改良現場)

 ――ありがとうございました
(聞き手=大柴功治)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム