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新たに大野島IC~諸富IC間1.7kmが11月に開通

有明海沿岸国道 大川佐賀道路と三池港IC連絡路を全面展開

国土交通省
九州地方整備局
有明海沿岸国道事務所
所長

新保 二郎

公開日:2022.10.31

 国土交通省九州地方整備局有明海沿岸国道事務所は、福岡国道事務所、佐賀国道事務所、熊本河川国道事務所の3事務所で所管していた有明海沿岸道路の一体的かつ効率的な整備・管理を行うため、九州初の3県を管轄する国道事務所として、平成31年4月に新設された事務所である。総計画延長は55kmであるが、現在は直轄施工分36.5kmのうち、27.5kmを供用して管理を行っており、さらには大川佐賀道路9km、三池港IC連絡路の2.7kmを施工中だ。11月12日には新たに大野島IC~諸富IC間の有明早津江川大橋や諸富高架橋を含む延長1.7kmが開通する予定である。有明海沿岸国道事務所の新保二郎所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

沿線80万人都市圏の実現
 三池港IC連絡路は橋梁が半分弱を占める

 ――有明海沿岸国道事務所は設置されてまだ新しい事務所です。以前は有明海沿岸道路出張所として福岡国道事務所の出先機関でした。現在の役割について教えてください
 新保所長 当事務所はこれまで福岡国道事務所、佐賀国道事務所、熊本河川国道事務所の3事務所で所管していた有明海沿岸道路を一体的かつ効率的な整備・管理を行うため、九州初の3県を管轄する国道事務所として、平成31年4月に新設されました。
 当事務所は、有明海沿岸道路に特化したプロジェクト事務所です。3県に跨る特性を踏まえ、これまでに培ってきた地元などとの信頼を大事にしつつ、関係機関と連携してスピード感のある道路ネットワーク整備、着実な道路管理に取り組んでおります。また、有明海沿岸の地域特性である有明海苔などの産業や、文化遺産へも十分に配慮しながら事業を推進しています。
 ――では、まず整備事業について管内の地勢的特徴と道路の現状及び整備方針について教えてください
 新保 有明海沿岸道路は、熊本県熊本市から有明海北部沿岸を通り、佐賀県鹿島市に至る高規格道路で、現在約37.5km(直轄整備区間では福岡県側約27.5km、佐賀県整備区間では約10km)が開通しています。有明海沿線80万人都市圏の実現を図るべく今後も道路整備を進めていきます。
 ――80万人都市圏とは
 新保 九州佐賀国際空港や重要港湾の三池港、そして既存の道路ネットワークといった陸海空の交通を有明海沿岸道路が繋ぐことで各々の都市が一体となった都市圏の形成を目指します。
 ――事務所の所管について改めて具体的に示してください
 新保 大川佐賀道路は、延長9kmのうち橋梁延長は3.7km(トンネルは無し)と構造物比率は41%に達します。現在は大野島IC~諸富IC間の有明早津江川大橋や諸富高架橋を含む延長1.7kmの施工を進めており、今年11月12日に開通する予定です。


有明早津江川橋(井手迫瑞樹撮影)

 また、諸富IC~(仮称)川副IC間1.1kmは地盤改良工事を推進しています。
 熊本県側の三池港IC連絡路は今年1月から工事着手し、IC橋の下部工工事および(仮称)大島高架橋の下部工工事を推進しています。


大島高架橋下部工工事

 ――三池港IC連絡路の橋梁はどのような形式ですか
 新保 (仮称)大島高架橋が橋長845m、IC橋が2橋あり296mとなっています。PC橋と鋼橋を両方採用しています。佐賀地域に比べると基礎地盤は支持層となる基盤岩が深度10~20m程度と浅い位置に分布していることから、杭基礎を基盤岩に支持させる形式を採用しています。


基礎の施工(深層混合処理 エポコラム工法)



三池港IC連絡橋下部工 施工状況

 ――橋梁部の橋ごとの基礎、上下部形式(径間数含む)を教えてください
 新保 (仮称)大島高架橋は、基礎は場所打杭基礎、下部工は門型橋脚を採用しています。上部工は単純PC単純ポステンT桁橋、PC7径間連続中空床版橋、PC6径間連続中空床版橋、鋼3径間連続鋼床版箱桁橋、鋼5径間連続非合成鈑桁橋、PC3径間ポステンT桁橋と形式は多岐にわたります。
 (仮称)三池港IC橋は橋長171mで、基礎は場所打杭基礎、橋脚は逆T式橋脚を採用しています。上部工は鋼単純非合成箱桁橋+PC3径間連結コンポ橋です。また、(仮称)三池港IC南橋は橋長125mで、基礎は場所打杭基礎、橋脚は逆T式橋脚、上部工はPC3径間連結ポステン少数桁橋を採用しています。

有明粘土層との戦い
 

 ――有明海沿岸道路は軟弱地盤との戦いといっても過言ではない道路です
 新保 本道路での軟弱地盤上の高盛土や長大橋などの建設は、全国でも例の少ない取組みであり、軟弱地盤に対する各構造物の安全性の確保、周辺環境への影響などへの配慮、建設コストの縮減などの様々な課題への取組みも行われました。
 というのも、有明粘土層と言われる非常に柔らかい粘土主体の地層が、福岡県側で層厚10m程度、佐賀県側に向かって層厚は徐々に厚くなり20m程度分布する地域です。そのため、盛土施工時は過大な沈下、供用後は道路の走行性に悪影響を及ぼす様な長期的な沈下や段差の発生、掘削時には掘削法面の崩壊が懸念されるような地盤です。このような地盤において、経済的かつ品質の良い土構造物を建設するには、地域の地盤特性を考慮し、目標となる設計水準を定め、その水準で対策工法の設計・施工を行う必要があると考えています。


有明海沿岸道路 福岡県側と佐賀県側の軟弱地盤層の比較

 道路の概ね半分は、橋梁形式により建設されています。橋梁には、斜張橋やアーチ橋、連続高架橋など、地域の様々なランドマーク的な存在となる構造の橋梁が建設されています。
 さらに佐賀側に入ると軟弱層厚が厚くなる、かつ粘土層中に砂層を介在するなど地層構成が複雑になり、フローティング形式の地盤改良を採用することが難しくなってきます。
有識者にも話を聞いて、佐賀側は洪積層が深度20数mから分布するので、軟弱な沖積層の下端部に分布する洪積層を狙って、改良杭も着底させています。

 ――徳島河川国道が施工した新町川橋を思い出します。同橋は、杭長70mに達する鋼管矢板井筒基礎がありました。地盤の中で潮の干満があり、高さを2段で分けて施工する手法を当初選択しましたが、全周を1段打った後に2段打ちをしようとしたら動かなくなりました。結局、1本ずつ抜いて、全長70mを1回で打ち直すことを繰り返しました。有明海沿岸道路でも杭の打設時に潮汐が悪影響を与えているケースはありますか
 新保 それはあると思います。矢部川大橋でも沈下計があった時に確認したデータでは、潮の干満によりミリ単位で橋梁自体が動いています。有明筑後川大橋、有明早津江川大橋も鋼管矢板井筒を採用して、施工基面から約50m打っていますが、相当苦労したと聞きました。最初の1本目の施工でさえ、なかなか貫入できず、鋼管には接続のためのかみ合わせがついているので回せない状況で、まっすぐ打っていくのはすごい技術だと思いました。但し、一旦慣れてくればある程度スムーズに施工できるようになったようです。

有明早津江川大橋は中路式のアーチを採用
 ケーブルは鉛直配置、形状も緩やかにし、色彩は裏葉色を用いる

 ――有明筑後川大橋、有明早津江川大橋の上部工も非常に架設が難しい橋でした
 新保 鋼重は有明筑後川大橋が約6,500tあり、有明早津江川大橋が約6,000tです。それぞれはデ・レーケ導流堤や、三重津海軍所跡地に配慮した設計・施工を行いました。


有明筑後川大橋と有明早津江川橋、ケーブル配置の違いも特徴だ(井手迫瑞樹撮影)

 ――事業中区間としては有明早津江川大橋が該当しますが、その特徴について詳細を教えてください
 新保 同橋は大野島IC~諸富IC間の有明早津江川大橋に架かる橋長854mの橋梁です。渡河部の延長は約450mで、上部工形式は鋼4径間連続中路式アーチ(鋼床版)となっています。
橋の構造形式を決定するに際しては、三重津海軍所跡地や筑後川昇開橋などの周辺風景、歴史遺産に十分配慮する必要があるため、学識経験者などで構成される委員会を立ち上げて検討を重ねながら構造及び色彩を決定しました。


有明早津江川橋P3-P7径間 橋梁一般図

別角度から見た有明早津江川橋(井手迫瑞樹撮影)

 特徴は緩やかなアーチ形状により、軽快感や広々とした周辺環境との調和、三重津海軍所跡地への圧迫感の軽減のため橋脚を低くして1つのアーチを橋脚上で2本に分岐するという、単弦の単径間バランスドアーチ橋を採用しました。色彩についても、三重津海軍所跡地に広がる緑や落ち着きのある空間に調和する淡い裏葉色(うらはいろ)としています。ケーブルも透明性を高くするため鉛直配置としました。
また、曲線を有する橋梁であり、桁高が3.5mと高く風の影響を受けやすい構造となっているため、桁側面にフェアリングを設置し、耐風安定性を確保しました。


フェアリング(井手迫瑞樹撮影)

 ――周辺は海苔の養殖地やエツの漁獲への影響を考慮しなくてはいけませんでしたね
 新保 そうです。そのため下部工は海苔養殖への影響を考慮して、漁協の皆様にもご理解を頂きながら、コンクリートの打設が養殖時期と重ならないようにしました。また、構台上の作業環境の改善、および泥土による河川汚濁を防止するため、鋼管矢板の中掘施工においては、オーガーを逆回転させて土砂を管内に残す方法を実施し、河川内に泥土を流出させないように施工しました。

埋蔵文化財に配慮してベント位置、梁形式を採用
 補剛桁は送り出し架設、3Dプリンターで模型作製し構造を見える化

 ――上部工施工での配慮事項は
 新保 P5~P6の補剛桁架設時は、三重津海軍所跡地の埋蔵文化財調査結果に基づいて、ベント基礎杭の施工位置を設定し、トラス構造の大梁を採用するなど、文化財への影響が無いように配慮して施工を進めました。
 スプリンギングおよびアーチと補剛桁との結合部については、特に構造が複雑でブロック分割が難解であったアーチ結合部について、製作開始前に3Dプリンターで縮小模型を作製して構造を見える化し、製作および架設検討における課題の抽出に活用しました。


非常に特徴のあるスプリンギングを有する(井手迫瑞樹撮影)

 P4~P5径間に位置する早津江川は、工事期間中の航路幅を50m確保する必要があり、航路内にはベント設備などの設置が出来ないため、補剛桁は送り出し架設を採用しました。航路閉鎖を伴う上空での架設作業は、漁船の航行量が多くなる海苔漁の期間(9~3月)を避けて行うなど、河川利用者に対する影響を最小限にしました。
 現在は舗装工事を進めています。

 ――鋼床版のため、基層グースの施工も工夫していましたね。また振動騒音を減らすため特殊なジョイントも使っていますが、その内容を教えてください
 新保 グースアスファルト舗装は、耐流動性、耐耐久性、たわみ性を高めたもののため、夏季の施工となったがなるべく気温の低い時間になるように調整していました。また、クッカー車の台数が限られているため、確保した台数に見合った効率的な施工サイクルを作成し、グースフィニッシャーを用いて施工を行っていました。



鋼床版上のグースアスファルト施工(井手迫瑞樹撮影)

同舗装施工状況

 施工打ち継ぎ目については鉄コテを用いて人力で入念に摺り付けを行っていました。
 ジョイントについては設計伸縮量330㎜、最大遊間長570㎜であり、大型の鋼・ゴム製伸縮装置を設置しました。特殊な断面構造や荷重支持構造の効果で車輪衝撃力を緩和して、耐久性を高めることが特徴です(伸縮装置製品名:SJジョイント(大遊間対応型)、右写真(井手迫瑞樹撮影))。

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